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吸血姫と少女  作者: アオイユウヒ
5/18

変態とこれで最期の・・・

‥‥‥‥‥それでは次に、桜田坂科学研究所から依頼のあった薬品の投与実験だ。


視界が真っ赤に染まっている‥‥‥苦しくて苦しくて、体が爆発するんじゃないかと思った。過去にガスが溜まりすぎたとか言って爆発したことがあった気がする。

何回だったっけ?けれど今回は爆発しなかったみたいだ。


その代わり記録をとり終わったらしい人間たちは、次は義肢の性能テストの依頼だ。とか言って義手や義足を持ってきた。手足がない人につけるために設計されたそれは、手足があると付けられない。

人間たちは慣れたしぐさで何やら大きなものを取り出したかと思ったらそれで私の四肢を切断していった。すかさず傷口に何かを押し当てるとそれぞれ義足義手を取り付けていった。自動で動く最新式がどうだの言っていたが誤作動を起こしたらしく、膝の部分が逆に曲がっていった。


そんなところでようやくこれは夢だと気づいた私、十年前のあの時からずっと見てきた夢だからわかる。この夢は、夢だと分かった後でも覚めてくれず、まして自由になんて動けない。そのとき、早く終わってくれと祈ることしかできない私を誰かが抱きしめてくれた気がする。なんだろう、すごく暖かくて、優しい感じ‥‥‥‥‥


「ライラさんおはようございます。うなされてたみたいですけど大丈夫ですか?」


目を開けた私の目と鼻の先には心配そうにこちらを見つめるリリーがいた。

どうやらうなされている私を、添い寝しながら抱きしめてくれていたらしい。


「前にライラさんがしてくれたみたいに私も抱きしめてみました。少しは落ち着けましたか?」


この子は本当に優しい子なんだな……。

いつもなら私に抱き着くはおろか、横で寝るだけで恥ずかしがっていただろう。

でも今は、私のことを心配してそんな考えがどっか行ってしまっているみたい。

優しく微笑みながらその私より小さな身体で抱きしめてくれた。


「ありがとう、ちょっと嫌な夢を見ていただけだから。でもリリーちゃんのおかげで落ち着けたわ。」


「‥‥‥」


まだ心配なんだろう、抱きしめていた腕を解いた後も横になっている私に寄り添うようにしてくれている。

ふっふっふ、これはどうやら私がもう心配いらないとアピールする必要があるようだ。これはリリーちゃんに安心してもらうために必要なことなのだ。

そう、必要なこと‥‥‥


「リリーちゃん、そんなところで寝そべってるってことは誘ってるってことでいいのよね?」


まるでクズ人間のようなことを言い始める私。

※私がクズ人間というわけではない。


「ふぇ?ちょっとライラさん!私誘ってなんかいなっ!!?~~~っ!!

 どこ触ってるんですかーーーー!!!!」


リリーちゃんの身体をまさぐる。脚、おへそ、腰、わき腹、胸、首、耳までもの

すべてが私のキリングレンジである。本気で抵抗しているように見えるが、私の手からは逃れられていない。きっと嫌も嫌よも好きの内いう奴だろう。リリーちゃんの心理を的確に見抜いた私はその手を加速させていく‥‥‥。


「やぁん、ライラさん、手を止めて……ん、んんっ……」


リリーの声色が変わり始めた。なんだろうこの感じ、嫌よ嫌よも好きの内定理に従えば合意の上のはずなのに、この無理やりしてるかのような違和感は・・・

ゾクゾクしちゃう……


恐怖と欲求の表情をとろけた顔に張り付かせるリリー。

抵抗の手も徐々に弱まってきていた。

私は嗜虐心をくすぐられて……



「うるさあああああああい‼もう何時だと思ってるんだい!?早く降りてこないと朝食下げちまうわよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


昨日のおばちゃんの声が宿屋中に響いた。

リリーはハッとした表情になると、びっくりして固まっていた私の手の中からするりと抜け出して、髪と衣服を軽く整えると私の手を引いて一階にある食堂へそそくさと向かった。


食堂の窓から外を見るともう日はすでに高く昇っていた、地球で言うともう十時過ぎぐらいだろうか。食堂で怒髪天を衝いていたおばちゃんも、もう十時過ぎだよ!とか言っていたのでこの世界でも時間の数え方は同じだと思えた。


おばちゃんはすでに冷めてしまっていた料理を軽く火を通し温めてから、いろいろ文句を言いながらも私たちの着いた席に運んできてくれた。喧しいところもあるけれど、かなりいい人だと思う。ただその喧しい部分は料理を運んできた後も、結構私たちに苦情を言ってきた。


「なかなか起きてこないもんだから人が心配してやってたのに、急に朝パラからイチャコラするもんだから腹も立つってもんよ。ほかの客がもう朝食とっておのおの仕事なりなんなり行ってるっていうのに、あんたら来たらせっかくこっちがとっといてやってる朝食を無視してイチャコラ‥‥‥」


同じ文句が二回出てきてループに入りそうだったから話を料理にそらしていく


「この炒飯ってニンニク入ってますよね?」


大量の炒飯と明らかに量の多いニンニク‥‥。


「あぁ、もちろん入ってるよガーリック炒飯だからね。最近の小娘たちは息が臭くなるとかで食べなかったり、朝からは重いとかわけのわからないことを‥‥‥」


おばちゃんは結局長くなった話をしたあと厨房のほうに戻っていった。もしかしたら洗い物でも残ってるのかもしれない。


長い話だったけれど、どうやら昨日の私たちが少し疲れているように見えて元気になって欲しかったらしい。リリーちゃんも最初は物怖じしてた様子だったけれど、おばちゃんの心遣いを聞いて完食しなければと思ったのか果敢に挑みかかっている。


「そういえばライラさんニンニク料理が好きって言ってましたよね?」


口休めをしてるリリーが、私の自己紹介を思い出して確認を取ってくる。


「そうだよ、昔は嫌いというかもう食べるだけで身体が燃えるように熱くなっちゃ

うから嫌いだったんだけどね」


「えー!?重症じゃないですか!でも今は大好きってことはもうその症状は起こらないんですよね……」


なにが原因だったんでしょう……とぼやくリリーちゃんの誤解を解いてあげる。


「別に治ってるわけじゃないよ?」


「え?どういうことですか?」


「なんかね、苦しくなっても食べ続けるうちに身体が焼きあがりそうになっちゃうのがクセになっちゃってね・・・。」


今もこの肢体を熱くしてる私に、リリーちゃんがなにか手遅れの人を見るような目で見てくる。身体が熱い中にもらった冷たい視線だからか背筋がゾクッとした。

身体を一瞬震わせた私に、リリーはなにかをあきらめたような顔をした。

リリーは視線を炒飯に戻すと、それからはこちらから話しかけても一切無言で、こっちを一度も見ることなく炒飯を平らげていったのだった。



お互いにガーリック炒飯を食べ切ったあたりでリリーは普段のリリーに戻ってくれて、ごちそうさまの挨拶をした後にお皿をおばちゃんのところへ持っていった。


「おばちゃん御馳走様」


「ごちそうさまでした」


「お粗末様。そこに置いておいていいわよ」


二人で部屋に戻るとリリーはベッドの端に腰かけたので、隣に座ろうかと思いつつも先ほどの冷たいリリーを思い出し、部屋にあった椅子をベッドのそばにもっていき

リリーと向かい合うように座るにとどめた。そんな私を見たリリーが少し申し訳な顔をしていたのに気づかずに。


「これからどうしようか、エリスさんを探しに行くにもとりあえず働き口は必要よね」


昨日平原から歩いてきた時、すでにお母さんのことはリリーからある程度聞いていた。名前はエリスさんというらしく、日本にいたときはリリーにすら年齢を教えていなかったらしいが、近所の四、五十歳のお母さん方からなにやら敬語で話しかけられ、ご近所トラブルを引き起こすような方たちもエリスさんの前ではおとなしかったらしい。それでいていつまで経っても見た目は二十そこらだったとか・・・。

おしとやかな印象を周りに与えるような人。

家庭料理は上手だったのに本人は本格中華が大好きだったらしい。でも本格中華を作ろうとするといつも失敗して火事になりかけたりするらしい‥‥。

エリスさん何者??


「お母さんは中華料理以外何をとっても完璧な、強かな人だったのでこちらの世界でもしたたかに生きてると思います!」


ふんすっ、と鼻息を荒くするリリーちゃん、お母さんのこと大好きなんだろうな。

それにしても娘から強かな人という評価をいただくエリスさん、ぜひとも一度お会いしたい。あっ、でも


「そのおじいさんはエリスさんが転移じゃなくて、転生したって言ったんだよね」


「はい、おぬしの母親はこちらの世界へ転生しておるぞとかそんな感じのことを言ってました。」


「転生ってことは、エリスさんの今の姿はリリーちゃんにもわからないってことだよね?」


少々意地悪な質問だったかもしれない。


「‥‥‥お母さんの姿が変わっていても一目で気づけると信じたいですけど、

それで見逃すリスクを考えると何かほかにも手段を用意しておきたいですね」


こういうところを見ると、リリーはまだ(こういうとリリーは怒るだろうが)小さいのにしっかりしていると思う。ただ私は弱いリリーを知っている、最初あったときなんて触れれば折れてしまうんじゃないかって、このまま消えてしまうんじゃないかってぐらい弱っていた。


それを知る私はリリーを支えなければいけないのだ、お姉さんでなければいけないのだ。今朝は失態だった、私はリリーに弱いところを見せてはならない。リリーに甘えるのはあれが最後でなければならないのだ。




その時の私は、リリーが何か大事な話をしようとして躊躇していた様子に、気づくことも出来ていなかった。


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