真の主人公ライラと異世界の夜のぺろぺろ
「転移して生きるのか、このまま死ぬのかはお前が選べ」
不愛想に告げられた言葉。どことなく来たことがあるような真っ白な世界で、神と名乗った男はそう告げた。
正直このまま滅びたかった。記憶をなくしたいつかもわからない日から、つらいことばかりだった。死のうと努力したこともあったけれど私の体は終わることを許してはくれなかった。
困ってる人をほっておくことができなかったから、悩みを聞き、手を貸してきた。結果として周囲の人間は私に好意的な視線を向けるものが増え結果として私を中心とした巨大なコミュニティが出来上がっていた。そしてここに来る前の時にはすでに、政府に目をつけられている私のもとを訪れる、相談者たちのために地下を使った秘密の通路までできていた。だけどそんな私のしてきた行為も、私は敵ではないと周りに認識してもらうためのアプローチに過ぎなかったんじゃないか。そういう打算だらけの行動をしてきた私なんて滅ぶ機会があるなら滅ぶべきなんじゃないか・・・。私と一緒にいたためにあの砲撃に巻き込まれ、目の前で炎に包み込まれた人がいた。
その事実と目に焼き付いた光景は私の精神をよほど汚染したのだろう。私の心は
もうどうにでもなれという投げやりな気持ちや、巻き込んでしまったという自己嫌悪でよどんでいた。
そのとき・・・ちなみに、と私の思考を遮る不愛想な声が静寂の中に生まれた。
「お前と一緒にいたあのリリアという少女は転移することに決めたようだぞ」
その瞬間、淀んでいた私の頭の中に強烈な電流が流れたような衝撃が走り抜け、私のネガティブな思考を消し飛ばしていった。
そうだ!私はリリーの母親を見つけると、リリーと一緒にいることを誓ったんだ自分とあの少女に!!
あのままだったら私は淀みにとらわれ、滅びの道を選択していたかもしれない。
そんな馬鹿な考えを吹き飛ばしてくれたリリー。実際に目の前に現れたわけでもないのに、その名前だけで私の目を覚ましてくれるリリー。
出会ってからまだ二日、でも初めてあったとは思えない、まるで何百年もの時を共に過ごした恋人のような安心感、愛おしさを私に与えた少女。
彼女に私の正体がバレることで彼女に怖がられることがこんなにも恐ろしい…。
でもそれ以上に彼女の存在が私に生きる活力を与えてくれた。
「行くわ、私はリリーとともに歩むと誓ったんだから!!」
そして私は光に包まれ異世界へと転移していったのだった。
▼▼▼
異世界で私が最初に目にしたものは夜空に浮かぶ美しい月だった。太陽ほど輝いてるわけでもないというのに、たしかにその月の光は私たちを見守っていてくれていて、どことなく懐かしさを与えてくれる・・・そんな気がした。
地球にあったそれと何ら変わらない姿をした月に、もしかしたら異世界なんかじゃなくてまだ地球にいるんじゃないかって考えるけど・・・
「おらっ!おとなしくしやがれ!!」
「な、なにするのよ!このっ、離しなさい!!」
そんな思考を遮ったのは距離のせいからかずいぶん小さくなってはいたが野蛮そうな男の怒鳴り声と、少し前に聞いた成人した女性より少し高めな女の子の声・・・リリーの声だった。
声は右後ろのほうから聞こえた。振り向いた先にあったのは森、ここからはだいたい二百メートルくらいといったところだろう。私は首にかけていた銀のロザリオを外しながら駆け出し、十秒とかからず森の中へ足を踏み入れていった。
夜の森は真っ暗でまさしく一寸先も見えないような状況だったが、今の私にはよく見える。森に入って二十メートルほどの位置にいたのは、先ほどの怒鳴り声の主であろう数人の男たちと、彼らに押さえつけられてロープで縛られそうになってるリリーだった。
男たちは剣や弓で武装しているようだったが、私は走ってきた勢いを《《減衰させ》》顔を貫かない程度に手加減して一番近くにいたひげ面の男に飛び蹴りを食らわせた。着地と同時に残りの二人の男たちの後ろに回りこみ、首をはねないよう十分に手加減して手刀をくらわせ意識を刈り取った。
格闘技などを習っていた記憶なんてないけど……身体が勝手に動いてしまった。
(どこか久しぶりな感じ、記憶をなくす以前にやっていたのかな?)
男たちにとっては目の前で仲間が吹っ飛び、何が起こったのか理解する前に私が後ろから気絶させたわけだから私の顔は見えなかっただろう。あるいはこの暗闇だから速度と相まって私の存在すら認識できなかったかもしれない。
目に見える範囲でほかの敵はいないようだが念には念をということで、森の中より不意打ちされにくい、さっきまで私がいた平野のほうに戻ることにする。まだ自分が助けられたことに気づかず、「なになに!?なにがおこったの!?」と困惑してるリリーを優しくすくい上げるようにお姫様抱っこしてあげて(リリーちゃん軽!?)移動ししていく。
「ひゃあ、ちょっと!女の子を寄ってたかって暴力で押さえつけようだなんて最低だと思わないのあなたたち!!」
暗闇のせいでこちらの顔がよく見えていないのか、こちらを暴漢だと思い警戒してるようだ。そんなリリーちゃんの主張に同意しつつ安心させてあげるため、耳たぶをくすぐるように唇を近づけささやく。
「思うよ、ほんとにひどい連中だよまったく。だけどもう大丈夫だよリリー、お姉さんが助けに来たからね♡」
「んっ!こ、この声・・・それにこのいい匂い・・・。ひょっとしてライラさん!?えっと、その・・・」
慌てているリリーちゃんで目を保養しつつ森を抜けると月の光が私たちを照らす。
「ほぅ・・・きれい・・・」
「どうかしたリリーちゃん?」
リリーはボーっとすぐ近くにある私の顔を見ているようだった。
「・・・へ?今わたし・・・ってちがっ!べべ、別に月明かりに照らされたライラさんとその金髪を見て見とれてたとかっ、そーいうのじゃありません!今のはその・・・そう!月を見てきれいだって言っただけです!!」
「~~~っ!!」
まっ赤っかにしたお顔で慌てて言いつくろうリリーちゃん。
やばいめっちゃかわいい・・・。
それにめっちゃほめてくれたフフフッ
あまりにストレートに言われたもんだから(本人は否定するだろうが)つい動揺して声にならない悶え声を出してしまった。
白っぽい肌をした顔が、ほんのりとピンクに染まるのを一瞬で熱くなった顔で感じる。私は照れてることを悟られないように祈りながら恥ずかしがるリリーの顔を見てやろうと反撃を試みる。(リリーにそういった意図はなかったと思うが、無意識だろうと容赦はしないのだ。)
「ほんとだ・・・。すごく、きれいだね。」
「~~~っ!!」
今度はリリーが恥ずかしがる番。リリーがさっき「綺麗といったのは月だ」とか言っていたのでそれに同意の意思を表し、きれいだと言ってあげる。
ただし月を見上げてではなく、私にお姫様抱っこをされたせいですぐそばにあったリリーの目を見てささやいたのだ。リリーがきれいなのは本当なので思いを込めて優しく微笑みながら言ってあげたからか効果は抜群だったようだ。
もともと赤くなっていた顔をさらに赤くさせ、そのつつましやかな胸を押さえながら声にならない悲鳴を上げてる、そんな私の腕の中で身悶えているリリー。
かわいいのう・・・。
十分満足した私は、なにか言いたそうにしてる少女をそっとおろしてあげた。少し残念そうな顔をしているリリーにキュンキュンしていると・・・ライラさん、とリリーが意を決したように口を開いた。
「危ないところを助けてくれて、ありがとう・・・ございます。
ラ、ライラおねえちゃん」
ズキューーン!!
やばい、リリーちゃん可愛すぎのマジ天使。自分で言って恥ずかしくなってもじもじしてるし、なに?誘ってるの?
私が胸を撃たれようにおさえ、あまりの可愛さに対して上体を折り曲げることで耐えてるとその拍子にリリーちゃんの手が目の前に来た。
ペロッ
「うひゃあ!!」
手首をなめられたことに驚いて手を引こうとするリリーだが、その前にリリーちゃんの手を握って引けないようにしてもう一度・・・
ペロッ
「ちょ、ライラさん!人の手首舐めないでください」
「ごめんごめん」
呼び方がライラさんに戻ってしまったことを残念に思いつつもその反面、怒る言葉の雰囲気が柔らかくなってきた気がして嬉しくも思う。
目的は果たせたのでリリーちゃんの手離してあげる。
「それに、さっきの男たちにつかまれたせいでここケガしちゃってたんで、すけど・・・あれ?ケガが消えてる・・・?。」
気づいちゃったわね・・・。
「もしかしてライラさん舐めることで人のけがを治せちゃったりするんですか!?」
さて、どうやってごまかすとするかしら・・・。