16-入部辞退?
「ええ?! 怖すぎますって! 先輩!」
「な、何ですかこれ……」
謎の怪文書がたくさん入った相談箱に動揺したのか可憐と香織はガタッと音を立てて椅子から立ち上がる。
「いつもこんな感じなんですか?」
さすがに不安になり俺も先輩方に尋ねると、皆川先輩と須藤先輩は勢いよく立ち上がりブンブンと風を切る音が聞こえそうな程、高速で首を左右に大きく振りながら否定した。
「い、いつもはこんなんじゃないのよ? もっと普通な相談しか来ないし、切り抜きでなんて来ないから! 今日はたまたまって言うか何て言うか」
「そうそう! だから二人とも引かないでくれ! そして辞めないでくれ! ああ! 香織も無言で教室から出て行かないで!」
二人の額には真っ赤なムンクの叫びのようなマークが浮かんでいるため、普段からこんなものが送りつけられているわけでは無さそうだな。
とりあえず良かった……いつもこんな感じだったらどうしようかと思ったところだ。
ひとまず安心だが、可憐はどうだろうか。香織ですら帰ろうとしたのにこんなものを見せられた後じゃ辞退を考えてもおかしくないだろう。
「……」
ほら、可憐黙ったまま固まってるし、メンタルが心配――
「面白い展開です! 入部を辞退なんてあり得ません! ですよね純也さん!」
「?! えっ? う、うん」
――なかった。
むしろ超元気だった。
「私、こういう展開をずっと待っていたんです!」
可憐は椅子から立ち上がり、さらに目をキラキラさせながら拳を握ってそう熱く語る。
額には真っ赤な笑顔マークが浮かんでいた。
マジかよ。
まあ、可憐は入院生活が長かったからな、おそらく人一倍日常に刺激を求めているのかもしれない。
「良かったぁ、これで二人が辞めるって言い出したらどうしようかと思ったぁ」
「良かった、本当に良かった」
須藤先輩と皆川先輩は俺達が入部を辞退しないことに安心したのかヘナヘナと椅子に腰をおろして力の抜けた声を出す。
「これ、イタズラですかね。イタズラだったら犯人を探しますか?」
「そうだな。これが続くようなら犯人を探すか先生に相談だな」
「でももし、イタズラじゃなかったら解決してあげなきゃいけないんだけど……これはどうしようかしら」
先輩と香織がそんな会話をしている時、切り抜きで書かれた相談用紙を一枚手に取ると文字は糊ではなく丸めたマスキングテープで貼られていることに気がついた。
ん? このテープポシェモンのやつだ。
ポシェモンとはポシェットモンスターという国民的なアニメ、ゲームのことである。ポシェモンというモンスターと一緒に冒険をする物語であり、世界的にも大人気だ。
俺もポシェモンは昔から好きで、未だに新作のポシェモンのゲームは毎回買って楽しんでいる。
懐かしいな、小学生の頃俺も同じものを使っていたため見覚えがあった。
「あっ、もうこんな時間!」
須藤先輩がそう言い、時計を見ると時刻は7時近く。
夏至が近く、日が長くなっているためまだ明るく、全然気が付かなかった。
「また明日これが入っていたら本格的に対応を考えるか」
皆川先輩の一言でこの日の部活はお開きになり、俺達は入部届けをもらって解散することになった。
*
「二人とも部活……その、どうだった?」
帰り道、駅へ向かいながら俺と可憐に香織は不安そうにそう問いかける。
俺と香織は高校から家が近いため歩いて登校しているのだが、可憐は電車で通学している。
そのため俺は勉強会の後にはいつも学校から最寄りの駅まで可憐を送って行くのが習慣になっていた。
流石に女の子一人で夜に出歩くのは危ない。
今日は香織も一緒のため、いったん二人で可憐を駅まで送ってから一緒に帰ることになっていた。
「二人とも、もし無理とかしてたら先輩に言っておくから遠慮無く言ってね」
どうやら香織は可憐や俺が気を使って入部したのではないかと思ったらしい。
香織の額には真っ赤な眉をひそめたマークが出ていた。
おそらく責任を感じているのだろう。
「全然無理なんてしてないです! むしろすごく楽しみです!」
可憐は瞳をキラキラと輝かせながらそう言う。
「俺も無理とかしてないから全然気にしなくて大丈夫だよ」
「よかったぁ」
そう言うと安心したのか香織の額のマークがニコニコマークに変わる。
「でも、何だったんでしょうね。あの怪文書。もの凄く気になります」
「いたずらにしては手が込んでたから尚更怖いよね」
そんな会話を交わしながら俺たちは帰路についた。
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