時報と着替えと友達
ピエロって私の着てるのと似たようなやつ、でも色んな柄とか色がある。
ピエロ帽子良いな…
しかも私とお揃いだし、お勧めNo.1だよ。
「ピエロは色もの過ぎるし、孔雀は論外、するとマジシャンだけど…」
おっと、マジシャンが良いとは予想外。
変わってるね。
私はマジシャンの衣装を拾い広げて見せる。
「どうっす?」
黒いスカートとジャケットに、それぞれトランプのダイヤの赤の柄がずらっと並んでる。
「うーん、なおちゃん。それって吸血鬼って感じじゃないかな?」
確かに…
「でも、ダイヤってトランプっぽいっしマジシャンの方が近いっしょ?」
「でも、黒と赤って色はやっぱり吸血鬼っぽいから着るのは嫌だよ」
嫌ならしょうがない。
「そんならピエロか孔雀っすよ」
うぐっと言葉に詰まるこずえちゃん。
孔雀って服なん?
着ぐるみ?
「見た感じ、羽と頭が付いてるとこを除けば孔雀も普通のドレスだし、諦めて孔雀にする?」
ぶんぶんぶんっ!って激しく首をふるこずえちゃん。
「無理無理無理無理!そんな体のラインが出ちゃう服は絶対無理だって!」
ああ、そっちかあ。
装飾とかじゃなくてラインの方が嫌なんすね。
そういう女の子みたいな感覚は浜辺で波にさらわれていったから忘れてよ私は。
「羽とか頭らしき装飾は良いのん?」
うーん、ってちょっとだけ考えてからこずえちゃんってば言いやがりました。
「むしれば良いかなって…」
その発想は私にはなかったなあ。
普段は大人しいのに意外と乱暴なとこあるよ。
「誰の持ち物か分からない服をむしるって、けっこう勇気いるっすけど?」
そこまで考えてなかったかな?
「こんな服しか用意しない人が悪いと思う」
まあ、それもそうだと言えようか。
「んじゃ、私はそろそろ部屋の外に行ってみたくなったんすけど… こずえちゃんは服を選んでから来るっすか?」
「ちょっと!こんなとこに置いてっちゃやだよ!?」
私もこのよく分かんない場所で一人で出歩こうとは思えないけど、急かさないと延々と悩み続けるのが着たくもない服を並べられた乙女であるのだろうからしょうがない、まる。
「それならさっさと着るっすよ。こずえちゃんにはマジシャンが一番似合うと思うし、試しに着てみやしゃんせ」
私はこずえちゃんにマジシャンの衣装を渡す。
似合うと言って渡されたら着てみたくなるのも乙女心、なおちゃん分かってるー、まる。
「もう、適当なこと言ってる。私の服を選ぶの面倒なだけでしょ?」
うげちょ!
見破られちまった私の浅はかな考えは…
「でも、試しに着てみよっかな…」
成功だったと言えような!
ふふふん!
なおちゃんの
浅い思惑
見抜けども
乗ってくれちゃう こずえかな
うむ、良い句である。
マジシャン服を着はじめるこずえちゃん。
私も着替えよっかな。
これってパジャマじゃよね?
寝てる時に着てたんだしパジャマだね。
新しいピエロ服に着替えとかないとね!
見た目同じだけど!
よし、五秒で着替えを終えちゃったぜよ。
暇だし、部屋の中を物色してみようかな。
ふむふむふん。
「ホテル・アルビノ 施設案内」って書いてるけど、ここってホテルなん?
内装が趣味悪過ぎて私が泊まりたくなるのは分かるけど…
仮装ホテルとか新ジャンルな感じで好ましいけど…
うん、何ていうか、私ってただの記憶喪失の宿泊客の可能性が濃厚すぎてドロドロだけど…
ホテルのくせに時計も見当たらないってのはおかしいね。
その一点が、私に警鐘を鳴らす!
「「ピンポンパンポーン」」
ん?
警鐘の代わりに肉声のチャイムが鳴っておる……
私とこずえちゃんがハモってる。
「「なおこずが朝の6時をお知らせします!」」
ぶっは!
まさかのマイボイスを目覚ましにする発想!?
っていうか館内放送!?
「朝の6時って目覚めのラッシュタイムって感じだけど、なおちゃんは自分で起きれる?それとも起こしてもらう?」
「どっちでもないっす。自然に目覚めるまでは寝るのが自然。それ以外は自然破壊だと抗議も辞さぬ覚悟でもって寝床に入っているっす。愚問っすよ」
「よく、その自然が淘汰されずに残ってきたね?」
「強き意思は淘汰なんてされないんすよ?弱肉強食も自然の掟っす」
「どっちかっていうと、なおちゃんは化石みたいな感じじゃないかな?」
「化石っすか?」
「地面を掘ってまで接する価値がないっていうか、物好き以外に用途を見出だす者が居ないっていう感じ」
「味気ない理屈は嫌いっす」
「ふっふっふ、本当の自然とは甘くないのだよ」
「不自然でも甘いスイーツが食べたいっす」
「そっちの自然は破壊されてるって抗議しないんだ… でも私も同意!」
「「それじゃあ、朝の6時からぱやぱや!なおこずでした!」」
放送がプツッと途切れる。
シーンとする部屋の中。
「ぷっ…」
こずえちゃんがちゃんが吹いた。
「ぷぷぷぷぷっ!」
私もつられて吹き出してしまう。
「あはははははははっ!」
こずえちゃんが爆笑した。
「あじゃぱぱぱぱぱっ!」
私もつられて爆笑してしまう。
「って、笑いかた可笑しいでしょ!」
おっと、うっかりしてたぜ!
「だって、コズナオ放送ってさ!?」
さっきの放送は、私とこずえちゃんが冗談で録った動画の音声部分を抜き出したものだった。
何となく覚えてる。
黒歴史ってやつだよ。
「あはははっ!もう反則だよ!?なんであんなの流すのさ!?」
ん?
こずえちゃんってば勘違いしてるね。
「いんやいやいや、こずえちゃん。さっきのは私の仕業じゃないんよ? 多分、ここのホテルの館内放送でごじゃるんよ?」
「へ?」
間の抜けた声をあげるこずえちゃん。
私は着替え中ってのが間抜け度アップの秘訣と知ったよ。
私も見習おう。
「いやいやいや、流石に勝手に私達以外が勝手にあんなの勝手に流すとかないって…」
うんうん、そう思いたい気持ちは分かる。
よく分かったので、私は三角の眉毛シールをくるっと内向けにして、困ったふうを装う。
だけど、あの放送は…
「こずえちゃん、気をしっかり持って聞くんだよ」
こずえちゃんはうんうんと頷く。
私は眉毛を上向きに戻す。
「そう、あれは私達ではない第三者によって、このホテルアルビノの館内放送として使用されたのでござるっす!」
言いきってやりました!
吃驚仰天、ベッドに倒れ込むこずえちゃん!
倒れる先を選んでるっぽいから演技なのか!
しかし、倒れたかと思ったこずえ選手はガバッと勢いよく起き上がり!
おっと、その急な動きに私もびっくりした。
「そんなのありえないって!なにそれ私達が許可してないのに!っていうか、あんなのもう絶対に消したはずなのにどこから!?」
「おおっと、黒歴史が公開されたことをまだ認められないのか!?こずえ選手!しかし私にも分かりません!何がどうしてこうなった!?そもそもここはいったいどこだ?おっと、何にも分かりません!まったく何にも分からないのです!」
私が実況放送よろしくな勢いで言い終わると、部屋の中が再びシーンってした。
「あははっ!もう、なおちゃんはどうして落ち着いてるのかな」
「ふはは、ここにこずえちゃんが居るからさ。よっす、ズットモ級ベストフレンズこずえちゃん!」
「ん、まあ私もなおちゃんが居るから助かってる… かな…? よっす、ズットモ級ベストフレンズなおちゃん! でも、この言い回しは今度やったら怒るよ?嬉しいけど怒るよ?」
「了解じゃー、まぁコズポエ生放送じゃなくて良かったと思えば良いのじゃよっす」
「うわっ、それは私が赤面からの顔面爆発死するってば!」
「なんの、私だって爆笑からの腹筋爆発死は免れまいて!」
うんうん、誰かコズポエの朗読しないかな?
「そんなことより、早く着替えちゃって欲しいんだけどね」
イベント盛りだくさんとはいえ、着替えが遅くて困っちゃうね。
「もう!着替えるからちょっと黙ってて!」
「あいあいよーっす!」
うん、本気で怒られかねないし、ちょっと本気で黙って待ってよう。
「ちょっと、着替え中をじーっと見ないでよ!」
あれっ、怒られた!
ちょっと部屋の中でも待ってようかな。
うーん、変な部屋だね!