目覚めの友達
「んーっ!」
目覚めれば身体を伸ばす。
これ必然。
「あっ、おはよー!」
起きたら挨拶。
それ当然。
しかし、私はふと気付く。
「こずえちゃんよ。どうして此処に居るのでごじゃる?」
目覚めれば大親友のこずえちゃんが隣に居た。
同じベッドの上に、大親友のこずえちゃんが居る。
それは間違いない。
「そもそもここってどこなんす?」
大親友からは返事がない。
無視されている。
しかし、私はそれを許す。
すやすやと寝ているならば仕方があるまい。
「こずえちゃんよ、まずは目覚めるのだー」
ゆさゆさと顔を揺らす。
ぺちんって手を叩かれた。
こずえちゃんって寝起きは良いのに起きるまでが中々で、しかも寝相は悪いんだよね。
私は諦めずにゆさゆさを続ける。
「こずえちゃーん」
呼びかけることも忘れない。
ズットモ級ベストフレンズの称号を欲しいままにする私達の仲だから、お泊まり会なんて日常茶飯事の堕落事案には違いない。
しかしだけど絶対に、こんな不健全そうな内装の部屋で目覚める理由が分からない。
もう派手すぎて目が痛いレベル。
本当に、ここはどこかな?
ついでに、昨日のことが思い出せない。
あれ、私の名前はなんだっけ?
んんんん?
「あれ、なおちゃん? えっ、おはよう?」
26ゆさでやっと起きたよ。
ゆさゆさに換算し直すと13ゆさゆさだよ。
そして、私はなおちゃんだった。
そうだよ、なおだよ、私
うん?
フルネームが分かんないね。
「おはよう、っていうか何時か分かる?ここってどこか分かる?自分の名前は分かる?」
矢継ぎ早に質問してみた。
「あれ? 全然分からないよ?」
良くないけど良かった。
一人だけ忘れてたらバカだけど、二人とも忘れてたらバカじゃない。
何かある。
「私も、こずえちゃんの書いたポエムの内容は全部残らず思い出せるけど、他には何も思い出せないんだよね。これ何て言う堕落事案?」
あっ、堕落事案ってこずえちゃんの書いたポエムにあった言葉ね。
「へ? ポエムって、なんでそれだけ!?あとね、堕落事案はもっとこう心が誘惑される感じだもん!」
こずえちゃんがガバッと起き上がり力説する。
でも、何度も聞いた説明だから全然心に響かない。
「しかし、こずえちゃんって寝るときは裸だったんすなー。やばっすぱやぱや」
マジ裸体。
無防備過ぎて心配だよ。
しかし我輩の前でくらいは許してしんぜようぜよ。
「へっ!? 何これぜったいありえないよ!」
布団で身体を隠すこずえちゃん。
なぜか隠すと一気に不健全さが倍増するのは恥じらいのせいかな。
これが本当の堕落事案だよ。
まあ、私達って一緒にお風呂入る仲だから別に良いんだけどね。
不意に裸だったなんてしたら私だって恥ずかしいかもしれないや。
「こずえちゃん、昨日って何してたっけ?」
こんな変なとこに来る予定は絶対になかった。
「覚えてないけど、なにここ?」
うーん、これは困った。
ベッドの外には、紫芋みたいな色のテーブル、城とラクダと西瓜と甲冑。
ここってどこの国だっけ?
「っていうか、なおちゃんの着てる服って何?」
むはっ!?
自分の服を見てみると恐ろしいまでのアシメな色合いが画期的だよ。
赤地に黄色の水玉と、緑地に赤の水玉
からだの左右で色が違う水玉柄のパジャマ!?
ヤバい!普段着にしたい!
「ピエロ服?」
ああ、確かにこずえちゃんの言うとおり、これは日常生活では出くわすことのないピエロの衣装に違いない。
「あっ、ピエロか。何でこの服で寝てたんだろ?」
気に入ったからだ。
間違いない。
でも、そんな答えは却下で当然。
「そうか!私はサーカスの巡業中だったんだ!」
これが私のベストアンサーだ!
どうするこずえちゃん!?
「うーん、なおちゃんの趣味は相変わらず不思議だね」
さらりと流された!
さすが、こずえちゃんはスルーの達人。
それとも私が空回りの鉄人?
「コズポエの作者に不思議と言われるなんてショックでごじゃる」
コズポエはこずえちゃんのポエム集のタイトルね。
そして、私は哀しかったので自分の眉毛をくるっと逆さまにする。
あっ、眉毛に貼ってる正三角形の眉毛シールね。
いつもは上向き三角形を、悲しい時とかにくるっと回して下向きにするのだよ。
ちな、困ったときは内向き三角で、怒ったときは外向き三角にするのだ。
「むう、それより服ってないのかな?」
私はくるっと眉毛を戻す。
「裸で良くね?」
枕が飛んできた。
「良いわけあるか!」
あっ、怒っちゃった。
でも、このまま投げるものが無くなったら最後には布団が飛んでくるに違いないと期待できるぜよ。
むふふでござるね。
でも、布団の前に手頃に投げれそうな凶器になりうる危険物が部屋の中にはごろごろしてるのでやめとこう。
我が身が大事。
「うーん、服って、あっ!」
城がクローゼットになっちょる!
よしよし、中にあるのは…
ん、これはめんどいな…
しょうがない、私はクローゼットの中身をまとめて外にぶちまけた。
「よっし、ここから選んでこずえちゃん!」
選択肢は3つ。
ピエロ
マジシャン
孔雀
「さあ、どうする!?」




