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朝食と時報と姉妹


 しかしまあ、ホテルの部屋を出て最初に出くわしたのが人類にあるまじき骨格を持つマッチョだったなんて、トラウマになってもおかしくないね。

 そんな未知の人類との接近遭遇を乗り越えて辿りついただけはあるよ。


 だって朝食は無料でご提供いたしますって書いてんだよ?

 そう、一階のレストランって朝食無料のおかわり自由だった!


 無料ってタダってことで良いんだよね!?

 和食のセットを頼んじまったよ?

 値段が「free」だったよ?


 後でお金を請求されないかビビってる私の情けなさ。

 それに比べて堂々としている姉ちゃんの頼れる感じは最強だ。

 悠然とは我が姉のためにある言葉だぜ。


 しかしね、ご飯と味噌汁に焼き魚もついて無料とか、近所にあったら私はここに毎日通うよ。

 味噌汁のくせにエビが入ってて、最初はなんだこりゃ!?って思ったけど…


 うん、美味いな。

 まじで無料か?

 チップをお願いされたりしないよな?


 まあ、無一文だし、もう食べちゃってるし、心配するだけ無駄だよな。

 出せるものはお腹の中に入っているものだけだし、欲しがる人は居ないよね?


 うん、思いっきり味わおう。


 しかし姉ちゃん、さっきから味噌汁しか食ってねえぜ…

 栄養が偏っちゃわないかな?

 あっ、ワカメが入ってるから大丈夫か。

 味噌と海老とワカメと豆腐で完成された栄養バランスってやつなのかもね。

 逆にご飯と焼き魚食べた方がバランス悪いのかな。


 だが、私は美味しい料理を前に考えるのをやめたぜ!


 出てきたものは食い尽くすのが私のスタイルだ!

 うん、焼き魚も半端ないっつうかけしからん!


 怒りがわくほど美味い!


 何がどう美味しいのか理解できないけど、これはとにかく美味い!

 お米だって逆立ちしながら駆け出しそうな躍動感を口の中に届けてくれるぜ!


 あー、でもお腹いっぱいだ。

 おかわりなんて夢のまた夢。


「ご馳走さまでした」


 しかし他に客って居ないのな。

 こんな夢みたいなレストランなのに過疎るとか、他にもっと凄いとこがあんのかね?


「あれ、そういや今って何時だ?」


 ここまで一つも時計もなければ窓すら無い。

 一階なのに地下みたいに壁に囲まれてるとかヤバいんじゃないか?

 火事になっても逃げ道ないぜ?


 まあ、今すぐ火事にならんよね。


「そろそろ朝の5時ね」


 ん?


「朝の5時って言った?」


 そんな時間に起きてる自分がこの世に居るなんて驚いちゃうね。


「あれ、時計とかあったっけ?」


 姉ちゃんなら体内時計があるのかもしれないけどね。


「一時間に一度、時報のようなものが流れるのよ。前回は4時だったわ」


 むむ、それなら時計置いて欲しいね。

 まあ良いや。

 そんなことより…


「めっちゃ早起きじゃん!?」


 5時から朝ごはん食べてたとか何者だよ私は?

 5時から朝ごはん出してくれるとかこのレストランは神か?

 これ、お昼までにお腹減っちゃうんじゃない?


 その時、ザザザってノイズが聞こえた。

 スピーカーかな?


「「ピンポンパンポーン」」


 おっとチャイムだ、だが肉声だ。

 女の子二人の声だね。


「「なおこずが朝の五時をお知らせします!」」


 ああ、これが時報か。

 んでも、なおこずって誰?


「なおちゃん、朝の五時っていつも何してる?」


「夢の中でザリガニのポーズする頃っす。こずえちゃんは?」


「私は普通にネトゲだよ」


「こずえちゃんの普通は一般的ではないっす」


「そうかなー?」


「一般的には神社巡りとかじゃないっすか?」


「いやいや、空いてるからって朝から神社に行かないでしょ」


「そうっすよ。こずえちゃんのネトゲにも同じ感想だったっす」


「なるほど。でも、朝は自分の好きなことするには良い時間だよね!」


「おっ、上手く締めたっすね!それじゃあここらで…」


「「はい、朝の5時からぱやぱや!なおこずでした!」」


 うん、なにこれ?

 プツッとスピーカーが切れるような音がして放送がやんだ。


「どうして夢の中でザリガニのポーズってとこに突っ込まないのかな!?」

 毎日そんな夢見てたら背骨が曲がっちゃってもおかしくないよね。


「ねえ、姉ちゃん、これが時報なの?」

 寝てるときにこんなの流すホテルはおかしい。

 逆におかしいとこしかないからこれが正常なのかな?


「そうよ。3時は牛、4時はチョコレートの話だったわ」


 よく寝てたね私。


「っていうか、姉ちゃんはいつから起きてんだ?」


「さあ?気付けばあの部屋に居て3時の時報を聞いていたけれど、それ以前のことは思い出せないのよ」


 うっひょい。

 これは事件の匂いだぜ。


 しかしまあ、気が付いたら牛の話が聞こえていたとか、姉ちゃんはそれでも平静に冷静にとにかく静かに無表情だったんだろうね。

 半端ないぜ。

 いやいや、それ以前にだよ…


「気が付いたら過去が思い出せないって、いくら姉ちゃんでも怖くなかったの?」


 回答は想像がつくけどね。


「怖がる必要があるのかしら?」


 うん、必要はないね。

 これは私の聞き方が悪かったよ。


「今って過去からの連続じゃん?それが途切れてたら不安になって考え込んだりさ、私はしちゃうね」

 まあ、姉ちゃんと一緒だから平気なんだけどね。

 一人で目覚めてたら、私は怖くてがくぶるだったよ絶対。

 そして姉ちゃんを速攻で起こしてたね。

 先に起きたのが姉ちゃんで良かった。

 おかげで誰の安眠も邪魔されなかったんだからね。


「不安って理解できないわ。それに、分かることは考えなくても分かるし、分からないことは考えても分からないもの。考える意味がないでしょう」


 直感型の天才って理解できないぜ。

 私ってつくづく凡人だよな。


「ふーん、姉ちゃんらしいね。さて、お腹も膨れたし次はエントランス行ってみようかな?」


 そろそろ外に行きたいし。


「行き先は任せるわ」


 よっし、姉ちゃんからの全面同意も得たし、次はエントランスに行きますよっと!


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