お嬢様と遭遇する姉妹
「「それじゃあ、朝の6時からぱやぱや!なおこずでした!」」
相変わらずの賑やかな時報を聞き終わる。
ホテルの外でもこれなんだね。
自然な眠りを妨げるのは自然破壊だとか何とか言ってた。
自然でも不自然でも、姉ちゃんの好きな方で良いやって思う私だけど、確かに寝覚めは自然が良いや。
ああ、そういえば姉ちゃんって私を起こしたりしないから、私はいつだって自然に起きられてたかもね。
あっ!
つまり、姉ちゃんは私の自然を守ってたんだね。
ヤバい、超嬉しいぜ!
「お主達が一番乗りか。うむ。褒めて遣わそう」
ん?
なんだ?
私と姉ちゃんの間から声が……
おいおいおい!
いつの間にやら小さい女の子が間に立ってるよ!
可愛いね!
女海賊のコスプレしてるよ!
全然似合ってないんだけどさ!
似合ってないのが可愛いね!
いや、私たちと一緒で他に着るものが無かったのかもしれない。
服装のセンスはとやかく言わないようにしよう。
こっちだってキグルミパジャマの姉ちゃんとタキシードの妹だしね。
海賊少女は私達の前へと歩き、振り向き様に突剣を抜いた。
おっと、フェンシングかな?
何にしたって剣を抜いちゃダメだよね。
姉ちゃんが怪我したら私は許さない。
私は幼女から剣を取り上げようと海賊幼女の背後に回り込む。
後は小さな手から剣を取り上げるだけ……
っと…
私の手は空を切った。
幼女の姿は消えていて……
「どこに行った!?」
私の問いに姉ちゃんが視線で応えてくれた。
それは、私の後方…
「うっそ! ちょー後ろに行ってるじゃん!」
一瞬で姉ちゃんの身長10人分くらい離れた所に立ってる幼女。
異常に素早いね!
「ふん、いまだ狂気回路も持たぬ人間の分際で、よくぞ私の動きを見抜いた。褒めて遣わそう!」
うーん。
何言ってるのかよく分からないね。
こういう遊びが子どもに流行ってるのかな?
あっ、おままごとってやつかもね。
それにしても、とにかく褒めたがる偉そうな子だね。
そして姉ちゃんはこの事態に興味を失ったらしい。
威勢良く褒めてくる幼女には目もくれず、だだっ広い部屋の端の方まで歩いて行ってペタりと座り込む。
「姉ちゃん、疲れちゃった?」
「ええ、できれば腰かける場所が欲しいところね。床は冷え過ぎているもの」
そいつは大変だ!
私は姉ちゃんの背後へと颯爽とヘッドスライディングを決めて寝転んであげる。
「あら、ありがとう」
当然のように私の背中に座る姉ちゃん。
良かった、姉ちゃんに感謝されちゃったぜ!
「んで、海賊ちゃんは迷子ちゃんなの?」
こんな所にお子さま一人じゃ危ないよー
良いとこのお嬢様だったら誘拐されちゃうよね。
「この地は我の所有物、迷子になりようがないのだよ」
ふーん。
ここの所有者が目の前の海賊ちゃんなのか。
「つまり、海賊ちゃんが執事さんの言ってたお嬢様ってことなのかな?」
「左様。我こそがこの地の主、九頭龍院枢である。よくぞ見抜いた、褒めて遣わす!」
この地がどの地かしんないけどさ。
また褒められちゃったや。
「あ、枢ちゃん、お嬢様ってことは… 朝ご飯はご馳走さま。ありがとね」
姉ちゃんがお味噌汁を戴いてたし、なにせ私はいっぱい食べた。
ホテルの部屋は悪趣味だったけど、朝ご飯は最高だった。
どうやらあのホテルでのあらゆる代金はお嬢様支払いってことらしいしね。
そこだけはお礼を言っとかないといけない。
「ふん。そのようなことは気にせずともよい。無理のない範囲であればどのような趣向の料理でも…」
「すう… すう…」
ん、寝息?
姉ちゃん寝ちゃったね。
起こさないようにしないと、
「あ、お嬢様も静かにしててね。姉ちゃんの睡眠はこの星の未来より大事なんだぜ」
よし、話の続きもちょっと気になるけどね、もういいや。
今は姉ちゃんの休息が最優先事項だよね。
「くくっ、くくくくっ、それで良いのかと問いたいところだが、いや、それで良い。褒めて遣わそう」
おっ、また褒められたね。
だけど、ちょっとうるさい。
私は人差し指を口にあて、しいっと静寂を訴えた。
「あと幾分の時はある。ゆっくりと休めばよい。それが汝等の正義であれば、存分にそれを貫くが良い」
うむうむと、何故か嬉しそうに枢ちゃんが…
あれ、いなくなった。
消えちゃったよ。
どこ行った?
でも、姉ちゃんの睡眠が守られそうでなによりだ。
姉ちゃんって不眠症気味で本当に時々しか寝ないからね。
こういう機会は大事にしないと妹失格だ。
「すう…… すう……」
しかしあれだね、座りながら寝る姉ちゃんの重さが背中で直に感じられて、
これはとっても幸せだ。
私はさっき寝たばかりだし、しばらく床の冷えを我慢するくらいは何ともないよね!
今回ばかりは姉ちゃんの自然を私が守るのだぜ!




