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目覚めの姉妹


「おはよう姉ちゃん。ここはどこ?」


 ごちゃごちゃとした派手な装飾。

 ケバい色のカラフルな照明。

 頭が痛くなりそうな要素しか見当たらない。

 目覚めたら、そんな部屋のベッドの上に居たんだから気分は最悪だ。


 でも、ベッドはシンプルで小綺麗って、ここだけ落ち着く場所になってるじゃん?

 せっかく起きたのにベッドから出たくなくなっちゃうじゃん。

 しかしまあ、意味が分からない。


「なあ、姉ちゃん。ここってどこだっけ?」


 昨日の夜って、私は自分の家で寝たよな?

 うん、確かに寝たよ。

 じゃあ、まだ夢の中かも知れねぇな。

 もう一度寝直すかな。


「アルビノ」


 ん?

 珍しく姉ちゃんが喋ったよ。

 今日は雨か血が降るに違いない。

 出掛けるときは傘持って行こう。


「まあ、姉ちゃんがアルビノなのは知ってるよ」


 というより、見たら分かるって感じだ。

 美白は全く必要無いけど、入念なUVケアが必要って、良いのか悪いのか分からん特徴。

 姉ちゃんが透き通るような白い肌をしてるから、私が必要以上に色黒に見えるのはご愛敬だよな。


 この部屋のなかで、王様のマントみたいなド派手なソファーに座ってるのに、姉ちゃんだけはしっとりと咲いてる花みたいで見てて安らぐぜ。


 服装も兎の着ぐるみパジャマだしな。

 うちの姉ちゃんは最高だよ。

 あれ、姉ちゃんってなんて名前だっけ?


 んー


 だめだ、思い出せない。

 おいおい、私の記憶力はどうなってんだ。

 さすがに、こんなの失礼すぎて聞けないよな。


「なあ、姉ちゃんってなんて名前だっけ?」


 聞いちゃったぜ。

 なんてったって姉ちゃんだしな。

 こんなの気にするたまじゃない。


「忘れたわ。自分の名前もね。あなたも、そうじゃないの?」


 ん…

 マジで?


「うわ、思い出せないね」


 やっぱり、まだ夢の中なのかな。


「ここはホテル・アルビノ。私達は姉妹。それ以外には何も分からないわ」


 姉ちゃんがすっとテーブルの上を指し示す。


「あん?」


 フルメタルな質感のそのテーブルは、スチームパンク始めましたって感じの歯車やらパイプやらで装飾されてて、人間様が触るとうっかり怪我しそうなデザインだ。

 ごちゃごちゃしてるにしても、もうちょっと世界観ぐらい統一しとけってね、まったく。


 テーブルの上には「ホテル・アルビノ 施設案内」って書かれてる冊子がある。

 手にとって見てみると、中は普通の施設案内って感じ。

 ルームサービスあるんだね。


「はあ!?」


 ホテルって何だよ。

 お金ないよ!?

 いや、覚えてないけどさ!

 もしかして私って金持ちなのか?

 センスは悪いけど金はかかってそうな部屋だ。

 一泊二日で何十万って、コスパ悪すぎの部屋だよ絶対。


 まあいいや、目覚めたらここにいた。

 時間は戻らない。

 よし、前に進むぜ、未来へゴーだ。


「とにかく、いったん外に出ようぜ。この部屋は気分悪い…」


 って、着替えはどこだ!?

 私もパジャマだぞ!?


 姉ちゃんは兎さんでも平気でお外に出歩くタイプの人間だけど、私は恥ずかしくて引きこもるくらいにはか弱いメンタルしてるはずだ。

 こんなペンギンさんの着ぐるみパジャマじゃ、恥ずかしくって出歩けないっつうの。


 女子高生なめんなよ!


 あっ、それは首になったんだっけ。

 あれ、やっぱり上手く思い出せねえ。


 私が16歳で、姉ちゃんが20歳になるかどうかってとこだよな。それは覚えてるんだけど…


 うん、着ぐるみパジャマって、これ私の趣味じゃない。

 誰かに着せられた?

 ヤバい変態がいるなら先手必勝だよな。

 武器はないか?


 おっ、古城の置物みたいなデカいのがクローゼットになってるぜ。


 中身は…

 タキシードかよ…

 あー、でも女性用っぽいな。

 いや、タキシードに女性用なんてあるのかな?


 特注だったら嫌だなぁ。


 そもそも、これって勝手に着て良いのか分からない。

 いや、着ちゃダメなら入れとかないよね。


 あとあるのは…

 各種動物の着ぐるみパジャマだな。


 うへっ


 なんでタキシードと着ぐるみパジャマが並んで掛かってんの、このクローゼット…

 まあ、これならフードも付いてるし、日射しに弱い姉ちゃんにはちょうど良いね。


 よし、これにしよう。

 虎だ。


 私はタキシードで良いや。

 ちょっと着てみたい。


 おっ、クローゼットの下の棚の中には下着類も揃ってやがる。


 嬉しいけど気持ち悪い…


「姉ちゃん、これに着替えてくれよ」


 無言で受け取って着替え出す姉ちゃん。


「ちっ」


 おっと、舌打ちしちまった。

 これは姉ちゃんが大人っぽいうえにスタイルよくて色白で美人すぎて、それにひがんでるってわぇじゃねえからな!

 っと、心の中で誰にでもなく言い訳してどうするよ私…


 姉ちゃんは肌の色だけじゃなくて、感情ってやつも薄いから、どんな服でも嫌がらずに着てくれる。

 そもそも嫌がるってことを知らない。

 断るときは嫌がる前に「それは無理」って言ってきっぱりと拒絶するのが姉ちゃんだ。


「その服はどう?」


 虎さんの着ぐるみパジャマ。

 どっちかっていうと二十歳の女性が着るものじゃないけど…


「趣味では無いけど、着心地は良いわ」


 うん、こういう心の中身がそのまま出ちゃったみたいな感想が、やっぱり姉ちゃんって感じだな。

 愛想はないけど、気遣い無用で居心地は最高だよ。

 いや、普段はこんな雑談は姉ちゃんには無視されるし、このよく分からない状況じゃ、姉ちゃんだって少しは平静じゃないってことかな。


 それは良くないね。


 やっぱり、人間ってのは自然体が一番だ。

 もうちょっと、今の状況をはっきりさせとかないとね。


 よし、タキシードと着ぐるみパジャマの姉妹がお外に出ますよっと。


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