1 虹色の目の女
「……やるのも飽きた。息子もたたん」
美しかった嫁達も子供を生んで、老けて……そして太った。
もうみる影はなく、ロシア美人のなれのはてである。
一緒に冒険した頃とは違い、運動もせずにカロリーの高い物を食ってればそうなるわ。
俺様の後宮は、相撲部屋と化していた。ちょんまげをしてない女力士だらけ。
さしずめ部屋名は、「元美人部屋」と言ったところか。
という俺様もデブの親方になっていた。まあ皮肉ってもしかたない。
敵がいなけりゃ、チートを使う機会もなく、もう旅に出るのもおっくうだった。
嫁達も俺様の相手をしたがらず、子供と毎日を過ごしている。
ああ、愛はどこにいった?
何人かは黙って子供をつれて実家に帰り、金をゴッソリ持っていきやがった。
養育費といったところだろう。
追いかける気にもならず、俺様は毎日ストレスがたまっていた。
「あー! 腹が立つ!」
もう嫁を増やす気はないし、子供もいらん。今でも大杉!
最初のうちは可愛いのだが、毎日相手をしてると面倒くさくなってくる。
泣くし、騒ぐし、とにかくうるせー!
子供達の世話は嫁と使用人にぶん投げて、俺様は夜の町へとくりだす。
これが現在の唯一の楽しみだ。
暗がりでも正体がバレると騒がれるので、俺様はフードで顔を隠して、ある大きな建物に向かう。
高級娼館――ここは貴族か大金持ちしか入れない場所だ。いわゆる上級国民専用。
門にいる受付に指で弾いて金貨を渡し、奥へと進む。
正面玄関から中に入れば、支配人が揉み手をしながら、俺様に近づいてきた。
ぎっしり詰まった金袋を投げ渡す。俺様とっては端た金だ。
「これは伊切様、当店にようこそ。いつもご利用ありがとうございます!」
「支配人、新しい子はいるか?」
「もちろんでございます。ピチピチな娘をたくさん御用意しております。ささ、どうぞこちらへ」
俺様は特別室へと案内される。俺様専用の部屋だ。
そこから見えるのは、高級娼婦達の控え室。
化粧に着替えと慌ただしい舞台裏だ。それを俺様が見ているのには気づかない。
マジックミラーの魔法壁なので、向こうからは見えないのだ。
俺様が椅子に座ると、支配人がグラスに酒を注いでくれる。
酒を飲みながら、俺様はじっくりと今晩の相手を物色することにした。
「うーむ、目移りするな。昔だったら三人まとめてヤッてたとこだが、やっぱり最近はきつい。一人にしよう。ど・れ・に・し・よ・う・か・な、神様のい――――!?」
俺様はある娼婦に驚き、目が離せなくなる。
美人であるのは間違いないが、その女は虹色の目をしていた。
目の色が次々と変わる。オッドアイなら何度も見たことがあるが、とにかく珍しい。
しかも、あっちから見えないはずなのに、俺様に目線を合わせてくる。魔法使いか?
これで今夜の相手は決まり、指を差して指名する。
「支配人、あの娘にする」
「分かりました。それではロイヤルスイートルームでお待ち下さい、伊切様。すぐに向かわせます」
「たのむ」
俺様が出て行く時、支配人は首をかしげて、妙なことを口にしていた。
「……あんな娘、いたっけかなー?」
大部屋のソファーでくつろいでいると、ノックの後に女が入ってくる。
「失礼いたします」
女は俺様の前にくると、ひざまずいて挨拶をした。
「ご指名いただき、ありがとうございます伊切様。ご満足できるよう、精一杯つとめさせていただきます」
「うむうむ、くるしゅうない。ちこうよれ」
すぐにおっぱじめたりはしない。ガツガツできたのは昔のことだ。
まずは酒を飲んで話をする。
今は女の虹の目に釘づけで、見てるだけも飽きない。
「名はなんという?」
「キスキル・リラと申します。リラとお呼び下さい」
「どっかで聞いたような名だな……まあいい」
俺様がリラの体をまさぐり始めると、トロンとした目付きで顔を寄せてくる。
濡れた唇が近づいて、俺様も口を合わせようとすると――――!
「んが! あががががが!!」
俺様は大口を開けたまま、動けなくなってしまう……。