2ー4ー1 二度目の異世界
神帝王国の宮殿が一画で、今日も悲痛な声が木霊する。
「お前ら少しはやる気出せや!!」
「朝っぱらから煩いのですよー」
「やる気って、おいしいんですか~?」
叫ぶ部屋の主に返る声は必要以上に間延びして、寝転ぶ者達は寝かせてくれと顔で言う。
和輝の布団占領して蹴り合う和輝の従者とスズは何が問題かと覇気無き目で和輝見て、長椅子に沈むサキとナナは瞼閉じ。
辛うじて機能を果たす服纏って転がるサナとマリナは全身より感情消して物となり。
「もう日が暮れようとしてますけど!? 一周回ってもうすぐ朝ですけども!?」
誰もが溶ける中で叫ぶ和輝は頭を抱え絶叫し、今度は何だと天を見遣って呪い吐く。
それは、昨夜暴食の大罪が王宮に招かれた後に始まった。
一次会が終わり職員達が二次会を求めて城下に繰り出した後のこと、和輝の部屋に集まる被葬儀者達が酒盛りの準備を初めていた時のことだった。
「……危ない!!」
唐突に叫ぶゼブルは飛び上がって床に触れ、結界を展開しながらその瞳を深蒼に輝かす。
何事かと表情で語る和輝にゼブルは視線遣り、無言で移動禁じて揺れる床をただ見つめ。
「地震?」
「誰が……」
問う和輝に意識向けることなく呟いて、窓の外へと目を向けてはその瞳より温度消し。
揺れが収まり数拍後、和輝へと視線戻しては無言で彼を見る。
今度は何?
時を隔て無言で告げる和輝にゼブルの意識は彼方行き、諦観の表情を浮かべる彼女は呟いた。
「変な術式が王都……ううん、王国中に張られてる」
「え"?」
それって大丈夫なの?
視線で語る和輝に解らないと返すゼブルは言葉失う様子に意識を戻し、笑みを浮かべては彼に近づき肩叩き。
目を合わせて微笑むと、覇気混じる強い声で音紡ぐ。
「安心しなよ! ちゃんと守ってあげるからさ」
「ちょっと調べてくるけど、身の危険を感じたらすぐ逃げて」
堂々たる佇まいで告げるその様は、誰でも惚れると和輝に熱弁されることとなるのだが。
見惚れる和輝に笑うゼブルは窓開けるや空を蹴り、反応待つことなく宙を舞い。
和輝が手を伸ばし掛けたその瞬間、部屋の扉が開かれた。
「ご主人様、酒持ってきたです……よ?」
「振られたのです?」
「手を出そうとして逃げられたのだ?」
和輝を一瞥するや理解したと表情で語る幼女達は哀れみとも侮蔑ともつかぬ視線を刺し投げて、誤解だと声にならぬ息で語る和輝は口閉ざす。
疑念が確信に変わる中、口の端引き攣らせる和輝は挙動正して視線上げ。
「何か変な勘違いしてるみたいだけどさ、結界が張られたとかで調べに行っただけだからな?」
「え? あのしょうもない威力しかない結界のことなのです?」
「あんなの子供でも防げるのだ」
「誰かの迷惑な悪戯じゃないかな?」
「そうですよ」
神経質に否定することは、雄弁に肯定することと同義だった。
辺りを見回し悟ったという和輝は努めて冷静な声を絞り出し、間髪置かず返る声に崩れ落ちて膝を就く。
そんな和輝の様子に満面の笑み浮かべる幼女達は手にする酒瓶を掲げ、歓喜の声を弾ませた。
「飲むのですよー!!」
「「酒だぁぁっっ!!」」
「こちらのお荷物お引き取りお願いしまーす」
「サナさんとマリナさんいらっしゃぁーいっ!」
「あれ? 寝てるぅーっ?」
「寝る子は強い酒で起こしてやるのだぁっ!!」
「さっきの悪足掻きについて、ゆっくり話を聞かせてもらおうじゃないのっ!!」
「さぁご主人様、口を開けるのですよ……♪」
「ちょ、止め……あぁぁあぁぁっっ!!」
目撃者曰く悪質な飲み会へと変貌するは一瞬で、救出されたマリナとサナまでもが放り込まれたことによって酒盛りは荒れに荒れることとなり。
化物飼い慣らす客人の部屋に放り込めば何とかなると思ってた。
気絶するサナとマリナを和輝の部屋へと放り込むこと命じた指揮官のみならず、関係者は纏めて口を揃えることとなる。
「2番、脱ぎまぁすっ!!」
「1番はぁ〜」
「「私だぁっっ!!」」
狂気に満ちた声が響く中、場を収める者なぞどこにもおらず。
天井知らぬ馬鹿騒ぎが逝き着く先は、誰の記憶にも残らなかったと回顧されることとなる。
次の日の朝のことだった。
「気持ち悪い……」
口元抑えながら起き上がる和輝は目を擦り、視線を彷徨わせては昨日を振り返る。
そのまま視線動かす和輝は部屋中に転がる少女や幼女達より目を外し、天井を見上げ固まって。
暫し経ってからのこと、再び視線戻すと何事かと目を剥いた。
そこにいるは例外なく一糸纏わぬ者達で、汗拭う和輝は袖なき服に首傾げ。
血の気を退かせながら自身の体へと視線遣り、辛うじて原型保つ下着の存在に恐怖しては更に幼女達より距離を取り。
一体何がしたかったのかと破らる自身の下着見ながら呟いて、荒れる部屋見渡しながら棚より服を取り出し身に纏う。
そして、この場より離脱を図ろうとした時のことだった。
「……あれ? 和輝さん……?」
唐突に起き上がるサナは肩跳ねさす和輝の様子に首傾げ、冷や汗流しながら強張った笑顔を向ける様子に困惑しながら辺り見て。
虚空を見上げること暫し、自身の体へと虹彩消えた瞳を向けるや一筋の涙流しながら問い掛ける。
「子供の名前は、何にしますか?」
「……俺が知るかぁぁぁっっ!!」
「逃がすとお思いで?」
冤罪も行き着くところまで逝き着いた。
爽やかな笑み浮かべる裏でそう思ったという和輝は扉開けるや疾走し、それを許さぬサナは酒瓶を手に取り口歪め。
和輝の逃走許すことなく後頭部へ投げつけ地を蹴るや、体勢を崩す和輝の腰を掴んで後ろ向きに投げ飛ばし。
「随分と舐めたことしてくれるじゃないですか♪」
「いや、あの……」
「ねぇ、どう責任取ってくれるわけ?」
和輝に跨り彼の首に手を置くと、重圧撒き散らしながら屈み目を合わせて問い掛ける。
微かに狂気混じる声へと返る音は何もなく、空気を漏らしながら震える和輝はただ救いを乞い願い。
「聞いてるの……ねぇっ!!」
「何をしているのだ!!」
勢いよく締まる首に目を見開いたその瞬間、鋭い声が響き渡って眠る者達が目を覚ます。
そう時間の経過を要することなく錯綜する視線が集約した後のこと、鬼気迫る表情で和輝の首に手を置く全裸のサナより距離取った。
痴話喧嘩の最中かと目で問う彼女達は答え待つことなく目を伏せて、同じ表情浮かべながら沈黙し。
「何か涼しいので……」
唐突に呟くマナは首傾げながら自身の体見遣り挙動止め、強張った顔より冷や汗流して石となる。
そんなマナの様子に疑問の表情浮かべる幼女達も視線を落とし、一糸纏わぬ肉体の存在に感情消して挙動止め。
和輝の瞳より虹彩が消え始めた時のこと、唐突に記憶でも戻ったが如く表情浮かべる者達は同時に呟いた。
「「疑ってごめんなさい」」
「で、サナさんは何をしているのです?」
それはそれ、これはこれ。
反響掻き消えぬ内に言葉重ねるマナは間を置くことなく話題変え、他の者達に驚嘆の表情浮かぶは一瞬で。
返る凄惨な笑みと息に表情強張らせては冷や汗垂らし、マナへと視線向けて足を引き。
「いえ、これから産まされる子供のことについてお話しようかと。ねぇ、マリナさん♪」
「そ、そうね……」
マナが昏い笑み浮かべる裏で矛先の一端がマリナへ向かい、頬引き攣るマリナは掠れた音を絞り出す。
何で私がこんな目に。
顔で語るマリナは救い求める眼差しを辺りに向けながら息引き取り始めた和輝の様子に目を剥いて、口を開きかけては返る圧に押し黙り。
そろそろ助けるかと顔を見合わす幼女達が目を合わせて頷くと、進み出るマナに合わせて嗤い声を弾ませた。
「これ見てから出直しやがれ、なのですよ♪」
「安心しなさい。何ならこれ見てみる?」
「まぁ、不満な結果だろうけどね」
それに合わせてサナとマリナに近づく幼女達は虚空より板を取り出すや、妖艶な笑みを浮かべて腕伸ばし。
浮く板が少女達の眼前に位置したその瞬間、指鳴らす音を重ねて板に次々と画像を表示さす。
音もなく切り替わる画像の速度は猟奇的だったと、遠巻きより見つめる和輝は後に語ることとなり。
場を支配する無言がそう長く続くことはなく、徐に和輝より離れるサナは床に頭を擦り付け静かな声を震わせた。
「すいませんでした」
全身から血の気が退いた全裸の少女を土下座させる構図は面白かった。
後に口を揃える幼女達を他所に和輝の顔より血の気は退いて、踏めと煽る見物人の様子に口の端を引き攣らす。
対して安堵とも不服ともつかぬ顔を和輝に向けるマリナは押し黙り、無数の感情一身に向けらる和輝は辺りを見回しながら歩を進め。
「じゃあ、俺はこれで」
「「どこ行くの?」」
扉を開けながら何事も無かったが如く口調で言葉を紡ぎ、飛ぶ声に肩が跳ねては足震え。
逃げたら解ってるよね?
無言で告げるその声に、社会的に抹殺される予感覚えたという彼の者はただ恐怖しながら時を待ち。
彼曰く永遠にも似た時間が過ぎ去り城内に活気溢れ始めた後のこと、満足げに笑むスズは朗らかに静かな声を弾ませた。
「じゃあさ、お兄ちゃん。朝ごはん作ってきて♪」
「あ、私は部屋に戻るので大丈夫ですよ」
どんな交換条件だ。
口の中で転がす和輝は拒否権なく進む話に口閉ざし、深い溜息と共に項垂れる。
そんな和輝は弱々しい視線で以て細やかな抵抗表すと、怨嗟混じる声を吐き出した。
「お前ら、朝食くらい自分で作れよ」
「「私ら料理できないんで」」
即座に返る声重ねた王国勢と幼女達の目は虚空見て、自身を指差すサキとナナの身体は抑えられ。
この子達に一体何があったんだろう。
垂れ込む陰鬱かつ悲壮な空気に表情で語る和輝だが、何を言うこともなく部屋出て騒動は終結し。
後に虚空漁った時のこと、昨夜から今朝にかけての写真を大量に発見しては目を剥いたと語られる。
和輝が部屋の扉を閉めた数拍後、舌打ち鳴り響いては胸抑えるマナが地に落ちる。
「やられた……」
「まさか昨日のアレ?」
「大口叩いて失敗したとか、随分と情けないわね」
吐き捨てたマナを嘲るリィネとサクラに無邪気な笑みなぞ浮かんでおらず、微かな声紡ぐ2人は陰湿に嗤ってマナ小突く。
そんな幼女達に笑み弾ますマナは熱量消えた目を微かに開けて息吐くと、重圧に満ちた凄惨な声を響かせた。
「そう、じゃあみんなの発症早めてやるわね♪」
言葉紡ぎ終わるや指鳴らすマナは飛び退いて、何事かと視線動かす他の者達は手にする服落として倒れ伏し。
時を隔てて虚ろな表情浮かべるリィネとサクラも抵抗能わず床に寝て、何を言うこともなく目を閉ざす。
「覚悟してろよ……」
幼女達が意識失う様を見届けることなく獰猛な笑み浮かべて呟くマナは壁見遣り、ただそれだけを言い残して落ち果てた。
対する和輝は厨房へと赴いて、扉の前で足を止めては怨念混じる音を吐き零す。
「異世界に来てまで何やってるんだろうな……」
逃げるかと呟く和輝は間を置くことなく首を振り、その瞳より光を消しては歩を進め。
厨房より出る職員呼び止めては事情を説明し、厨房利用の可否を問い。
「あ、はい。どうぞー」
偉い人向けの食事を作ってるんだし、まぁ無理だろうな。
そう思ったと語らるところとなるのだが、間髪置かず返る声に息漏らしては口閉ざす。
常識でも語るが如く態度を示す職員は他に何かあるかと目で告げて、口開く和輝は掠れた音を吐き出した。
「あの……部外者入れていいんですか?」
「えぇ、ここは毒を盛ろうが平然としてやがる連中が集まる場所ですからね」
「お……お疲れ様です?」
頬引き攣らせる彼に返る笑みは仄暗く、それ以上聞くのが怖かったと語る和輝は厨房の敷居跨いで中へ入り。
中にある物は自由に使ってくださいと投げらる声に反応し、鍋を洗っては棚より取り出す板と包丁を並べ。
「えっと、人参と茸と卵……これ、醤油?」
冷蔵庫より食材取り出し調理を始め、堂々たる佇まいで鎮座する醤油の存在に手を止める。
異世界に醤油ってあるものなの?
匂い嗅ぎながら顔で語る和輝はそれ以上何を言うこともなく、無言で炒飯を作っていた。
そんな和輝は捨て置かれ、国王執務室では穏やかな声が優雅に放たれる。
「フェリシアさん、戦争なんて野蛮でございましたわね。今すぐ撤回の書類送りましょう」
「それがいいですわね、マリナさん♪」
慈愛に満ちた笑み湛えながら茶会を始める2人の様子は世界の終わりを予感したと、王国眺める天使は思ったというのだが。
筆を踊らす2人は唐突に手を止め書類を交換すると、自身の名前を書き付け巻いては封をしながら筒に入れ。
「さぁ、後は持っていくだけですわ♪」
「私にお任せくださいな♪」
宣戦布告の撤回状を脇に、朗らかな声弾ませては静かに笑って茶を啜る。
後にこの書類が敵国エインドレーク帝国のみならず、世界を恐怖で包むことになろうとは、まだ誰も知らなかったと語られる。




