2ー3ー5
エインドレーク帝国宮殿で緊迫感が頂点に達している頃のこと、和輝はと言えば。
サナと幼女達に連れられ市井に下り、被害のあった場所を訪れていた。
「わー、綺麗に食い荒らされてるなー」
「サナお姉ちゃんが自棄食いしたときみたいだねー」
「ちょっ!? スズ……って、何見てるんですか!? 私こんなことしませんよ!?」
辺りを見回し呟く和輝に合わせてスズは言い、集まる視線に目を剥くサナは何を言い出すのかとスズに問う。
対するスズは軽く舌を出して笑み浮かべ、額に血管浮かべるサナの様子に足を引き。
和輝の後ろへと移動して、その様見据えるサナは辺りを見回し呟いた。
「本当に食い荒らしてこようか……」
何でこんな嘘みんな信じるんだよ。
疑いなき眼集まるサナは瞳を病的に濁らせながら声漏らし、冷や汗流す和輝達は黙ってサナより距離を取る。
そう時間を置くことなく表情戻す和輝達はサナを捨て置き歩を進め、被害建物を見遣っては通行人へと声を掛け。
誰からと言うこともなく集まると、その顔に困惑表し口開く。
「てかさ、これ本当に大罪の仕業?」
「違うと思うのだ!」
「そうです! 違和感がありすぎるです!」
「同感なのですよ♪」
「誤報掴まされた感じです?」
「どうなのだ? でも、見た感じだと言うほどの事はなさそうなのだ」
「なのです。あの雌豚の妄言だったのです?」
「雌豚て……」
空気も平和だし、通り掛かる人に聞いてもみんな知らないって言うし。
口火を切る和輝に頷く幼女達は発音と口の動きを分け会話して、戸惑う王国勢見遣って目を合わせ。
和輝より離れて辺りの様子見回すと、その身に纏う空気を変えることなく音を吐く。
「……さりげなく撤退させる?」
「いや、偽物だったと気づかせる方が良い」
「じゃあ、ここの住人の記憶を少し弄って……」
憂いに満ちた声微かに紡ぐ幼女達は言葉交わしながら指を振り、虹彩消える通行人見遣り振り向いて。
無言で虚空見上げる和輝に近づき首傾げること数拍、唐突に紡がる声に時止まる。
「……これ、帰って良いんじゃね?」
「どうしたの、お兄ちゃん」
「だってさ。暴食の大罪とか言うんだから、相当食い意地張ってるんでしょ?」
目を丸める従者達に代わって問うスズは頭大丈夫かと視線で語り、常識でも語るが如く口調で返す和輝に口閉ざし。
困惑を隠すことなくサナを見て、私に振るなと返す彼女に天見上げ。
諦観混じる表情浮かべて深く息を吐き出すと、声を圧し殺して笑う幼女横目に呟いた。
「……何か引っ掛かるけど、たぶんそうだね」
「でもそう考えるとさ、この状況おかしくね?」
「……確かに。そういえば、変な感じの空気もないし……偽物だったのかなぁ?」
そんなスズの様子に変なこと言ったかと首傾げる和輝は無造作に転がる料理の残骸指差し目を合わせ、返すスズも不自然だと眉を潜め押し黙る。
本当に暴食の大罪がいたのかと呟くスズ見る幼女達は満面の笑みを浮かべると、和輝に近づき顔を上げ。
「じゃあ、討伐に来たけど人違いだったということで」
「お疲れ様なのです♪」
「帰るのだ!」
「スズ、行こうか」
「そうだね〜」
明るい声を弾ませて、和輝の手を取るリィネとサクラは腕を引き。
促す和輝に返すスズは和輝の肩へと視線上げ、寛ぐマナ見て頬緩む。
時は、夕飯の匂い漂う時間帯へと差し掛かる頃のことだった。
「ちょっと皆さん!? 一応探すだけ探しましょうよ!」
「面倒くさいのだ」
「同じくー」
「同感」
響く鋭い声に振り返る者は何もなく、平坦な声返す者達は今日の夕飯何だろうかと語り合う。
そんな人間達へと手を伸ばすサナは口を開いてはまた閉じて、唇噛んで首を振り。
その瞳より光を消して悟りでも開いたが如く表情浮かべると、平坦な声を震わせた。
「このまま帰ると私、誤報掴まされたと聞いて機嫌の悪くなったマリナさんの相手をしなきゃいけなくなるんですけど」
「「……よし、帰ろう」」
心臓に悪い台詞は止めてほしいな。
誰もが足を止める中で重なったという思いはどこに届くこともなく、重なり響く独り言に血の気を退かせて息漏らし。
引き攣った笑み互いに向けては乾いた笑い声を微かに紡ぎ、再び王城へと足を向け。
「あーぁ、暫くみんな酷いこと言われるんだろうなー。何もできない穀潰しだと蔑まれたり、幼女だから仕方ないと事ある毎に言われたり……」
「おーし野郎共! 暴食しばくぞぉ!!」
凄惨に嗤うサナが陰惨な声を弾ませたその瞬間、サクラが太い声を轟かす。
何事かと目を剥く生物達は瞳孔開くサクラより距離取って、どうしてくれるんだとサナを見つめ贄と為し。
「あの年増に馬鹿にされるのは納得いかねぇ! おら、さっさと動けぇ!!」
「え……え……?」
「ぼさっとしてんじゃねぇぞ垂れ乳ぃぃ!!」
「いぃやぁぁ!! やめて! 胸掴んで引き摺るのは止めてくださいよぉぉ!!」
行き着くところまで逝き着いたと評される声が響くや戸惑うサナへと腕は伸び、乳を鷲掴みにして引き摺る様に悲痛な声が木霊して。
何があったのかと冷や汗流す野次馬達は踵返すと虚空見上げて敬礼し、強張る笑みを戻すことなく帰路へ着き。
「おい、どこ行くつもりだ?」
「「ヒュゥッ!?」」
「な、何の話なのです〜?」
誰一人として逃がすことなく迫る声に肩は跳ね、生贄はどうしたと振り返る。
濁った瞳と指を自身等に向けるサナに瞳孔開く人間達は怨念に満ちた息を吐き、対するサナも狂気に満ちた笑顔浮かべて相対し。
無言の非難が飛び交う中で手を打ち鳴らすサクラは微笑むと、凄惨な表情浮かべ吐き捨てた。
「逃 げ た ら 捥 ぐ よ ?」
「「こ、怖いよこの子……!!」」
「ど、どうやって探すのです!?」
「虱潰しに決まっているでしょ♪」
身を寄せる和輝達へと告げるサクラに浮かぶは、初めて見たと評されるほど、明るく美しい笑みだったという。
一方その頃、神帝王国王宮の最奥に存する国王執務室では。
「フェリシア! 大至急!! 天界との通信開いて!!!」
「ひうっ……って、マリナ!? 一体どうしたの、何があったの!?」
雑巾と化した布を纏うマリナが扉を蹴破り飛び入って、充血した目を極限まで見開き叫んでいた。
そんなマリナに叫び返すフェリシアは誰かと息を吐いては刮目し、何事かと目を疑っては驚愕に満ちた声を木霊させ。
「いいから早く! 時間がない!!」
「わ、解ったから……揺らすの止めて……」
そんな問いに答えることなく揺さぶらる肩に目を遣ると、困惑の表情強めて口抑え。
舌打ちと般若が如く表情向けらる中で何度も何度も頷くと、湧き上がる胃の内容物を飲み込み指を伸ばして息を吸い。
その瞳を金色に輝かせては宙に魔法陣現して、マリナより視線を外しながら鋭い声を轟かす。
〈我汝らに庇護されし人類の王なり 至急請い願う 我らの声を聞き遂げ給へ 我らを救い 導き給へ!〉
「我を呼ぶ者は汝……」
「無駄な口上は後にしなさい!」
祝詞を捧げるや光り輝く円盤現れ神々しい光を纏った者が顕現するも、マリナの一喝で黙らされ。
目を剥く天使とフェリシア他所に頭掻き毟るマリナは荒々しく息を吐き出し床を踏み、掠れた太い声を投げつけた。
「今すぐ戻って報告しなさい! あのアホ帝国の勇者共、不死身の加護を得たって!!」
「「え"?」」
「しかも、あれはただの不死身じゃない! だからすぐに上層部に上げて、調査及び討伐を!!」
「いや、それは私の権限では……」
「やかましい! 返事はぁっ!!」
「Y,Yes! Your Majesty!!」
狼狽する天使とフェリシアに反論許さぬマリナは畳み掛け、恐怖に満ちた声を震わす天使は所属先へと舞い戻り。
下界滞留の最短記録として登録される未来には、想像すらも及ばなかったと当該天使は語ることとなる。
全てが終わった後のこと、深く息吐くフェリシアは殺気撒くマリナを見据え吐き捨てた。
「……話は後で聞くから、お風呂入って着替えてきなさい」
今度は何をやらかした。
面倒事の予感に頭を抱えるフェリシアは、痛む胃を抑えながらそう思ったという。
「み、ミカエルさんにお目通りを……」
王国でのやり取りから間を置くことなき天界で、弱々しい声が微かに響く。
少女の外見をした天使は巨大な箱の前で土下座して、その眼前に立つ鎧纏う天使は困惑し。
「いえ、それが我々にも居場所が分からず……」
「そ、そこを何とか……」
「いえ、そう言われましても……」
「そんな……」
握る槍より力抜きながら髭を撫で、途方に暮れる天使より視線外して押し黙り。
通り掛かる天使達より白い視線向けらる中に現れる、桜色の髪を肩まで伸ばした少女を視界に収めた時のことだった。
千載一遇の機会だと思ったという2人は視線合わせて頷くと、揃ってラファエルの腹目掛けて体投げ。
「ラファエルさぁぁん!!」
「我々をお助けくださいぃぃ!!」
「ち、ちょっと離れてくださいよぉっ!」
事態が落ち着くまで暫く時間を要したと、辟易とした表情で吐き捨てられることとなる。
「で、何があったんです?」
「はっ! それがですね……」
「ラファエルさん! 大至急主神級の方々へ連絡を!! あの帝国に召喚された勇者に、世界の理から外れた加護がかかっている恐れがあります!!!」
「はい? クリューネルさん、本気ですか?」
事態が落ち着きを取り戻し始めた頃のこと、気怠さを隠すことなく問い掛けるラファエルに返さる声は遮られ。
スラオシャ先輩がぶちのめして、ミカエル先輩とウリエル先輩とが一緒になって脅威なしと判定しましたよ?
何があったのかと視線で語るラファエルに、クリューネルと呼ばれた少女は背中まで伸びる茶髪を靡かせ泣き付いた。
「神帝王国の怖い顔をした女性とおぼしき存在に、今すぐ調査依頼を上げるようにと命令されました!!」
「んー? とりあえず、報告しておきますねー」
一体この子に何があったの?
無言で彼女を指差すラファエルは男を見遣り、返る困惑に満ちた表情より視線外して空見上げ。
緊迫感なき表情を変えることなく転移して、目を剥くアンドロメダに涙目を晒すこととなる。




