2ー2ー4
本人の預り知らぬところで一方的に、将来の話が進められている和輝はといえば。
「……ここ、どこ?」
人通りも疎らな一画で天見上げ、途方に暮れながら佇んでいた。
方向も確認せず逃げたのは失敗だったかと呟く和輝だが、いくら後悔すれども時が戻ることはなく。
不安げな表情浮かべる和輝は俯くと、その顔より感情消して首傾げ。
「……あ、何も困らない」
唐突に悟りでも開いたが如く表情浮かべて平坦な声を微かに紡ぎ、挙動止めること一拍。
面倒事から逃げられたし、良いことばかりじゃないか。
俄に盛り上がる和輝は晴れやかな笑み浮かべ呟くと、周りを見回した後に両腕伸ばして息を吸い。
「……ナンパじゃぁぁぁ!!!」
「ど、どうしよ……」
知り合い不在を確認し、生まれ育った世界では世間体という枷で縛られていた欲望を解き放つ。
そんな様を遥か後方の物陰より見つめる少女は冷や汗流して頭を抱え、深く息を吐き出し覚悟を刻んで顔を上げ。
「あれ? 和輝さん?」
どうしたんです、こんなところで。
偶然を装い転移して、和輝の後方より微かに強張った声を投げ掛ける。
引き攣る表情筋を強引に抑えて笑み浮かべる少女は伸ばしかけた手を下ろし、同時に振り返る和輝は少女を見据えて輝かんばかりの笑み浮かべ。
「アァァスモォォーー!!」
「ふ、ふぁい!?」
地を蹴り少女に抱き着いては抱え上げて宙に投げ、受け止め投げることを繰り返す。
何事かと目を剥くアスモが状況に流されること暫し、唐突に和輝の眼前に転移すると飛び退いて。
真紅に染まる頰を背けて言葉に成らぬ息漏らし、目を瞑って地を蹴り和輝に抱き着くと。
「ど、どうしたんですか?」
和輝の背中に手を回し、和輝の動きを封じながら問い掛ける。
そんなアスモに上機嫌で口を開く和輝だが、言葉を発することなく虚空を見上げて挙動止め。
「……すいません、夢だと勘違いしてました」
「お、お疲れ様です……」
一筋の涙を零しながら掠れた声を震わせて、理解したと表情で語るアスモはそう告げる。
沈黙が場に舞い降り暫し経ち、示し合わせることなく同時に離れる2人は視線を合わせてまた外し。
土下座を始めようとする和輝の手を取るアスモは微笑むと、鈴が如く澄んだ声を弾ませた。
「和輝さん、私と一緒に回りませんか?」
赤みがかったその顔は、月光が水鏡に映った桜を照らすが如く幻想的で。
夢幻的なアスモに見とれ呆ける和輝だが、そう時間を置くことなく我に返ると強張る口を抉じ開ける。
「あ、うん。お願いします」
そんな和輝に小さく笑うアスモは腕伸ばし、和輝の腕と絡ませ顔を上げ。
無邪気な笑顔を浮かべると、幸福に満ちた空気を纏い囁いた。
「じゃあ、行きましょうか♪」
一方その頃、リィネはと言えば。
「ね、ちゃんと話せばお父さんも許してくれるから! 私も一緒に付いて行ってあげるから、一緒に謝ろ!」
「そうだぞ。父親ってもんはな、例え妻が殺されようと、犯人が娘であるなら最後は許してくれるもんなんだよ!」
「あなたはまだ引き返せる! こんな薄汚れた世界なんかじゃなくて、お父さんと日の当たる暖かい世界に帰って!!」
大勢の人々に囲まれながら、本人曰く心当たりのない説教を受けていた。
「いや、私娘ってわけじゃ……」
「そんなことは言うもんじゃない!」
「そうよ! あなたにもあるでしょう? 父親が大好きっていう感情が!!」
「え、えと……」
何この状況。
自身の扱いに狼狽するリィネは口元で言葉を転がし後退り、そもそも何でこんな事になったんだっけかと天見上げ。
周りの大人たちが涙を流し始めた頃のこと、リィネの眼前に現るマナは平坦な声を突き刺した。
「……何やってるの?」
あんた、今度は何をしでかした。
瞳と同じく紫の髪を靡かすマナは腕組むと、胡乱な眼差し併せて問い掛ける。
そんなマナへと虚ろな眼光向けるリィネは息を吐き、開きかけた口より吐息漏らして座り込み。
「あ、アハハ……」
遥か遠くへと想い馳せ、安堵と疲れ交じる笑い声を微かに紡いでマナ見上げ。
視線を返すマナは腕伸ばし、出来の悪い妹でも見るが如く視線向けると指鳴らし。
「……世話が焼ける」
「……え?」
「私に感謝しなさいよー」
目を逸らして溜息吐くと、踵を返して歩き去る群衆横目に間延びした声を響かせる。
困惑するリィネへと視線を戻すマナは無言で雑踏へと紛れ、残さるリィネはマナが消えた先をただ見つめ。
「……本当に、何者なの……?」
様々な感情入り交じる顔で手を伸ばし、暫し呆然と立ち尽くしていた。
一方その頃、サナはと言えば。
「そういえば、昔はフェリシアとマリナも一緒に来てたよね」
偶然再会したサキとナナ、スズと共に、夜店を回っていた。
前回の討伐祭こそ除かれるものの、本来国内最高規模を誇るこの祭りは、集合場所を決めなければ再会が困難なほどの様相を誇っていて。
「しっかしまぁ、討伐祭は楽しかったねぇ〜」
「本当にねー! 新年祭を超える祭りが出てくるなんて、思ってもみなかったよ!!」
「サナお姉ちゃんたち、人気だね〜」
「まだ言う!?」
「「何度でも言わせてもらおう! 討伐祭は最高だった!!」」
「ねぇみんな、そろそろぶっ殺すよ?」
そんな中で偶然再開を果たした和輝の関係者たる王国勢は、軽口を投げ合いながら怪しい夜店を摘発し。
逃げる夜店の運営者を縛り上げた時のこと、儚げな笑み浮かべるスズは呟いた。
「でも、フェリシアさんとマリナさんがいないと……何か、足りない感じするよね」
「そうだねー。ま、昔はもっと大変だったけど」
「今じゃ国から除け者にされるまで出世かー」
「ナナお姉ちゃん、さすがに可哀想だよっ」
「そんなスズも、笑い堪えてるじゃん♪」
「えー? そんなことないよー?」
和やかな空気が流れる中でただ1人、冷徹な笑顔を浮かべるサナはどうしてやろうかと吐き出して。
そう時間を置くことなく頬を緩めると星空見上げ、微かな吐息を漏らし呟いた。
「こんな日が、ずっと続けばいいのにな……」
少女の願いは満天の星空に吸い込まれ、祭りの喧騒も枷外し。
留まることを知らないで、祭りは盛り上がりを見せていた。




