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大混乱に陥る天界の様子なぞ知る由もない神帝王国であるが、その一画にある建物の中では。
「ちょっと……誰か何か喋らない?」
「黙れ、そんなに何かやりたいなら一発芸でもやってろ」
「……ごめんなさい」
暗く重い空気立ち込める中、和輝たちがマリナ曰くお茶会をしていた。
そんな最中、疲れたような息を吐くマリナは打ち拉がれるサナを他所に顔を上げると和輝を見据え。
「さて、それでは本題に入りましょう」
凛とした声響かすと同時に張り詰めた空気へと変じる空気に獰猛な笑み浮かべ、幼女たちより突き刺さる傲慢な視線に眉を上げ。
口を開き微かに息を吐き出すも、首を振るマリナは表情を戻して冷徹な声音で言葉を紡ぐ。
「改めまして、神帝王国宰相のマリナ・ヨハネスと申します。王国全権として、帝国軍の統治者、天神和輝閣下に契約を申し込みます」
「何の契約だ……?」
「貴方にやっていただくことになる、魔族討伐に際しての協約です」
「あぁ、それなら……」
身構える和輝に表情を変えることなく淡々とした声を響かすマリナだが、返る声に安堵したような息を吐く和輝は無邪気な表情浮かべながら口開き。
薄く嗤うマリナの様子に首を傾げながら2つ返事で了承しようとしたその瞬間、マナが和輝の顔を蹴飛ばし残酷なる妖艶な声を響かせた。
「待つのですよ」
その声に誰もが目を剥きマナの方を仰ぎ見るが、既にそこには先程までの可憐なるマナなぞ存在しておらず。
全てを見透かすが如く表情を浮かべてただ嗤い、まるで一片の隙すら見逃さぬとでも言うかのように突き刺す抉るような視線に肩を震わせ怯えたような目を向けて。
その位置よりマナの顔を見れぬ和輝以外の誰もが恐怖に満ちた表情浮かべ、その顔より血の気を失い戦慄した表情浮かべて押し黙る。
「説明はちゃんと最後まで聞くものなのですよ♪」
だが、時間が経つに連れ増す威圧的で重厚な空気に、浅く荒い息を吐くマリナ以外の王国勢はマナへと懇願するような目を向けて。
そんな王国勢に一瞥すらくれることなくその身より発する圧力を増すマナは、その瞳に妖しい光を灯すと和輝を見据え。
「確かにそうだな。説明の続きを頼む」
鋭い視線を突き刺し問いかけるその様に満足げな笑み浮かべると、和輝の首元にまで手を伸ばし。
微かに舌打ちし狡猾な政治家の顔へと表情を変えるマリナの方へと目を向けて、凄惨な笑みを浮かべて嘲笑う。
「へぇ、やっと本性出したってわけ?」
小さく紡がれた声は誰に届くこともなく掻き消えて、それと同時に他の幼女に浮かぶ値踏みするが如く表情に怯え最早使い物にならぬ王国勢は涙を流して蹲り。
「分かりました。ご説明させて頂きます」
他の者たちの様子に忌々しげな視線突き刺すマリナは息を吐くと昏い笑み浮かべ、据わったその目を妖しく輝かせて口開き。
「さて、契約の内容ですが、まずは捕獲した魔族の処遇と許容損害、工作員に対する偽造……」
「へぇ? やり合おうって言うの?」
言葉を紡ぐと同時にその瞳より光を失う和輝だが、獰猛な笑み浮かべるマナは頬杖を就き髪で顔を隠す幼女たちへと目を向けて。
「待つのですよ。契約書はもう作ってあるのです?」
微かに頷く幼女たちを尻目に冷徹な笑みを浮かべると、強制的に会話を塞き止め強引に会話を引き寄せ嘲笑い。
口を開くもふと気づいたような表情浮かべるマリナは言葉を止めるとマナへと感情籠もらぬ目を向けて、一拍置き平坦な声を響かせた。
「えぇ、ございます」
そのまま和輝の方へと隙を伺うような視線を向けるも、即座に温度を消してマナの方へと視線を戻し。
口元を吊り上げて紡ぐマナの弾んだ声を、感情表すことなき平坦な表情を以って受け止めた。
「なら、それ見ながら話した方が説明が楽なのですよ♪」
「あーぁ、早く帰りたいのだぁー」
「何で最初から出さなかったですか? 余計な時間喰ったですよー?」
マリナに反論させる時間を与えることなく紡がれるリィネたちの声に鋭い視線を突き刺すマリナだが、即座に表情を戻すと無邪気な笑み浮かべる幼女たちの様子に息を吐き。
「分かりました。契約書というよりも、内容を記した物をお渡しします」
吐き捨てるようにしてそう言うと、机の下に置く鞄より建材よりも太い厚さを誇る本を取り出し意識を戻す和輝に問答無用で押し付けた。
「こちらになります」
無表情で押し付けられる自称本を手に目を剥く和輝だが、和輝の腕が地面へと吸い込まれた瞬間仄かな慈愛混じる視線を送るマナは指を振り。
「え……?」
唐突に重量を失ったその本を持ち上げ驚愕に満ちた表情浮かべる和輝に微かに微笑むと、机へと降り立ち幼女たちと共に茶菓子を頬張り息を吐く。
そんなマナたちを見て困惑の表情浮かべる和輝だが、疑問の表情浮かべながら本を机へと置いて最終頁を確認し。
鎮座する五千九十一という数字に目を剥き絶望に満ちた表情浮かべてマリナを凝視するも、目線が合わさることはなく。
「お疲れ様、なのだ」
「頑張るですよ」
そんな和輝の肩にリィネとサクラがそっと手を置き慈愛に満ちた声を響かすが、そんな2人の声に和輝は1人虚空を見上げ涙した。
「さ、さすがにこの量は一日で終わらないから、一旦持ち帰っても……」
「全て緊急案件にございます」
藁にも縋る勢いで言葉を紡ぐ和輝だが、寄る辺もなく切り捨るマリナの声に懇願するような目を向けて。
取り合わぬマリナが視線を合わすことなく時は過ぎ、急速に瞳が濁る和輝は項垂れ悲哀に満ちた息を吐き。空気に似合わぬ声響く。
「頑張って読むのですよ、ご主人様~♪」
どこにも味方はいないのか。
空気に合わぬ声が響く中そう思う和輝であったというが、典型でも受けたかのような表情浮かべる和輝は晴れやかな笑み浮かべ。
「この契約って、魔族討伐に関しての契約だったよな?」
「はい、そうです」
「なら、マナやリィネ、サクラも関係あるってことだよな?」
紡がれる弾んだ声に訝るような表情浮かべるマリナは慎重に言葉を紡ぐも、続く声に言葉を止めて和輝を見据え。
口を開いては掠れた息を微かに吐いて、苦しさ混じる声を吐き捨てるようにして言い放つ。
「……えぇ、そうなります」
そんなマリナの答えに満足したような笑み浮かべる和輝は若干逝った目を両隣に座る幼女に目を向けると、低い狂気に満ちた声を響かせた。
「みんなで一緒に読もうな……!」
そんな声に固まる幼女たちは呆然とした表情を浮かべて和輝を見据えるが、何を言うこともなく笑顔を浮かべる和輝の様子に体を震わせ抱き合って。
「よ、幼女だから難しすぎて解んないのだ!!」
「そ、そうです! 幼女は幼女らしくお外で遊んでくるです!!」
さりげなくこの場より逃走を図るも、指を鳴らした和輝に従い2人の眼前に降り立つマナに引き攣った笑み浮かべ。
〈性奴隷って、興味あるか?〉
紡がれるマナの声に、何を言うこともなく座り込んで壊れた笑顔を和輝に向けた。
「「もう好きにして……」」
その一方で、現在ミクとルナの侵攻により大混乱に陥っている天界では。
「ま、魔界の軍勢が攻めてきたぞぉぉ!!!」
「もう勘弁してくれぇーっ!!」
「スラオシャは!? アンドロメ様はまだか!!!」
悲鳴が悲鳴を呼び、混乱に拍車がかかっていた。
だが、逃げ惑う天使たちに時間の猶予を与えることなく無数の槍が降り落ちて。
「ここは我々が占拠したぁっ!」
響く声に誰もが言葉を止めて、声の主たる手にした槍を打ち付けながら漆黒の翼はためかせる美形の少年を仰ぎ見る。
だが、その後ろより躍り出るミクとルナに目を剥き口を開いては掠れた息音を響かせて。
「直ちに責任者を前へ! さもなくば全員皆殺し……」
「誰に断って天界占拠しようとしてんだこらぁっ!!」
「天界殺るのはあたしたちなんだよ! 余所者は引っ込んでな!!」
傲慢な声響くと同時に轟く太い声に諦めたような笑み浮かべ、首元に剣突きつけられる少年に天使たちは憐れみの視線向け。
そんな天使たちの様子に瞳孔を開き拳を握る少年だが、深く息を吐くとミクとルナを睨み付け。
「愚かな人類よ……」
「「あばよ、変態野郎」」
低く威圧するような声を響かすも、凄惨な笑み浮かべるミクとルナは残酷な声を冷徹に紡ぎ。
少年が飛び退こうとしたその瞬間、首は落ち残る胴と共に肉片と化して燃え上がり。
それを確認することもなくミクとルナは素早く後ろを振り向くと、剣を伸ばして嘲笑う。
「「今度邪魔しようとしたら、殺す」」
「ギィヤァァァッッァァァ!!!」
剣の先へと転移した少年は断末魔の叫び声を響かすも、愉悦に満ちた笑み浮かべるミクとルナは魔界軍の最奥まで少年を勢い良く蹴飛ばして。
「「何見てんだこら、しばかれてぇかぁっ!!」」
「ひいいぃっぃぃぃ!!!」
自身等を見つめる魔界軍へと迫力に満ちた声を轟かせて盛大に恐怖の感情を植え付けると、抵抗の意思折り魔界の軍勢を追い払う。
そして、魔界の軍勢が完全に退却するのを見届けると天使たちの方へと逝った目を向けて。
「さて、次はお前らか……!」
「い、いやぁ……」
狂気に満ちた声響かすも、最早逃げる勇気すら奪われた天使たちがいたそうな。
さて、大混乱が各地で発生する最中、神帝王国王宮では。
「あら、久しぶりじゃない」
茶色い外套を纏った人影が集団で一人の女に襲いかかるも、こんなものかと呆れたような声響き。
「邪魔よ」
虚空より取り出された杖が振り下ろされると同時に響く疲れたような声に、誰もが抵抗虚しく四肢を拘束され吊るされて。
「あー、一応聞くけど。今ここで死ぬのと反逆罪で裁判にかけられてから死ぬのと、どっちがいい?」
襲撃者たちに向け退屈そうに欠伸をしながら問いかける、女王フェリシアがいた。




