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国王執務室で起こっている、生死の境を彷徨う国王と執政官のことなぞ露知らず。
「……放っておいて良かったの?」
「いいんじゃない?」
「こんなときくらい、国王と執政官に頼っとこうよ」
和輝たちはといえば、王宮の外で気まずそうな声を紡いでいた。
時は暫し遡り、マリナが和輝の部屋にやってきた時のこと。
面倒事の予感を察知したというサキとナナは、無事部屋を脱出することに成功したというのだが。
暫し時間が経ってから、そろそろ終わっただろうと笑い合って和輝の部屋へと足を向け。
扉へと手を伸ばしたその瞬間、大泣きしながら部屋を飛び出すサナに手を伸ばして固まって。
「「うっそぉー」」
和輝君よ、お前何てことしてくれたの。
何事かと低い声を響かせながら踵を返し、歩き去ろうとしたところで立ち止まり。
「逃げたらぶっ殺されるよね、味方いなくなるよね?」
「……マリナのとこ行くのとこっち何とかするのと、どっちが楽かなぁ」
あれは、中々の修羅場だったね。
後に彼女たちはそう語ることになるのだが、昏い笑み浮かべる2人は何を言うこともなく息を吐き。
再び踵を返して和輝の部屋に入り、どうしようかと虚空を見つめて時が過ぎ。
「うし! スズのとこ行こう!!」
天啓でも受けたような顔をしたサキは、何もかもを放り投げ。
誰もが異論を差し挟まぬまま時が過ぎ、今現在へと至るわけであるのだが。
「で、これからどこに行くの?」
「えーっと……そうだね、貴方を召喚する時にこっち側の扉を開いた人のところかな」
サキとナナに連れられ王宮の外に出た和輝が問う声に、ナナはどう説明したもんかと困惑したような表情浮かべて和輝の方を仰ぎ見て。
「ほぉ? それは楽しみですねぇ!!」
「「ひぃっ!?」」
据わった目を怪しく輝かせ響く狂気に満ちた声に、飛び退き腰を抜かして恐怖に満ちた声を響かせる。
スラオシャが脳内に浮かんだという和輝だが、サキとナナ曰く和輝に浮かぶは殺人鬼の顔で。
「ちょっとぉっ!? 顔! 顔!!」
「何か色々と怖いよ!?」
そんな前方の光景に、和輝の後方に佇む2人の幼女と一匹の妖精のような生命体は、楽しそうに笑っていた。
そんなほのぼのとした空気とは対照的に、王宮にある国王執務室では。
「だってぇっ! 勝手に色々決められてたんだもん!! みんな死んじゃえば良いって思ったんだもん……」
「単純に伝える時間が無かっただけだって……」
さめざめと泣くサナに、マリナが呆れたような視線を突き刺していた。
そんなマリナへと恨みがましげな目を向けるサナは、涙を拭って鼻啜り。
「だって……3年前にも、知らない間にフェリシアとマリナが私だけを戦場に送って……」
「ちょっと待ちなさい?」
弱々しい声を響かすが、そんなサナの言葉を遮るフェリシアは引き攣った笑みを浮かべ詰め寄って。
「あれ……マリナとサナが共謀して、私を崖から人食い鮫がたくさんいる海に突き落としてくれた腹いせってことで話着いてるよね? しかも、1人だけで勝ったよね?」
「そういえばあれ、サナとフェリシアに嵌められて、私の下着姿の写真集出されたから腹いせにやったものだったよねぇ?」
手の関節を鳴らしながらそう告げるも、ふと思い出したような表情浮かべるマリナは凄惨な笑みを浮かべそう告げて。
「何? 私が悪いって言いたいの!?」
「逆に無罪だとでも言う気か!?」
「そもそも……!」
「じゃあ5年前にも……!」
そこから先は、従業員曰く年相応かそれより下の、無邪気な子供の喧嘩だったという。
だが、そんなことが30分ほど続いた後のこと。
「……止めよ、虚しいだけだわ」
「……うん、そうだね」
「……久しぶりに、生産性のない泥沼やったわ」
床に倒れ込む3人は、虚無感に打ち拉がれたような表情を浮かべ虚空を見上げていた。
そんな中、首を振るマリナは意を決したような表情浮かべてサナの方へと目を向けて。
「サナ、一応この後のこと伝えとくね」
「え、あ、うん」
「「帝国軍、乗っ取るよ……!」」
唐突に変質する空気に戸惑うサナへと獰猛な笑み浮かべ、まるで恋人を待つかのような顔でそう言った。
そして、未だ1人しかいない帝国軍の長の和輝はといえば。
従者3人と私服に着替えたサキとナナと共に、広い庭を有する質素な家の前へと立っていた。
「スズは……この時間だと庭だねー」
「あー、そっか」
ふと思い出したような表情浮かべそう呟くナナの声に、伸ばした手を下ろすサキは建物の裏側へと足を向け。
そう時間が経つことなく視界に映る、花に水やりをしている少女に手を振り2人は近づいた。
「あ、いたいた!」
「スズー!!」
響く声に目を向ける中学生ほどの容貌をした少女は、そこにいる者たちに驚いたような表情浮かべ。
「あれ、お姉ちゃんたち? 今日は早……」
肩まで伸びた日に当たり薄く輝く黄金の髪を靡かせて、後方で所在なさげに佇む和輝たちを見て首を傾け問いかけた。
「そっちのお兄さん達は誰?」
見ない人がいるけど、友人の少ない姉たちが強引に連れ込んできたのだろうか。
こんな小さい子まで手を伸ばすだなんて、よっぽど友達に飢えてたの?
そう思ったという少女の受け手曰く憐れみの目を向けられるサキとナナは、何故かは知らぬが計り知れない心の傷を負ったといい。
「「……絶対お前よりも年上だからな」」
打ち拉がれるサキとナナを他所にそんな呟きもあったのだが、それは誰に届くこともなくさて置かれ。
頭を掻きどうしたものかと虚空を見上げる和輝は少女に近づくと、凄惨な笑顔を浮かべ囁くように吐き捨てた。
「えっと……君に召喚された生贄だよ?」
「ひっ! ご、ごめんなさい……!!」
死の恐怖が闊歩する、森林にね。
怖がらせまいと感情を圧し殺したと後に語る和輝だが、余計に怖がらせるだけの結果に天仰ぎ。
「どーせ俺なんて……」
「……何か、哀れなのだ」
「面白いからちょっと放っておくのですよ♪」
「いや、そこは慰めてあげようよ……」
「あ、あぅあぅ……」
涙し隅でいじける和輝に幼女が群がるという、サキとナナ曰く中々見ない光景が広がっていた。
「……何これ」
「……さぁ?」
いつの間にか捨て置かれた2人はそう呟くと、何を言うこともなく和輝たちを冷たい目で見つめていた。
一方その頃、マリナはといえば。
「嘘でしょめっちゃ気まずいやん!!」
いじける和輝に群がる幼女達へと冷たい視線を浴びせるサキとナナを見て、間の悪さを呪っていた。
結局自分を呪っているのだから、この後酷い目に会わされるのは必定だろうと同行者は語ることになるのだが。
そんなことに露ほども気づかなかったというマリナは、目に涙を浮かべながら話しかける機会を伺って。
「……私、何で連れてこられたんですかねー」
そんなマリナの様子を、諦めの境地にでも至ったかのような顔をしたサナが虚ろな目で見つめていた。
だが、後ろで2人に監視されていることなぞ露知らず、懸命に和輝を慰める少女は手を打って。
「ほ、ほら! 私、スラオシャ様の命令で扉を開けただけだから、お兄さんのこと知らなかっただけなの!! げ、元気出そ?」
傍から見れば小学生か中学生に慰められる、情けない高校生の姿がそこにあった。
暫し隅でいじけていた和輝だが、ふと気づいたような表情を浮かべると立ち上がり。
「ありがとう。大切なことに気づいたよ」
うん?何か言ったっけ?
そう呟く少女は、晴々とした笑み浮かべる和輝に首を傾げて呟くが。
まぁ、元気になってくれたらそれでいいか。
そう思ったという少女は、それ以上何を言うこともなく笑顔を浮かべて和輝を見据え。
「じゃあ……」
「スラオシャ、死ぬより辛い目に会わせたる」
言葉を紡いだその瞬間響く、仇でも誓うかの如く憎しみに満ちた宣誓の声に目を剥いた。
「お、お兄さん!?」
自分は、一体何の背中を押したのだろうか。
悲壮な覚悟を決めながら遥か高みを睨みつける和輝の様子に、少女は背筋を凍らせながら考えたというのだが。
冷や汗流す少女は首を振ると視線を外し、いそいそと武具の手入れを始めた和輝の従者たちに強張った笑みを浮かべ絶句して。
薄く嗤う幼女たちの様子に怯えたような表情浮かべるも、深く息を吐き朗らかな笑みを浮かべると和輝の方へと目を向けて。
「落ち着いて。ね? 私は天桜鈴音だよ! みんなはスズって呼んでます!!」
お兄さんたちは?
和輝の腕を掴み問い掛けるスズの声に、スズの方へと目を向ける和輝は冷徹な視線を突き刺して。
怯え隠しきれぬ笑みを浮かべて震えるスズの様子に息を吐くと、天界へと呪詛を吐くのを止めて表情を和らげ口開く。
「俺は天神和輝っていうんだ。よろしく」
「私はリィネなのだ」
「マナなのですよ~♪」
「私はサクラです」
そんな和輝の声に続く3つの声にの方へと目を向けて、ふと気づいたような表情を浮かべたスズは一瞬だけその瞳を黄金に輝かせ。
「……へぇ」
和輝に詰め寄り顔を近づけ眼球を至近距離で見つめると、感情籠もらぬ冷徹な声を微かに紡ぐ。
「ちょっ……近……」
だが、響く驚いたような声に目を見開くと飛び退き距離を取り。
慌てたような表情浮かぶも即座に朗らかな笑み浮かべ、和輝に近づき弾むような声を響かせた。
「全員覚えました! お兄ちゃん、って呼んでもいいですか?」
「え……? あ、うん……?」
「わーい! やったー!! これからよろしくね、お兄ちゃん♪ みんな♪」
そんなスズの様子に首を傾げ疑問の表情を浮かべる和輝だが、それに答える声はどこにもあらず。
響く感情籠らぬ表面的な声に、和輝以外全員がスズへと冷徹な視線を突き刺していた。
「あ、和輝様、ちょうどいいところに……」
だが、会話が止まったその瞬間、満面の笑み浮かべるマリナが困惑した表情を浮かべるサナを引き連れ現れる。
「「お前正気か!?」」
「いやいや! いきなり何ですか!?」
「……マリナ、ちょっと頭の病院行こうか?」
響く鋭い声に目を剥くマリナそう叫ぶも、直後に紡がれる平坦な声に言葉を失い崩れ落ち。
「安楽死がいいかな、豚の餌がいいかな」
微かに響く虚ろな声に誰もが冷や汗流してサナより距離を取る中で、ふと気づいたような顔をした和輝は問いかける。
「さっきスズが言ってた、お姉ちゃんたちって、どういう意味?」
「サキとナナ、スズは姉妹で、私の従姉妹なんですよ♪」
そんな和輝の声にさりげなく割り入るサナはそう告げて、足下に転がるマリナの頭を踏みつけ息を吐き。
そんなサナの様子に苦笑するサキとナナは手を上げて、強張った笑み浮かべる和輝の視線を戻して言葉を紡ぐ。
「ちなみに、私の本名は天桜咲夜で」
「私が天桜七羽ね」
よく間違われるから、ちゃんと覚えてよ。
そう言って快活に笑う2人に、和輝はふと見知った顔が思い浮かんだそうな。
「……あいつら、どうしてるかな」
暴れてる予感しかないと呟く和輝だが、戻ったら殺されるかもしれないと半ば確信に満ちた自信があったそうな。




