6ー5ー4
和輝がコトリバコを破壊すると同時期、廃校の森では般若が如き形相で虚空を見つめる主神級二体と大天使三体がいた。
「「……いい加減にしろや殺すぞてめぇ!!」」
「いや、落ち着け……」
そんな中で唯一冷めた目を向けるミカエルは、嘆息混じりに怒り狂う周りを見回し顔を上げ。
表情消して全てを放り投げたその瞬間、この世界を纏う重く苦しい空気が霧散する。
首を傾げるミカエルだが瞳孔開くまでは僅かな時間、剣を虚空に放り投げると槍を取り出し穂を掲げ。
「おい、気をつけ……まぁ、言う必要はないか」
呆れ混じる笑みを浮かべて槍構え、息を吐き出し地を蹴った。
向かう先は木々が倒れる瘴気の連鎖にして嗤い声響く暴風荒れる呪いの竜巻の中心地、霧散した圧力を吸い込む大災害と呼ぶに相応しき怪奇現象の根源で。
大人しくしていれば、優しく地獄へ連れて行くものを
正面から突き進んで風を裂いたところで槍に眩き雷光を纏わせ穂先振り、一度引いては淡々とした声鳴らす。
〈神の如き者〉
瞳を金色に輝かせ圧倒的と語らる威圧感を放つ槍を突き出して、荒れ狂う暴風を残虐な暴風で迎え撃ち。
「ヒューッ! さーっすが鬼畜のミカエル先輩!!」
「これはスラオシャも負けてられんなぁ!」
「黙れ私にそんな趣味はない!!」
「アーッハハハハ!! ざまぁみさらせ腐れ砂利童!!」
「おいさっさと出てこいよ! 今なら優しい優しい私たちが泣き喚く気力なくなるまで殴るだけで許してやるからさぁっ!!」
暴風に苦悶の声が混じるを聞き歓喜の声を重ねる天界勢は、最早紛うことなき悪役で。
お前ら……
腕の力を緩めることなく喝采響かす神々たちに呆れ果てるも僅かな時間、増す風に目を見開き呟いた。
「ほぉ? 大したものだな」
いくら環境が悪いとはいえ、感覚としては魔公爵にも劣らぬといったところか
そんな声を掻き消す勢いで唸り強める暴風あれど、対するミカエルに浮かぶは余裕の笑みで。
「だが、それはあの鉛で締め付けられているような空気の中で、だ!!」
腕を引くや深く地を踏み鳴らし、槍を鋭く突き出し今度こそ荒れ狂う風を掻き消して。
今の貴様は、駄々をこねるただの子供だ
中心地に蹲る血に染まった漆黒の服を纏って顔まで覆う黒髪垂らす、少女に槍を突きつけ威厳のある声を轟かす。
「大人しくしろ、さもなくば後ろの鬼畜たちが容赦なく貴様を魂まで擦り潰す」
「「ちょっ!?」」
何てことを言い出してるの!?
叫ぶ殺戮神たちだが顧みられることはなく、蚊の鳴くが如き小さな声が響くや警戒の表情重ねて瞳の色強め。
「ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ……!!」
「離れいミカエル! 反転しおったぞ!!」
轟く歪で狂気に満ちた声聞き動きが止まり、意識戻すアンドロメダが鋭い声を轟かせ。
……止めを刺して……いや、それも無理だったか
顔上げ飛び退き遣り切れぬ思い滲ませた、ミカエルの肩に手を置くラファエルは弾けんばかりの満面の笑み浮かべ吐き出した。
「そうですよミカエルせんぱーい。スラオシャ先輩とかウリエル先輩みたく拳で解決しようとしたら、こんな世界綺麗に崩壊ですよ」
「「おいこら、ラファエル?」」
「あ、最近老化の激しいアンドロメダ様と天照様も、年甲斐なく拳で嘔吐させる派でしたね♪」
「「おうこら、ラファエル?」」
綺麗な笑顔で拳を握る破壊神たちに囲まれ悟った表情浮かべるまでの時僅か、ラファエル以外の天界勢は弾けんばかりの冷笑浮かべ口開く。
「「後で折檻な♪」」
「あ、アハハ……」
逃げ出してやろう。
そう決意したという大天使が自由な世界への逃亡を決め込む前に、眼球のある位置を鈍紅に輝せた、他の幽霊たちに桜子と呼ばれた少女は大地と大気を震わす壊れた笑い声を響かせ姿消し。
……面倒なことになってもうたなぁ
後方に現れ勢いよく伸びる少女の手を躱し、振り向き様に霞が如く消える影へと拳を突き出しながら息を吐く。
本当に、そうですよね
同じく嘆息する天照は、ミカエルに羽交い締めにされている桜頭の方へと目を向けて。
「出番よ、穀潰し共♪」
「「え?」」
「魂殺の天使ですし、このくらいできますよね♪」
可憐で鈴の鳴るような、静鈴とした声を響かせる。
強張った声を重ねたミカエルが巻き添え喰らったを理解するまで時置かず、天照の声が届くや淀みなく自身を固く握る手を全力で離そうと試みて。
離れぬを確信するや指を一本ずつ折り離せど、即座に回復しては握る指の圧強め。
「いやー! 痛い痛い痛いですよミカエルせんぱーい!!」
「黙れ!! 私を巻き込むな!!」
「あーんミカエル先輩が酷いー!! 散々尽くしてきたのに!! こんなに尽くしてきたのにー!!」
「やかましい!!」
両者共に必死の形相で攻防繰り広げれど近づく天照は冷たい弾けんばかりの笑み湛え、手首の骨が砕ける音を響かせながら、ラファエルの手を剥がし弾む声を響かせた。
「ラファエル? どうしたの? ほら、早くしなさいよ♪」
「あ、あの天照様……? ひょっとして、ないとは信じてますけど怒っていらっしゃいます……?」
手首砕けたを認識すらせず蒼白な顔に冷や汗を流す者、天照を仰ぎ見ては祈るような目を向け縋るような声紡ぐ。
対する主神の静かな笑みは咲き誇り、見る者たち恐慌通り越してそこに在り。
何を言ってるの? そんなわけないでしょう?
天照の目が薄く開き一拍後、低く迫力に満ちた凄みある音を吐き出した。
「アホなことぬかしとらんと早よ鉄砲玉にならんかい」
「―――――――――ウグッ……エグッ、ウグッ……」
結論として虚空より細身の剣を取り出すラファエルは、腕を両目に押し当て涙溢れさせながら、剣を適当に振り上げ一切前方なぞ見ることのないままに、飛び交う障害物を掠りすらせず嗤う少女を斬りつける。
「「はぁ??!!」」
「おい、今あいつ何やった!?」
「偶にラファエルが天才に思えてくるわ……」
「ま、まぁあいつは頭が弱いだけですし……」
俄に上がる驚愕の声だが称賛向けらる者の首傾ぎ、何度か斬っては小さな声を吐き出して。
あぁ、なるほど
笑い声消し唇を歪めた少女が長く伸びる腕を更に伸ばしたその瞬間、腹落ちしたと剣上げ迫る手を切り落としては勢い殺すことなく振り下ろし。
「あなた、悪魔でしたか。余程恨み抱えて死んだんですね」
「「な……!?」」
紅い服斬り裂いた先で時刻む、少女の胸元で時を刻む真紅の時計に見る者誰もが息を呑み。
これは……!!
伸ばしかけた手を戻すことなく呆然とした声響かすミカエルに、魂殺の天使は攻撃を掠らせることなく顔を向け。
えぇ、お仕事ですよ♪ 私達の得意な、ね。
薄く嗤って瞳の奥を爛々と輝かせ、腕高く掲げると同時に天照が虚空より刀を引き抜き地を蹴った。
〈太陽の力よ!!〉
大天使の剣筋を避け少女の脳天に刀を振り下ろし、切り裂き様に退けど吹き飛び地を頬に伝わせ立ち上がり。
……確かに、私達のお得意分野ですね
乾いた声を響かせ吹き飛んだ腕を修復し、踏み出さんと足に力込めたアンドロメダとウリエルは互いに顔を見合わせて。
「「あれ、普通に死にかけるやつじゃね?」」
「さぁ憐れな忌み子に地獄の安寧を与えてやるとしましょうか!!」
当然のように形を戻す少女へと視線向け、同時に乾いた声音を響かせる。
そんな声なぞ気にした様子もなきラファエルは凄惨で獰猛で冷酷な笑み浮かべ、それ以上何を言わずに影を広める少女へ漆黒に染まった剣を振り下ろした。




