6-3-4
飛鳥姫巫女命が消失したのと同時期、自動攻撃機能を仕掛けられた建物でのことだった。
「何だ!? どうなっている!?」
「おい! おいしっかりしろ!!」
「駄目だ……死んでる」
大勢の生者が押しかけて、大勢の虹彩を失ったものが吹き飛ばされて怒号飛び。
悲鳴と断末魔は爆音と血肉が飛び散る音で掻き消され、開いた場所へと突撃しては肉片撒き散らすこと繰り返し。
「どうなってんだよ……」
「何で、みんな当たり前のように突っ込んでんだよ……」
呆然と眼前眺めた虹彩のある生者たちの声震え、手足失い命の滴溢れる者を見る。
なぁ、なんの冗談だよ……樹……。
桜丘高校の制服に身を包んだ二人の乾いた笑い声がどこへ届くこともなく、肉片の再生産は止まらずに。
「小癪な……!!」
絶望を目で言う生徒たちに意識向けず離れた高所より吐き捨てる、紺の髪を雑に伸ばした青年風の男は爪を噛み。
この世界は僕の物だ……!!
この世界の全部は、僕の物じゃなきゃいけないんだ……!!
言い聞かせるように感情的な響き持つ声響かせ手を振り下ろし、揺れる声を張り上げた。
「進め!! 壊せ!! 中にいるやつを引き摺り出せ!!」
日が真上に登っても続く声は一貫して狂っていたと、涙伝う者たち顔で言い。
誰もいない建物のために、どれだけ犠牲を出すか観物だな。
純白の柱に囲まれた建物の屋上では、妖しく据わった目を外へと向けて、悦び隠しきれぬ声を響かす天神和輝がいた。
「……始めるぞ」
「ち、ちょっと何する気……?」
「無様に踊らせてやるよ」
怖くて顔を見れなかったと語らる和輝に、腰引けながらも問う生徒は返る音聞き色消える。
狂気と殺意に満ちた声を響かす和輝の取り出した、擲弾発射器に息を漏らし口開けて。
直後に取り出れた禍々しい鮮やかな髑髏の下部にBSL4と印字さる、輪に三つの三日月描かれた弾薬見るや、恐怖に開く瞳孔狂気を映して和輝見る。
口を開いては微かな息を漏らすこと繰り返す生徒は足を引き、唇噛んで押し黙り。
焼け死にたくなければ俺のいる位置まで移動しろ。
感情消えた声の真下に移動して、浮く和輝は遠く離れた建物に照準合わせ指を引き。
「燃えろ、爆ぜろ、死ね! どいつもこいつも、馬鹿にしやがって……!!」
憎しみに満ちた声を小さく紡ぎ、遥か前方の地に爆音と爆炎を撒き散らす。
全部……全部壊れてしまえ……!! みんな死んでしまえ!!
同じ弾薬を虚空から取り出し装填し、建物の反対側に狙いを定めて指を引き。
「何だ!? 何が起こっている!?」
要塞と化した建物を攻略している者たちを、溶かし腐敗させて地に還す。
誰も何も言わず地に還るその光景に、指示を出していた紺髪の男は狂乱した声を響かせ衝撃に従い地へと落ち。
「何が……」
こめかみがあった位置へ手を伸ばし、何度か手を上下に動かし固まった。
微かな吐息に重ね漏れる呆然とした声が誰へ届くを待ちはせず、叫声と共に鼻より上が消し飛んで。
血が流れ肉が爛れる状況に悲鳴とも狂乱ともつかぬ声を響かせ仰け反る背中を前へ遣り、即座に顔を復元させるも間髪入れず頭と胸が吹き飛んで。
「いい度胸を……」
「しぶとい野郎だな、さっさと死ねよ……!!」
振り上げた手が所在なく舞うを捨て置かれ、遠く離れた地では忌々しげで憎しみに満ちた声が地に沈む。
「死ね、消えろ…………あぁ、見ているだけで吐き気がする! 燃えろ! 燃えろ! 全部燃えろ!! 悶え苦しみながら死ね!!」
向かう断末魔を笑い叫ぶ者の勢い長く続かずに、吸う息震えて腕下がり。
下衆がっ……!
頬伝う涙を振り払うようにして、銃を虚空に投げ捨て腹の底から吐き捨てた。
「下衆がっ……!!」
ねぇ、大丈夫なの……?
揺れる瞳で空を見上げる生徒は微かな声を絞り出し、地平線へと目を遣って。
銃撃止まるを気に体を修復した男は大きく息を吸うや足に力込め、地を蹴り遥か前方和輝がいる位置まで詰め寄った。
「よくも……やってくれたな!!」
「あ”!?」
「遅い遅い遅い!!」
瞬時に抜刀する和輝が刀振り上げるを許さず腹に蹴り足吸い込まれ、飛び散る深紅の血を残して和輝は大穴開いた建物へと轟音上げて身を叩く。
「大丈夫!?」
「随分と余裕があるじゃないか!!」
穴の近くまで駆け寄る生徒に視線飛び、怒気張り上げる男の手が上がり。
〈今さら謝っても遅い!〉
手を頭上に掲げ口端歪め、灼熱の玉を顕現させて振り下ろす。
〈この世の地獄で永遠に後悔しろっ!!〉
その声と共に灼熱の大玉は成長停止し落下して、呆然と見上げる生徒へ吸い込まれ。
「……え?」
破裂する熱波が地平線の彼方まで焼き尽くし、衝撃波が焦土を混ぜて荒れ地に変える。
あ、さっきの女持ち帰っておけばよかったな。
呟かる後悔の感情は豪火放つ轟音に紛れ撹拌し、火勢収まり現る無傷の建物に目を見開いた。
「何だと!?」
「何が……起こったというんだ……!?」
私が聞きたい。
尻打ち呆然と空を見上げる生徒は顔で言い、頭振る男の目が向いて。
愛想笑い浮かべる彼女を瞳の中央に収め瞳孔開き、深く息を震わせ背を倒し。
「おい女ぁっ!!」
状況を説明しろと怒り狂った声轟かせ、腕伸ばしながら急降下するや衝撃音と共に顔面潰れる音鳴った。
壁……?
不可視の障壁を叩き首傾げる男だが、直後に裂ける空気と共に首が切れ。
「……痛いじゃないか」
掌に落ちた首掲げ、頭より声を響かせる。
「おかしいな、原型なくなるくらい力を込めたはずなんだけど」
「おかしいな、普通ならとっくに死んでるはずなんだけど」
「おかしいな、消えたはずの死体が目の前で喋っているんだけど」
「同感だ! さっさと、くたばれ喋る骨!!」
返る狂気に満ちた声に男の眉吊り上がると同時、彼の体は四肢を切断されて胴斬られ、各部位を細かく細かく切り刻まれ燃やされて。
肉片を青白い炎で焼いた、和輝は刀を高く掲げ囁いた。
〈理を外れし者に 捌きを〉
言葉踊るを待たずして、和輝の背後に灰より虚しく黒より暗い空間が口開ける。
それは禍々しき色彩で蛇を型取り闇を吐き、和輝の後方へと噛み付き咀嚼し引き千切る。
「何をする!! 僕はこの世界の王だぞ!!」
そんな声と共に姿なき者は底に引かれ飲み込まれ、景色が戻り静寂取り戻し。
終わった。
口の形で言う和輝が生徒の方を向いたその瞬間、荘厳で無情な重鐘の音が三度鳴る。
一瞬にして全身から血の気が退いた和輝は何度か唇を震わせて、光の消えた世界に憎悪染まる声を響かせた。
「最悪だ……っ!!」
時は、和輝が紺髪の男と戦闘を行っていた時にまで遡る。
幽霊が我が物顔で跋扈する、雷光に姿を映す廃校でのことだった。
「何やこれは!!」
「私に言われても知らんわい!!」
「斬っても叩いても磨り潰しても終わりませんよミカエルせんぱーい!!」
叫ぶ天界勢の意識向く先は汚く所々が壊れた少女を象る人形で、抱きつき爆発しては近辺で湧くこと繰り返し。
「なんだこの人形は!! 吹き飛ばしても吹き飛ばしても全然減らん!!」
「「うふふ、うふふふふふふふふふっ……」」
「「いぃーやぁっ! こーわーいー!!」」
眩い閃光が何度も煌めき群がる人形消し飛ぶも、笑み深め近寄り絶やすことなく不気味な笑い声反響させる様子に恐れ震える叫び声が重なって。
……だから、今は待てと言うたろうに。
呆れ呟く飛鳥姫巫女命は、頭抱え蹲る者たちを蹴り飛ばすミカエルとスラオシャ、アンドロメダ眺め息を吐き。
「本体は……おらなそうじゃな」
こんなに面倒な相手もそういまいて。
感嘆ともつかぬ声吐き手を伸ばし、静かに凛と宣告震わせた。
〈何故汝ら傀儡となりて 我らが邪魔を是と成すか〉
上がる顔に灯す重い眼光が群がる人形突き刺して、迫る人形に一寸もたじろぐことなく腕を上げ。
〈身の程を知れ!〉
一喝すると同時に覇気の奔流駆け巡り、意志ある人形をただの動かぬ物体へと還す。
「ほぇー」
「さすが飛鳥の婆様です!」
「外道の道を極めただけのことはある……」
そんな飛鳥姫巫女命に賛辞紡ぐ天使たちは称賛羨望の眼差し彼女に浴びせ、威力の強い言葉の刃と態度で語る、微かに涙浮かべる者は冷徹な声で吐き捨てた。
―――お主ら、儂をなんじゃと思うとる?
そんな飛鳥姫巫女命に大真面目な顔をし向き合った、スラオシャとミカエルは同時に口を開き同じ声音を投げ放つ。
「「天界最高齢の鬼畜神ですよね?」」
「なっ……!?」
「「さすが地雷源の狂騒舞踏者!!」」
「「何その称号!!??」」
挙動忘れ微かな息漏らす飛鳥姫巫女命を他所に他の者たち沸き上がり、神経を疑うかのようと語らる視線で発言者の方を見て。
ミカエルやい、人形は燃やし……
頬を膨らませ叫ぶスラオシャとラファエル脇に置き、飛鳥姫巫女命が涙目で声を紡いだ時だった。
荘厳で無情な重鐘の音が、等間隔に三度鳴る。
瞬時に誰もの顔から血の気が引いて、臨戦態勢取るを捨て置き倒れる人形立ち上がり。
「「うふふふふっっ!! おねーちゃんたち、逃げられると思わないでね!!」」
幾重にも響く何十何百の声と共に世界は暗転し、天界勢は紅に染まる世界に転送されていた。




