Magical Girl 〜Side Raphael〜 Ⅳ
少女が肉塊に変わって暫し経ち、太陽が一日の始まり告げる頃。
恐怖と焦燥に焼かれた荒い息重なる民家では、目を見開き布団を蹴飛ばし飛び起きる、蒼白な顔より汗を流す彼女がいた。
「やめて……もうやめて……!!」
頭を抱え懇願の如き声を響かす彼女は涙流しながら手を伸ばし、直後その顔を絶望へと染め押し黙り。
もう何もかもが遅いんだ。
声無き息を吐き出すと、床の上に転がる休校通知へ視線遣っては休校かと呟いて。
壁に寄り掛かりながら腰下ろし、天井見上げ微かに口元動かした。
「最近増えてる行方不明者と新型感染症、またえらく長い休みをくれたもんだね……」
休み明けまで、私は生きていられるのかな。
憔悴しきった目で虚空眺める彼女を他所に、幼子の笑い声が部屋駆ける。
響く平和な叫び声に耳塞ぎ、膝に顔を埋める彼女は息を吐き。
「……お腹、空かないもんだね」
平坦な声紡ぎ顔を上げ、深く息吐き寝転んだ。
太陽が天頂昇る頃、徐に体を起こしては身支度済ませ、差し込む光をただ眺め。
今日はどうし……。
虚ろな声吐くその瞬間、荘厳なる無情な重鐘が三度鳴る。
「何!?」
即座に飛び退き辺りを見回す彼女だが、甲高い声歪に揺れて吸い込まれ。
口開く彼女を遮って、音程の狂った音けたたましく闊歩した。
〈時は満ちた! 魔法少女の諸君!! 主のために命を捧げよ! 主のために魔法少女を刈り尽くせ!! さぁ祭りの始まりだ!!!〉
歓喜に震える声が嗤い声と共に消えたその瞬間、爆発音が鳴り響く。
何!?
叫び声が挙がる中、光に満たされていた世界は突如薄暗がりへとその身を変えて、差し込む光が窓穿つ。
「誰!!」
飛び退き光を回避する彼女が鋭い声を突き刺すも、それに応える音なぞ在りはせず。
舌打ち鳴らして腕を伸ばしたその瞬間、割れた窓より3つの人影現れた。
「あーあ、やっぱこの能力欠陥品だなぁー」
「隠密性が高ければ高いほど威力下がるのだし、中々批評しづらいところではあるね」
「本当、よく考えられてるよねー」
一切の緊張感なき声音紡いだ3人は伸びる手より逃げるが如く三手に別れ、地を蹴り彼女へ意識向け。
破裂し失う両足に、呆然とした声吐き漏らす。
そんな3人へ冷徹な視線突き刺す彼女は残酷で凄惨な微笑み湛え、腕組みながら地を這う3人見下ろして。
「えっと……聞いてもいいかな? 今すぐ死ぬのと後で死ぬの、どっちがいい??」
「「ひっ!?」」
指伸ばす少女の両腕を内側から吹き飛ばし、明るく無邪気な声響かせては指を振り。
残る2人の指先だけを破裂させ、恐怖で目を見開く者達の様子に笑み深め。
蹴り転がして3人を一箇所に集めると、その顔を嗜虐に歪め囁いた。
「私、脳味噌見てみたいな♪」
震え上がる少女たち嗤う彼女の目には狂気が灯り、右端に転がる黄土色の髪を肩まで伸ばす少女が瞳輝かせながら彼女へ視線遣って数拍後。
絶望に染まる蒼白な顔より掠れた息を吐き漏らし、彼女の口開いた瞬間表情を戻して鋭い声投げ放つ。
「こ、降参だ! 君の言うことを何でも聞くから、どうか助けてほしい!!」
「ち、ちょっと!?」
目を剥き叫ぶ銀髪を背中まで伸ばした少女に返る音は何も無く、視線背けた黄土髪の少女が苦痛に顔を引き攣らせ。
縋るが如き視線を紅髪短く伸ばした少女へ刺すや意識失う様見て消沈し、天井見上げ呟いた。
「……ごめん、どうやっても殺される未来しか見えないんだ」
「そんな……」
絞り出されるその声へは掠れた音のみ微かに返り、静寂が場を支配する。
そんな二人の様子に興醒めと視線で語る彼女は鼻鳴らし、鋭い声を吐き捨てた。
「それで? 降伏だとかいう言葉をどうやって信じろと?」
「僕達の持つ全ての情報を捧げよう!!!」
勝手に殺そうとしてたのに、随分と都合の良いことをほざくじゃないか。
見る者曰く軽蔑しきった笑み浮かべる彼女に間髪入れぬ声響き、冷徹な視線突き刺す彼女は手を伸ばして指を向け。
凄惨な冷笑浮かべると、静かに重く問いかける。
「それが正確だという保証は?」
「わ、私の能力誓約を使用して、嘘偽りがあれば即座に生命を放棄します!!」
即座に返さる声へ視線向いては誰もがその場で動き止め、沈黙に身を委ね時が過ぎ。
首を傾げ黙る彼女の瞳揺れたその瞬間、黄土髪の少女より鋭い声が放たれた。
「もちろん曲解、隠し立てをすることもしない。さぁ、選ぶといい! このまま猜疑心に飲まれ貴重な情報を得る機会を失うか、僕たちの命で担保する魔法少女についてのの情報を得るか!!」
迫力に満ちた太い声を震わせて、声の主は蒼白な顔で地に伏せる。
そんな少女へと冷徹な視線向けた彼女の腕が伸び、淡い光で包む三人見据えて息を吐き。
いいだろう、最低限治療してやる。
傲慢な声放ち流れる血を止め指鳴らし、切断面に皮膚を再生させては蒼白な体に血の気を戻す。
そのまま床に座った彼女は黄土髪の少女と目を合わせ、瞳覗き込みながら問い掛けた。
「聞こうか、お前らは何を差し出す?」
「あぁ、一体何から話そうか。魔法少女の正体、この狂った世界から逃げ出す方法……」
「順番に頼むわ」
「……まぁ、そうなるだろうね」
呆れ混じる視線外し首振る黄土髪の少女だが、銀髪の少女へと視線送るや頷いて。
対する銀髪の少女は視線上げ、彼女見上げながら言葉を引き継いだ。
まずは確認です。
静かにそう告げる銀髪の少女が黄土髪の少女へ手を伸ばし、対する少女も拒むことなくその手を見据え。
〈嘘を告げればその額に十字の傷を与えよ〉
「僕は男だ」
響く平坦な声に黄土髪が返して間を置かず、額に十字の切り傷現れる。
確かに、それなら裏切りの心配はないか。
そう呟く彼女に視線向ける銀髪は、安堵の感情表し力抜き。
「では、取引は成立ということでよかったですね?」
「あぁ」
「じゃあ早速誓約を……と言いたいところだが、まずはこの傷治してもらえないだろうか?」
存外痛いものだね。
割って入る少女の声に、時は暫し停止して。
固まる空気の中で手を延ばした彼女は浮かぶ十字の切り傷消し去ると、感情定まらぬ声を投げ捨てた。
「……これでいい?」
「恩に着るよ」
ついでに手足も再生してくれると助かるのだけど?
無言で言う黄土髪の少女は飛ぶ殺気に冗談だと顔で言い、無駄口を叩くなと目で言う彼女に何度も幾度も頷いて。
そんな黄土髪の少女へと手を伸ばした銀髪の少女が息を吸い、その瞳を金色に染めながら冷凛とした声響かせる。
〈汝、彼の者に問はれし事項につき嘘偽り隠し立ての一切を禁ずる。罪には罰を、罰には死を〉
淡い光が黄土髪の少女を覆って吸い込まれ、視線重なる当の本人は何事もなかったが如く彼女へと視線戻して嘯いた。
「まず、どこまで知っているのか知りたいのだけど……魔法少女とは何か、答えられるかい?」
「魔法を使う女の子でしょ?」
「半分正解で半分不正解だ」
何その微妙な言い方。
飄々とした態度で言葉を紡ぐ黄土髪の少女を半目で見つめる彼女はそう呟くも、肩竦める少女の様子に息が漏れ。
じゃあ、何だって言うの?
平坦な声響かすと、欠けた手伸ばして口元歪める者を待ち。
「魔法でも使わなければ存在すら容認されることのない、奴隷の少女だ」
「……奴隷?」
「聞いたことはないかい? 魔法少女の魂は契約者である主に隷属され、死後主の人形として扱われると」
「……あるけど、それが何か?」
「では、質問だ。魔法少女の死とは一体何か?」
「そりゃ、命が終わる……」
「君は僕の話を聞いていたのかい? 死後の世界があり、かつ記憶も人間性も同一であるなら、それは環境が変わるだけで生きているのと変わりない。僕が聞いているのは、生産した人形の壊し方だ」
目を吊り上げ口を開くや声飲んで、放つ殺気の量絞り。
感情籠もらぬ笑み湛える黄土髪の少女に困惑浮かべ、強張った声を吐き出した。
「魂……とでも言えばいいの? それを壊せば……」
「正解だ。それが魔法少女にとっての死となるし、現在唯一契約をこちらから破棄する方法だ」
「で、それがどうかしたの?」
「あぁ、そうだね。じゃあ、次に行こうか」
「いや……」
おい、今までの話は何だ。
目で語る彼女に対して一切合切を無視する少女は話を進め、刺さる視線を意にも介せず講義は続く。
「魂が壊れたとしても、経験と肉体の写しを取られていたとしたら……さぁ、どう対応すべきだろう?」
「は……? って、まさか……!!」
独壇場の終焉は唐突で、ふと考え込むや目を見開き驚愕に満ちた声微かに紡いだ彼女が割り込んだ。
そんな彼女の様子に嗜虐的な笑み浮かべる対する者が、隣で震える銀髪の少女横目に強く声を響かせる。
「その通り。だから最初に言っただろう? 魔法でも使わなければ存在すら容認されることのない奴隷の少女、略して魔法少女。それが魔法少女の正体だ」
「何でそんなことを……」
そんな少女の声に信じられないと呟く彼女のことなぞ脇に置き、対する者は表情変えることなく音投げた。
「君は、生産する手段のある優秀な兵器を型取りもせず経年劣化に任せて手放す愚者の類かい?」
「兵……器……?」
「契約の時に聞かされなかったかい? 魔法少女は契約者の尖兵となり、たった1つの願いを巡って争う契約者たちの武器となると」
「あ……」
「さて、次の命題だ。契約について」
呆然と掠れた声を微かに紡ぐや十の言葉で殴られ思考が停止する、彼女嗤う少女は饒舌に語って舌踊り、突如語りを止めては彼女見据え虚を見上げ。
彼女の表情が戻り始めたところで手を鳴らし、注意集めて音紡ぐ。
「作れるのならば壊せない道理はない。それが目に見える物であれ見えない物であれ、これは真理だ。では、契約を打ち切るためにはどうすれば良いか?」
「確か、さっき……」
「そう、魂が破壊されることによる不要物になることだ」
厳密に言えば契約者により契約が破棄される必要があるけども、余程の事情がない限り破棄されるのだから間違いではないだろう。
そう告げた黄土髪の少女を見る彼女より最早害意消え失せて、声に成らぬ音を吐き出し肩震え。
呆然と佇む彼女へ視線を送る対する者は、笑みを深めながら彼女に発言促した。
「どうして……」
「どんな物にも維持費がかかるからさ」
君は、魔法少女の維持費が何か知っているかい?
暫しの時間が経過した後問うたその声へ、表情を戻した黄土髪の少女は静かな声で問い返す。
維持費?
何の話かと目で問う彼女へ無言返して答え待つ少女だが、いくら待てど困惑以外何も帰らぬ状況に、深い溜息吐き出した。
「魔法少女の使う魔力は、契約者から下ろされた魔力を生命で変換している物だとは聞いてるね?」
「え、えぇ……」
「なら契約者が魔力を用意する必要があることは道理だ。一人二人ならまだしも、数を揃えれば負担は相応のものとなる。さて、その魔力を下ろす道はどこにあるか、考えたことはあるかい?」
「全く……」
「そうだろう? これだから何も考えない退化した猿未満の下等生物は手に負えないんだ」
「今……」
「奴らが通す道の行き先は、僕たちの魂。つまり自身の魔力が他の者の魔力へと置き換わり、条件反射として命令を聞くようになる。これが操られる原理だ」
戸惑う彼女を他所に平坦な響き含みながらも徐々に熱を帯びるその声は、戸惑う彼女捨て置き紡がれて。
呆然とする彼女見据える少女が腕伸ばし、上気した顔近づけ興奮した声張り上げた。
「さぁ、こんなもんで済むと思ったのなら絶望してもらおうか! 魔法少女が魔法を使うために必要な手順の2つ目、生命を使った魔力の変換だ!!」
「あ、あの……」
「生命が魔力を変換しているということは、魔法を使えば使うほど寿命が減るということだ。では、それはどのようにして現れるのだろう。体細胞組織がどうにかなって直接肉体に影響するか、それとも使い切った瞬間電池でも切れたかのように突然肉体と魂が分離されるのか」
言葉を切り一拍置く少女は彼女を仰ぎ見てはその反応に笑み深め、手を打ち鳴らして口開く。
「と、このようなことはいい。消費できるものは生産ができることは周知の通り。では、どのようにしてそれを手に入れることができるだろう?」
「……全く解らない」
「そう、その通り!」
「え"?」
お前は何を言っている。
顔で言う彼女を無言で嘲る少女に冷笑浮かんで鼻が鳴り、蔑みの視線へ反応許すことなく次なる言葉が紡がれる。
「そんなもの、人間がいくら知恵を絞ったところで解るはずがない。つまり、考えるだけ無駄だ」
「でも、あなたさっき……」
「そう、消費できるものは作れないわけがない。だが、作り方が解らなくてもそれはそこら中に転がっている」
熱気失ったのは一瞬で、再び上昇へと転じる少女の意気に彼女は感情殺し押し黙り。
唐突に目を見開くと、少女の声を遮り鋭い声を響かせた。
「ちょっと待って……! それって、生きたかったら他の魔法少女たちを食べろってこと……!?」
「ご明答! ようやくどうしようもなく愚鈍で低能な君も考えるようになったじゃないか!! そう、魔法少女が生きるためには他の魔法少女を食べなきゃいけない!!! でも、食べるとはどうやって? 肉体を直接? あいつらはそんな野蛮なことを良しとしなかった! 食人は快楽を得られども、それ以上の効果は何もない!! ではどうするか? 殺すんだ! ただ殺せばいいんだ!! 殺すだけで生命は回復し、儲かれば儲かった分だけ代償の大きな魔法を使える!!! 生きたければ殺せ、それがこの世界の正体だ!!!!」
「あなた、一体……」
「僕の能力は未来視。ほぼ確定した未来しかはっきりと見ることはできず、断片的な情報を大量に送りつけられる欠陥持ちだ」
高笑いと共に轟く狂気に満ちた声へ投げらる弱々しき微かな音が空へ消え、脱力する彼女嗤って更に上昇した熱気は突如萎み霧散する。
会話止まり数拍後、唐突に表情戻した黄土髪の少女が問い掛けた。
「君は治癒かな?」
「そうだけど?」
返る彼女の声に強張る表情恐怖を語り、視線外して口を開け。
言葉に成らぬ息漏らしては口を閉じ、呟くが如き平坦な声を投げ捨てた。
「あいつらが言うには、魔法少女は最も適性のある分野の魔法が使えると。今の君を見ていると、とんでもないのに最強の力を渡されたような気がするよ」
「……は?」
お前、用済みだし今すぐ殺してやろうか?
殺気混じる重圧放った彼女は顔で言い、対して冷や汗流しながら乾いた笑み浮かべる少女の視線が虚を捉え。
理解していないのかと困惑するも、間を置くことなく静かな声を差し入れた。
「人を一番殺せるのは何か知ってるかい?」
「そりゃ殺戮兵器……」
「いいや、医療だ」
「え……?」
会話続ける彼女の様子に安堵漏れ、響く非情で冷淡な声に誰もが同時に声を飲む。
そんな少女へ疑問符浮かべる彼女が視線で続き促すも、対する者は挑発の如き視線突き刺し嘲笑い。
「どう生かすかを研究する医療は、言ってみれば反対のことをすれば殺せるということを証明するものだ。反論も否定もさせないよ? 今まで君がやってきたこと、僕たちにしたことがその証拠だ」
彼女の額に血管浮かんだその瞬間、凄惨な笑みで彼女の瞳を覗き込む。
そんな少女に彼女がたじろいだのは一瞬、目を逸らすや腕伸ばして全員の四肢を再生し。
「おや、贖罪のつもりかい? 素直に礼は言わせてもらうが……あぁ、そうだ」
「何?」
「君の能力で血が飛び散らない殺し方や傷つけ方に興味はないかい?」
唐突に紡がる言葉に困惑し、立ち上がる黄土髪の少女へ視線遣り。
動く手足に感心する少女へ発言促して、投げらる声に頬攣った。
「もちろん、僕たちの命を保証してもらうという前提でね」
「本当、良い性格してるわ……」
「あぁ、差し迫った生命の危機を回避できるこの性格が素晴らしいと再認識したよ」
「言ってろ……」
呆れ混じる視線突き刺し手を取る彼女に返るは深望隠した笑みだけで、飄々とした態度崩すことなく相対する黄土髪へ吐き捨てる。
「それで? 汚れない殺し方って何?」
毎回毎回死体と血の処理に困ってたんだよね。
放たれる朗らかな声に冷や汗浮かべた黄土髪は引き攣った笑み震わすも、一切合切を捨て置き表情戻して声投げた。
「君が使っているのは、血液の逆流だね?」
「たぶんそう?」
「なるほど。恐らく何も考えずに全部の血液を逆流させて……ふと思ったけど、君は毎回そんな恐ろしいことしてるのかい?」
「んー? 情報吐かせたい時は足だけとか腕だけとか範囲決めて逆流させてるけど、何でか逆流させたとこ吹っ飛ぶんだよねー」
頷く彼女を横目に言葉を重ね、返る無邪気な声に虚ろな笑い声を微かに響かせ押し黙り。
彼女より離れながら状況見守る者と怯え混じる視線突き刺し時隔て、深く息を吐き出し顔を上げ。
「僕たちで実験するのは勘弁してもらいたいものだが……」
「大丈夫大丈夫、恨みある奴らと敵にしかやらないから♪」
本当に、何てところに喧嘩を売ったのだろう。
最早戦慄すら奪われたと語らるほど弾んだ気楽な声が場で踊り、脱力する黄土髪の傷がまた癒える。
体癒えるに従い血の気引く少女達の様子へ疑問飛べども答える者なぞどこにもおらず、口を開く彼女に言葉被さった。
「話を本題に戻そう。どうすれば綺麗に多くの者を殺せるか。簡単だ。治癒と逆のことをしてしまえばいい」
「逆のこと?」
「君は僕たちを治療した時、何となくでもいいから治れと願いを込めなかったかい?」
「うん……? まぁ、そうだけど……」
「これは僕の勝手な想像だが、治癒というのは細胞分裂の速度を異常に早めたり時間を巻き戻したり、はたまた魔法を使い細胞を創造してしまうことだ。どういう原理なのか検証しようにも時間がないし今現在は必要ないから飛ばすとして、全てに共通するのは元の姿へ戻すこと。つまり、頭の中に描いている像を少し変えてやれば簡単に狙った組織だけ破壊できると考えるよ。まぁ、心臓や脳だけを狙って部分的に血液を逆流させることも候補として挙げられるが、今の様子だと胸や頭ごと吹き飛ばしかねな……」
淡々とした声響かす少女が言葉紡ぐに連れて彼女の顔には興奮浮かび、身を乗り出し聞き入る彼女へ視線行くや声止まり。
僕は命と引き換えに、とんでもない事を喋ってしまったのではなかろうか?
まだ見ぬ犠牲者へ祈り捧げる者を横目に言葉転がす黄土髪の少女がそれ以上言葉続けることはなく、纏う雰囲気を切り替え腰落とす。
「さてと……話はこれで終わったわけだが」
気絶する紅髪の少女が意識戻し始めたところで手を伸ばし、肩揺するも寝息響かす少女の反応あるは一瞬で。
腕すら枕にする様を見咎め眉寄せるや殴り踏みつけ強制的に起動させ、表情取り繕いながら彼女の方へと目を向け飄々とした声響かせた。
「君、僕たちと組む気はないかい?」
「「……え?」」
何この状況。
頭抑え目で言う紅髪の少女の視線受けた銀髪が何を答えることもなく、困惑表す少女達を他所に黄土髪は腕を組む。
「持たせてはならない者が得てしまった君の力は思っているより強大だ。何、これから降りかかる火の粉を払いたいっていう僕のささやかな希望だよ」
「……私に矢面立たせてお前らは後ろで寛ぐと?」
「人間ってのは変な知恵が付くから嫌いだよ」
「……あんたも人間でしょ」
「あぁ、人間であることを心の底から恥じているよ」
「そう」
「まぁ、でも……君に選択肢はないのだが」
「え?」
渋る彼女へ嘲笑いし如き声響いた瞬間彼女以外が立ち上がり、殺気混じる闘気練って外を見る。
体伸ばして腰撚る紅髪の少女が何事かと問う彼女に顔を向け、平坦な声吐き出した。
「見事に囲まれたね」
「何で!?」
「同じく私達と同じかと……」
「あ"!?」
「ひっ!? あ、新しく魔法少女になった人襲えば楽に殺せると考え……」
弱々しき声紡ぐ銀髪は轟く彼女の覇気に飛び上がり、涙目で懺悔するも返る視線にただ震え。
「そんなこと思ってたのか」
「まぁ、あたしらは秒で返り討ちに遭ったわけだけどね!」
呆れ混じる声響かす彼女へ自信に満ちた声返り、開いた口をまた閉じては黄土髪の少女へ感情消えた視線向き。
無表情返す黄土髪の様子に額押さえる彼女が深い息を吐き出すと、疲労含む声音で呟いた。
「……解った、あんたらと組む」
「賢明な判断だ。さて、回復役もいることだし……」
そんな彼女へ獰猛な笑み向ける黄土髪の少女は振り返り、瞳輝かせた紅髪の少女に苦笑する。
突っ切るか!!
弾む声背に銀髪の少女へと視線遣り、彼女に縋るが如き視線重ね刺し。
「……はぁ。解ったよ、全部肉の塊に変えてやるよ!!」
「…………治癒持ちは性根の優しい者が多いと聞いたけど、一体どこで道を間違えたんだか」
「何か言った?」
「いや、何も」
投げ遣りな音紡ぐ彼女の腕伸びるや飛び退いて、迫る短剣逃がし鋭く声を震わせる。
「3秒後右前方56度より暗器! 4秒後左前方135度より敵攻撃!!」
〈攻撃に死を!!〉
「吹 き 飛 べ !!」
家囲み突撃図る少女達は体を失い命果て、遠巻きより攻撃放つ少女達も胸を抑えて絶命し。
……私、要る?
高笑い響かせ無双する少女達に呆然と呟く声があり、伸びた手を下ろすことなく事態の推移見つめる彼女居て。
唐突に振り返るや口元歪に吊り上がり、両腕伸ばしながら開く瞳孔月を仰ぎ囁いた。
「実験台来たぁっ♪」
その瞬間、床より現る影は胸を押さえて倒れ伏し。
壁を破り現る者達へ視線向き、迫る数多の短剣躱さずその身に受ける彼女に凄惨な笑み浮かんで指が鳴る。
いったいな〜、みんな酷すぎると思わない?
驚愕に染まる空気の中で声弾むや襲撃者達の力抜け、何言うことなく地に伏せた。
「ねぇねぇ。何でこんなことするのか、教えてくれないかなぁ〜?」
そんな襲撃者の一人に近づき頭踏み付ける彼女は足を退け、頭覆う黒い布を剥ぎ取り首傾げ。
その目を見据え微笑むと、一人震える者に他所事許さず囁いた。
「ねぇ。このまま苦しみながら死ぬのと、もっと苦しみながら死ぬのと、今すぐ楽に死ねると。どれがいい?」
「ヒッ!?」
「こ、殺して! 今すぐ殺して!!」
非ぬ場所より恐怖吐き漏らす者いる一方で、懇願含む叫び声を譫言が如く響かす者も有り。
そんな反応に満足げな笑み浮かべる彼女は頷くと、蔑みの視線突き刺し吐き捨てるように言い放つ。
「じゃあ、何すれば良いのか解るよね?」
「じ、自殺! 自殺するから……」
「黙れよ。頭沸いてんのか」
響く声に肩を震わせ嘔吐する、涙声揺らす襲撃者の声なぞ遮られ。
股間蹴り上げ相手の眼球破裂《指鳴らして》する様見た彼女が壁へ衝突する者に鼻鳴らし、懐へ飛び込むや元居た箇所へ投げ飛ばす。
「おい、あんま舐めんなよ? ふざけてんじゃねぇぞ」
「あ"……あ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"っ"っ"!!!」
目を押さえ叫ぶその者に残酷な声が突き刺さり、装束より漏る血は留まることを知らないで。
絶望と苦悶に染まる者へは狂気の笑みがただ返り、流れる時が悪い方しか作用せず。
「あー、どうしよっかなー? なんか舐められてるみたいだし、2,3人見せしめに凄惨に死んでもらおうかなー? ちなみにこの前殺したのは、四肢壊して腹掻っ捌いて腸引き摺り出してー……あ、そうそう! 失血死しないよう工夫しながら心臓取り出して食わせた後皮全部剥いだ後踊らせ……」
「ごめんなさい! ごめんなさい!!」
「喋ります! 全部喋ります!!」
「話すから楽に死なせてください!!」
無邪気に弾む彼女の声へ襲撃者達は救いを求め、刹那の先で見つけた希望に苦痛消して恐怖に満ちた声響く。
そんな襲撃者達に物惜しげな目を向け息吐く彼女の手が伸びまた下りて、舌打ち響くや冷徹な視線を浴びせ掛け。
「何だ、啼いてくれないのか」
放たる冷徹な声に部屋の空気は凍り付き、残念と表情で語る彼女が口を開いた瞬間遮る声が歪に揺れた。
「私は……私は、契約したての魔法少女がいるって聞いたから! 魔力もらえるかもと……」
「治癒持ちが現れたって……」
「契約者が殺せって……」
それを契機に紡がる言葉へ耳を傾ける彼女は首傾げながらも口差し挟むことなく続き待ち、助命請いながら話続ける襲撃者達をただ見据え。
「何で……」
「早く殺してくれないか!? 逃げるぞ!!」
口を開いた瞬間響く鋭い声に、行き場を失う彼女の声が掻き消えて。
表情切り替え手を伸ばす彼女は指鳴らし、倒れ伏す襲撃者達を絶命させては走り出す黄土髪の少女の後を追う。
「なぁなぁ、何でこんなに人いるの?」
「確かに、新人1人に掛ける人数じゃないよね……」
逃げる四人へ刺さる数多の視線は彼女を離さずに、無邪気な声響かす紅髪の少女と戸惑う銀髪の少女が迫る攻撃を避け腕伸ばし。
「僕から見て前方65度から突破する!」
〈攻撃には死を!!〉
先頭を走る黄土髪の指示に従い一点崩して突撃し、その後に続く彼女は黙って味方を回復しながら敵に慈悲なき死を与え。
「もう少しで抜けるけど、無理はしない方がいいよ。無様に死にたい?」
「「うぐっ……! はい……」」
苦々しい表情浮かべ胸抑える二人を他所に思い付いたと顔で言うも、即座に切り捨て前を見る。
……うん、過信は禁物だよ。
微かに響く安堵の声と共に囲み抜け、三人は地に開く穴へ飛び込んだ。
「……どこよ、ここ」
一息ついたところで周り見渡す彼女が光に満たさ る周囲眺めて首傾げ、そんな彼女の様子に笑み浮かべる三人の少女が立ち上がり。
「「ようこそ、僕らの秘密基地へ!!」」
何を言っているのかと目で言う彼女を捨て置いて、企み成功したと声弾む。
呆気にとられる彼女の顔を覗き込む、口角上げた紅髪が彼女の肩を叩き笑みを向け。
「解る解る、何じゃこりゃってなるよねー!!」
あたしも最初同じ反応してたから!
親指立てて明るくそう言い放ち、目を離す彼女を他所に朱へ染まる頬掻く黄土髪の少女は目を逸らし。
「そんなに喜んでくれると、僕も頑張った甲斐があったよ……」
「ねぇ何この空気、全部ぶっ壊したいんですけど」
「苦節何年かは忘れたが、一人で活動してきた頃から少しずつ魔力を込めてだね……」
「無視か……って、おーい? もしもーし?」
彼方眺めながら一切合切無視して言葉を紡ぎ、投げらる声に意識の欠片も向かないで。
眼前で手を振る彼女は無言で他の少女へ視線を送り、黄土髪の少女に指を向け。
「あー、無駄無駄。こいつ、こんなんになったら暫く語り通すから」
「ここは安全ですので、放っておくのが良いかと……」
紅髪と銀髪の少女が首傾げたのは一瞬、関わるなと顔で語って口閉ざす。
そんな二人の様子に曖昧な表情浮かべる彼女だが、脱力しながら座り込んでは倒れ伏し、何を言うこともなく寝息立て。
「「あ……」」
そんな彼女に手を伸ばす紅髪と銀髪の少女は顔を見合わせ挙動止め、微かな笑み浮かべて地に座り。
「「おやすみ……」」
嬉しそうに語る黄土髪の少女を背景に、静かな寝息を響かせた。