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併交世界  作者: 氷桜羽蓮夜
135/199

5ー1ー10

天界で爆音響く頃、魔界にあるアスモとフォルネウスが拠点と呼んだ場所では。


「さて、状況を整理しましょうか」

こめかみを押さえ、疲れたようにそう呟くアスモがいた。


「男爵……は問題なさそう、あの製造工場は潰した、となると……」

足元に大きく広がる紙に印をつけながら、アスモは確認するように1つずつ呟いて。


「……本拠地、ですかね?」

大きく溜め息を吐き、嫌悪に満ちた表情をしながら手を虚空へと伸ばし。


「ちょっと手伝ってくださいよ、いつでもどこでも便利な謎さん」


その声と共に、蒼い髪を背中まで伸ばした、純白の衣装を纏った少女を引き摺り出す。

それは、髪色と同じく蒼い瞳をした、魔法少女風の服を着た少女で。


「何するんですかいきなり!」

襟首を掴まれる少女は強引にアスモを振り解き、手にした血に濡れるペンチを掲げてアスモに詰め寄り壊れた声を響かせる。


「今良いところだったのに!」

純白の衣服や顔に返り血飛び散り頬笑むその姿は、アスモ曰く狂気以外何者でもなかったそうで。


「あ、あなた一体何をしていたんですか……?」

虹彩の消えた瞳で見つめられたアスモは、自分のことを棚に上げて3歩引く。


「ちょっと、豚の前で牛の解体をしていただけですよ♪」

対する少女は歌うようにそう言って、笑顔を崩さぬままアスモに詰め寄った。


「あなたも、同じ目に合わせてやりましょうか?」

「怖すぎますよ!?」


本当に何があったんだろう。

アスモは、本気でそう考えたというが。


「それよりも、兵士製造工場の本場が分かりました」

全てを海に投げ捨てて、自棄気味に吐き捨てる。


「ほう?」

そんなアスモに、対する少女も嗜虐的な笑みを浮かべ。


「今まで私たちが必死になって封じ込めていたものは、贋物だったと?」

凄絶な笑みを以て、アスモに相対した。


「えぇ、そうよ。 着替えてこれば、もう少し情報あげるわ」

冷や汗浮かぶアスモだが、そんなことは関係ないとばかりに少女は血に濡れた顔を近づけて。


「結局は、最後まで話す気がないってことかしら?」


手にしたペンチを口の高さまで持ち上げて、低く陰鬱な声で囁いた。

そんな少女に、アスモは尊大に腕を組み顔を上げて見下すように吐き捨てる。


「えぇ、何かを得るには対価が要る物だってこと、知らないわけじゃないでしょう?」

だが、それでもなお隠しきれぬほどの恐怖が、顔や声、微かに震える体に滲み出て。


「これ、いいかもっ♪」


そんなアスモの様子に、少女は満足げな様子で小さく頷いていた。

そして、ペンチをアスモの眼球に突きつけ据わった目でアスモを見据えると。


「お姉ちゃん、何が聞きたいの?」

顔に狂気を浮かべ、歪な声で問い掛ける。


「怖い怖い怖い!!!」

そう叫びアスモは飛び退いて、剣を虚空より取り出して。


「茶番は終わりよ」

「うーん、半分本気だったんだけどな……」


剣を構えいつでも斬りかかれるようにするアスモの様子に、少女は呆れたように苦笑して。


「それで、何を聞きたいんです?」


その目に冷徹な光を灯しながら問い掛ける。

その様子に、アスモは安堵したかのように息を吐いて剣を仕舞い。


「当然、終焉は何度訪れるのかよ」

低く冷徹な口調で、吐き捨てるようにして言い放つ。


「なるほど、確かに私でなければ答えられない質問ですね」

対する少女は納得したと言いたげに表情を戻してペンチを下ろし、手を伸ばしてアスモへ向けて光を突き刺す。


「いいでしょう。私の持てる全ての記録を以てあなたに答えましょう」

「それならば、私もあなたでは得られるはずのなかった知識を差し出しましょう」


理性ある声と安堵混じる声が交わされると同時に、2人の周囲に影落ちて。

それを確認することもなく、少女は手を下ろしてアスモを見据え言葉を紡ぐ。


「まず、世界の終焉とは様々な意味がありました。人類の滅亡、世界の消滅、自分が信じる世界の消滅……これに共通するものが、人類です。この意味は最早言うまでもないでしょう。故に、もし世界を滅ぼしたいなどとほざく阿呆がいるならば、人類が最も多く住む人界に攻め込むのが手っ取り早い。こう考え……いえ、考えたのかどうかは知りませんが、とにかく進行するのが終焉の魔女です。しかし、そのどさくさに紛れ利権を確保したいと願う者がいるのもまた事実。この者たちやあなた方の持つ創造の権能を以てすれば、人類など最早不要で処分に困る害悪。故に、人界への手出しはせぬまでも自身の属する世界を壊して人間を排除し、永遠を謳歌しようと目論む名もなき者ども。そして、悪夢の邪神による絶対的な統治を望む悪魔たち。以上の全てと関わりを持ち統制する真理の探究会。以上が、現状分かっている世界を終わらせる者たちです」


少女は身振りを交えながらそう告げて、最後に吐き捨てるように言い放つ。


「それぞれがそれぞれの目的を持って行動していますので、どれか1つ潰そうとも何も変わりませんよ」


それでは、あなたも話してもらいますよ。

虚空を見つめ苛立ったような表情を浮かべた少女は、詰るように問いかける。

その様子にアスモは眉を動かすが、疲れたように息を吐き。


「まぁ、いいでしょう。 こちらが渡す情報はただ2つ。1つ、終焉の兵士の製造工場は魔神城の地下、自らが魔神のように畏怖と権力を持ちたいと願った愚か者の願い通りになったわ」


苦々しい表情で吐き捨てる。

そして2つ目と言おうとしたその瞬間、驚愕に目を見開く少女がアスモに詰め寄って。


「では、今まで必死になって封じ込めていたあの場所は!? 私たちの犠牲は、無駄だったということですか!?」

錯乱したかのように喚き散らす少女に、アスモは下唇を噛むと。


「スッカスカで呆けた脳をよく絞って思い出しなさい! あそこを放っておいた時の惨状を!!」

腹から響く太い叫び声を突き刺して、少女の腹を蹴り上げる。


「私たちがしてきたことは、全く以て間違ってなかった! ただそれに、余計な施設が加わっただけ!!」

そう言って、アスモは飛び退き鋭く告げる。


「2つ目、邪神復活において大きな役割を果たしているのは真理の探究会だけじゃない!魔界序列は大罪に及ばぬながらも爵位を持ち、唯一男爵の称号を授かるあのゴミ虫もよ!!」

勢いよくアスモはそう言って、背を見せることなく少女から距離を取り。


「それじゃあ、私は真理の探究会の方を潰してくるわ」

「……どこ行くの?」

「ひぃっ!!」


真面目な顔をして転移しようとするも、病んだ目をした少女に足を掴まれ、悲鳴をような叫び声を響かせる。


「お姉ちゃん、私といいことしようよ……♪」


その声と共に、血が辺りに飛び散った。

その後アスモが恐怖で引き攣った笑いを響かせながら敵対勢力の駆逐を始めることとなるのだが。

何があったのかは、歴史の闇に葬り去られたそうな。



 そして、魔界の一角で凄惨な事件が起きている頃、天神家の地下室では。


「どこへ行ったのだ、あいつは♪」


血に濡れた鋏を持つ、血に塗れた立花凛華がいた。

そんな凛華だが、ふと思い出したかのように首を捻ると。


「そういえば、こんなことをしている場合ではなかったな」


急に理性を取り戻したかのような顔をして、鋏を放り投げ部屋を去る。

唐突に訪れる静寂の中、微かな声が木霊した。


「私の存在って……」


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