4ー3ー7
王国が物々しい空気に包まれ和輝が魔界に帰りたいと打ちひしがれている頃の桜丘学園高等部では、いよいよ文化祭が始まっていた。
「玲奈様のお通りなるぞ、道開けろぉいっ!!」
「何だと!? こちらは陛下の御前なるぞ、平伏せ下民共ぉっ!!」
「神にあらせられる玲奈神を下民とほざくか貴様ぁっ!!」
「その態度は何だ!! そこに直れ、叩き斬ってやる!!」
これは何の祭りだろう。
部外者たちが揃って首を傾げたと語らる現場では、神格与えられ御輿に担がれた北上院玲奈と、黒い服を纏い陛下と呼ばれ人力車で運ばる望來と月菜がいて。
「何普通に座ってるの!? 助けてよ!!」
「「それはこっちの台詞だ!!」」
本人たちの意思を無視した争いが、広がっていた。
そもそも、何でこんなことになったんだっけー!?
私たちが知るはずないでしょう!?
私たちまで迷惑してるんだけど! どうしてくれるの!?
そんなこと言われてもぉー!!
叫ぶ者たち説明求めどそんなことは関係ないと、集まる部外者たちは撮影機材を取り出し野次飛ばす。
「何かの余興ですかねー?」
「今年は威勢がいいですなー!」
「いいぞ、もっとやれぇー!!」
さすがこの学校の関係者は違うわ……。
混乱投げ捨て全力で楽しむ姿に引き攣った笑み浮かべる玲奈の息震え、疲労混じる顔を上げて人力車の方へ顔を向けた時だった。
「あの薄情者共どこ行ったの!?」
「「いつの間に!?」」
人力車に二人がいないこと認識するや目を剥き叫び、集まる視線は驚愕の感情重ねて担いだ神輿を探し出し。
「玲奈があの性格で良かったね」
「うん。視線が集中してなきゃ、こんな簡単に抜け出せなかったしね」
視線が人力車に固まるを気に神輿の後方から脱出図る二人は難なく信者の輪を越えて、悠々と廊下を歩き去り。
開いた教室に入ると口元歪め、姿を変えて部屋を出た。
「これで声も変えれば、もう完璧!」
「下手すれば和輝でも無理かもね」
「今度試してみて、無理だったらしばこうか♪」
「それ良いかも!」
あれ? 確か、お嬢様たちがここに入ったような……??
二人と擦れ違い教室へ入る立花凛華が混乱するを知らないで、玲奈の奇声を避け廊下を歩き展示見て。
「……何か、みんなあの馬鹿騒ぎに行ったぽくない?」
「……どんだけ暇なの、この学校の文化祭」
飾り付けられた無人の教室を見て回り、呆れ混じりに言い捨てる。
窓際の机に座り昇降口見下ろす彼女達へ近付く人影が、二つあるに気づくは教室の境界跨いだ時だった。
「うっわ、ここも空じゃん」
「もういっそのこと、愛花がいつも通り裸で踊れば戻るんじゃない?」
「美結一人でやってなさい」
笑いながら話す者たちの写真撮りながら進む先、立ち上がる望來と月菜の足進む。
あ、誰かいる。
展示に紛れ脱出図れど声が飛び、視線向けらる者たち肩を震わせ固まって。
「あ、待って待ってー!!」
一拍隔て何事もなかったと歩を進め、離脱図るも許さぬ美結は顔合わす。
無理に逃げ出そうものなら怪しまれることは確実で、されど正体が露見した場合何を言われるのか分かったものでないと足を引き。
曖昧な笑みを浮かべて大人しくしていることしかできなかったと、近付く彼女達より一定の距離取る二人は後に言う。
「……どこかで見たことあるような」
「同じ学校にいるんだし?」
「逆に、見たことない人の方が少ないと思うよ」
「いや、それはまぁそうなんだけど……」
美結の後ろより顔を覗かす愛花が怪訝な表情浮かべ間髪置かず、変えた声音で否定返した者たち笑み深め。
表情不自然でないか不安だったと語らる他所で、釈然のしなさ顔で言う者は二人見る。
何か、そういうことじゃなくて……。
もどかしげに言う愛花の肩に手を置く美結は口元緩め、憐れみと慈愛塗れた顔向けた。
「愛花の霊感は置いといて……って、あれ?」
意識外れるを機に姿消した二人を探すも甲斐はなく、忽然と消えた人影眺め口を開け。
訝しげに見た愛花も同じ場所へと視線を向け、慌て辺り見回すも人居た痕跡ありはせず。
「……幻覚でも見てたのかな?」
「…………まぁ、そう考えた方が楽でいいか!」
手っ取り早く事を終わらす愛花に呆れ混じった笑み返すは僅かな時間、程なく美結も思考を放棄することを決断したという。
美結と愛花が玲奈に礼拝捧げる他所で、当の望來と月菜は校舎の外で息を吐く。
「……危なかったね」
「うん。久し振りに愛花が怖いって思ったよ」
「美結は騙せた感じしたけどね」
「愛花の第六感はもう不気味の類だよね」
「それ言えてる」
姿声を変えることなく話す二人は大学敷地に立ち並ぶ、のぼりを見上げ足を向け。
並ぶ屋台に苦笑して、串焼き頬張り顔上げた。
「業者の屋台出てるってところが、ウチの凄いたころだよね」
「まぁ、普通はやらないよね」
串を回収袋に入れた二人は何を言わずに集まる群衆掻き分けて、同じ方向ただ歩き。
「ねぇ君、暇?」
「なぁ、俺と付き合わないか?」
「どう? 俺、君にこれ以上ないくらい相応しいと思うんだけど……」
「「あ"!?」」
歩いているだけで周りにへばりつく数多の声は、鬱陶しさを越えて殺意が湧いたと拳握る二人が顔で言う。
血走った目を見開き低温響かす者に怯んだ者去れど、増える総数へ眉を寄せ。
「駄目だよ、女の子がそんな汚い声出しちゃ☆」
「ほら、俺と一緒に楽しもうぜ!」
「「…………死ね」」
増長止まらぬ男たちに息吐くと、鳩尾に拳や足を差し込み黙らせた。
蹲る者で舗装された道歩いて舗装越え、道なき山を平地でも歩くが如く進み足を止め。
四季を忘れた花が咲き乱れて水が吹く、小さく佇む庭園見遣り声揺らす。
「……しつこい奴らが多かったね」
「望來が化粧取れば、びっくりするくらい消えると思うけどね」
「月菜だけで充分だって」
「まぁ、逆に言えば」
「私たちが誰ってことに、気づかれなかったって意味だけどね」
静かに紡ぐを契機に笑う二人は長椅子に腰掛け空仰ぎ、異なる場所を見つめて胸の奥より音吐いた。
「綺麗だね」
「……うん」
「また、和輝と一緒に来たかったね」
「……うん」
「……どうすれば良いんだろうね、私たち」
「…………どうしようも、ないんじゃない?」
「異世界にまで手を伸ばして、見つけられるかな」
静かに悲しげに寂しげに、諦観を震わせては戻る静寂の波を聞く。
暫し時間が経ってから、思い出したと顔で言う月菜が隣見た。
「天照はどこ行ったんだろ?」
「……一回圏外になってから、通信を試してみたこともなかったよね」
何で忘れていたんだろ。
二人の頭上に疑問符浮かぶは一瞬で、手を伸ばし息吸う二人は輝く瞳を前へ向け。
〈〈さっさと出てこい 天照!!〉〉
高らかな声を響かすその瞬間、神々しい光を放つ魔法陣が地に浮かび。
「成功したっ!?」
「……力の消費量が、割に合わないけどねっ!」
覇気取り戻す視線の先で、荘厳な光の柱が顕現し。
柱を繋ぐ光が扉を形成し、重厚な質量引き摺る音を軋ませ世に開く。
数拍置いて足音響き、複雑な表情を浮かべた天照が現れた。
「……何の用にございましょうか」
「単刀直入に言うわ」
「和輝はどこ?」
手を叩き喜び合っていた二人が天照の顔見て口元歪めたは僅かな時間、自身の顔に手を翳して化粧を落とすと腕を組み、態度違わぬ声音で言い放つ。
そんな二人の様子に表情歪んだ天照は疲労呆れ隠さずに、こめかみ押さえ息を吐き。
「和輝様は恐らく三日後に帰還なさいます」
場所は、道頓堀だとか言ってましたけど。
哀れみの視線を以て望來と月菜に声を投げ、返る蔑みの感情受け流し。
「そんなことは聞いてない」
「和輝が今どこにいるのかって聞いてるの」
冷徹で残忍な声を響かせ虚空より刀抜く、顔を近づけ瞳合わす人間眺め微笑んだ。
首と胸に目を向け凄む少女達へと視線を戻し、涙を堪え震えだすまで時僅か。
「やっぱりこの人たち怖いぃぃ!!」
「「……は?」」
時間と共に増える重圧耐えるも限界と、涙振り撒きながら転移する。
挙動止める人間たちが事態認識したは数拍後、瞳孔開き天奥見上げ睨みつけ。
「「出てこい天照!!」」
太く咆哮轟かせ、刀振り上げ空を割き。
先へと突撃図るも庭園の入口走るを気づくや足を止め、舌打ち鳴らし転移した。
転移繰り返し逃亡図る天照が自身の安全確認するは暫し後、天界へと逃げ込むは更に後。
「ガブリエルさん人格破綻者の気持ちと対処法を教えてください!!」
「はぁ? 何であたしが……」
「天界で一番人格が破綻してるのガブリエルさんじゃないですかーー!!」
喚き騒ぐ声が聞こえた後に、荒れ果てるガブリエルがいたと語られる。
「酒だぁぁっ!! 酒持ってこぉぉいぃ!!」