4ー3ー5
和輝が王都を散策している間に魔界では、姿形の同じ少女が二人、完全に同じ表情で相対していた。
「どう言えば良いでしょうかね」
「私に振らないでくださいよ」
「魂の形質が、全く同じ……?」
その後ろで見つめるは、肩より長い髪揺らす、日本神話最高神の名を冠する天照で。
瞳を赤色に、瞳孔を金色に染めて二人を見つめ立ち尽くし、どちらの方へ意識遣ることなく問い掛ける。
「色々と説明してもらえますよね、フォルネウスさん」
「説明も何も、もう全部終わらせた気でいるんだけど?」
その声に左方が面倒隠さず吐き投げて、それを気にした様子も見せぬ右方は無言と無表情を貫いて。
重苦しい空気が跋扈し時進み、呆れ疲れた息吐く天照は、憐憫に満ちた視線突き刺し哀れんだ。
「アスモさんやあなた、天桜さんのところや天安院さんのところといい……なんでそう、揃いも揃って和輝さんの関係者は人格がいくつもあるんですか」
「は”?」
「この老害はともかく、私まで異常者扱いは納得できませんよ!!」
そんな天照の声に保つ無表情投げ捨てた右方の女が血相変え詰め寄るも、左方と同じ声に詰め寄らる者の驚愕困惑へと変わり。
何度か視線動かし数拍後、目の色戻し顔逸らし。
「……ごめんなさい、見分け付きませんので名前教えてください」
「ふひっ。今度和輝さんにやってみようか」
「罰とか決めて?」
「確実に和輝様負けますので、勘弁してあげてください」
降参呟く瞬間に重なる愉悦へ口の端を引き攣らせ、こめかみ押さえ息漏らす。
よくこんなの毎日相手していられますね。
声を上げて笑いながら腰を下ろす二人見遣りながら呟く者も腰下ろし、腕を組んで顔を上げ。
「私が、フォルネウスです」
「私は……ルイズとお呼びください」
「その名前使うの?」
「今の確率、呆けて忘れたわけじゃないでしょうね?」
右が偉そうで左が優しそうなこと以外、さっぱり分からない。
右方から順に告げる声へ曖昧な笑みのみ返し口噤み、嘲りと挑発が衝突する中で気配消す。
「さてと、年を取り耄碌したあなたの為にもう一度説明しましょうか♪」
「もう一度も何も、後で説明するとの言葉以外何一つ聞いてないんですけど……」
意外とこっちも性格悪い?
歌うように告げたルイズに引き攣った笑いを浮かべる天照が呟けど、話が止まるでもなく場は踊り。
フォルネウスの方へと視線向けたルイズが何も反応返さぬ彼女へ温度消えた視線突き刺して、口を開けと顎で言い。
時置き顔を上げたフォルネウスは何事もなかったが如き表情湛え、平坦な音を吐き出した。
「まず、この世界は。一度、滅んでもらいます」
「は?」
「これは決定事項ですので、異論反論抗議抵抗の一切を認めません。私たちを殺そうとも、この未来が変わることはありません」
「あぁ、勘違いされても困りますが。私達は破滅主義者と違います」
「言うなれば、そう。ようやく舞台の幕が上がるってことです」
口を開こうとするも被せられた音に天照の声は行き場を失って、機会見つけたと発言試みるも再び遮られ。
途切れることなく重なり響く感情は、冷たさを通り越して熱く感じたと語られる。
「いつもいつも事象が変わり、毎度毎度全てが変わり」
「その度に地獄を見せられてきたけれど」
「その度に自分の無力さを呪ったけれど」
「「今度こそ、私たちはこのふざけた世界を盤面から破壊する」」
「あなたにとっても悪い話ではないでしょう?」
「私たちの最終目的は、悪夢の邪神を殺すことなんだから」
「……待ちなさい!!」
ようやく割り込めた。
疑問重ねた表情覆うは驚愕越えた戦慄で、薄い笑み揃えた彼女たちの様子に肩を引き。
間を置かずに表情切り替え顔を上げ、血気退いた顔に闘志貼り付け恐怖吐く。
「正気なんですか、あなた方は!!」
「勘違いしないで」
「悪夢の邪神を復活させるのは、私達じゃなくて真理の探究会」
裏返った声で叫ぶ彼女へ嗜虐の笑み向き自嘲めいた声響き、伸びる手が怯える者の肩掴み。
理解したなら、手伝ってもらえるかしら?
視線逸らすこと許さず目を合わせ、静かに重く言を告げ。
「正気じゃないよ、貴女たち……」
「「正気で挑めると思うほど、私は場数を踏んでない」」
身を震わせ呟く天照に毅然と返す二人の顔には、狂気とも言える覚悟が浮かんでいたという。




