4ー2ー5
神帝王国が醜態晒していることなど知らないで、魔界では二人に詰めらる少年の姿があった。
「はい、それでは本題行きましょうか」
「ささ、ぐぐっと一杯やる感じで……」
「フォルネウス、何か変な物でも食った……?」
疲労浮かぶアスモと笑顔ですり寄るフォルネウスの落差に苦笑して、和輝は事の発端となった球体に手を伸ばし。
青く光る球体の中央に視線集まりながら、見る女たちの時止まる。
「えと……」
「これは……」
「「……水、ですね」」
「何か変だった?」
意外と態度で言う和輝の視線は球体と二人を往復し、納得いかないと顔で言い。
これ、隠された能力見つかる場面じゃなかったの?
口尖らせる和輝を他所に、他の者達の視線飛び交い皆惑い。
[水ってことあった?]
[いえ、記憶にある限りではなかったような……]
[あ、記憶にないってのは老化現象だろうから省いて]
[死にたいなら早く言えよ、惨たらしく殺してやるから]
そう時間の経過を要せずに、互いの胸倉を掴んで恫喝し合う者がいた。
「一回落ち着こう!?」
「「はい! 今からちょっと解剖実験してみませんか?」」
「やかましわ!! お前ら本当は仲良いだろ!?」
「えぇ、殺してしまいたいくらい仲良いですよ♪」
「そうですね、這いつくばって泣き叫びながら死んでいく姿を見たいと思っているくらい仲良いですよ♪」
殴り合いを始めんと拳握る二人へ突き刺さる声に舌打ち鳴って距離離れ、高く弾んだ音が鳴る。
相手を指差しながら笑顔で声弾ます様子に手遅れな状況を悟ったという和輝は虚を見上げ、何もかもを放り投げ。
「で、水ってのが何かあったの?」
「だ、大丈夫ですよ! 水、最高だと思います!!」
「そうですよマスター! 底が見えぬ真っ暗闇が道具突き破ると思っていただけですので……」
もしかして、使えない属性だったりする?
満面の笑みで話を亜空へと放り、不安げな表情浮かべるや小突き合いを止めた二人は詰め寄り問題ないと力込め。
誰の性格が闇だって?
そう囁く声が歩くや伸びる手は、フォルネウスの気道を的確に締め上げていた。
「グブブブブ……ク、クルシイデス…………」
「それがですねー、和輝さん! 属性があるとは言っても、その属性系統の魔法しか使えないってことはないんですよ♪」
「え、そうなの?」
「はい……あ、死んだ」
「…………え?」
そんな和輝に溢れる笑顔を抑えきれないと顔で言うアスモが抱き着いて、首絞めるを手伝いながら朗らかに声揺らし。
実証しようと指上げたその瞬間、唐突に間の抜けた声が辺りに響く。
何か、この展開知ってる。
口の動きでそう言う和輝は視線現実に戻すや踵を返し、全力で自分の部屋へと疾走図れど掴まれる袖の感触に足を止め。
「まさか、見捨てるなんてことは……しませんよね?」
鳴る声に肩を震わせ強引に首を動かして、血の気失せた顔でアスモを仰ぎ見た。
上目使いで和輝を見ながらも体の節々から迸る濃厚で重厚な圧力は、脅迫にしか見えなかったと語られる。
「いっそのこと、二人で新しい世界に逃げ……」
「よぅもやってくれたじゃないの……!!」
「「ひぃっ!!」」
凍り付く時の中で一切合切投げ遣るアスモが言葉を紡ぐや怨嗟の声が蠢いて、それは地獄の底から響き渡るような不気味な声だったと回顧され。
飛び上がり身を寄せる二人は声のした方へ顔を向け、間を置くことなく後悔の念を顔で言う。
そこに在るは、粗末な服を身に纏いながら額より血を流す、所々が腐敗した怪物で。
「じ、成仏してくれ……」
〈し、主よ迷える子羊を救い悪しき魑魅魍魎を滅ぼし給へ……〉
祈る二人に唇を歪めたフォルネウスは近づくと、和輝とアスモを引き剥がしては怯える女に囁いた。
「地 獄 に お い で ……!!」
「や、やめ……てえぇぇぇ!!!」
床に漆黒の闇浮かび、泣き叫ぶアスモが引きずり込まれると共に嗤う女も闇へ消え。
ただ一人取り残さる和輝だけが、呆然と佇み音紡ぐ。
「……アスモ?」
「…………フォルネウス?」
暫し時間が経ってから乾いた声を響かす和輝だが、そこに返答の声はなく。
また暫し経ってから、懇願するかの如く声を震わせる。
「天照様……?」
「はい」
響く凛とした声を認識せず打ちひしがれる和輝は瞳に絶望浮かべて天井見上げ、静かに深く息を吐き。
「やっぱり、みんな消え……たぁっ!?」
唐突に飛び上がっては恐る恐る振り向いて、何事もなかったが佇まいでそこにいる、天照大神の姿に恐れ慄き足引いた。
ふ、フォルネウスと一緒に死んだんじゃ……??
言葉に成らぬ空気を漏らし口の形で問う少年へ、不服言う顔に悪戯でも成功したが如き笑み浮かべる彼女は澄んだ声を弾ませた。
「私は神ですよ?」
「……あ」
和輝の手を取り微笑む天照に忘れていたと音が漏れ、なぜ忘れていたのかと詰める視線が衝突し。
僅かな時を隔てて表情戻す天照は空間示すと笑み深め、新たな体を出現させる。
「何か不都合あったら、こうして肉体取り替えれるんですよ♪」
「……非常食」
「ひぃっ!?」
驚き崇めよと期待に満ちた顔で言う天照に返るは真剣な表情に違わぬ声音、何を思っての発言かは知りたくなかったと語られる。
日本神話最高神たる天照大御神を人の身で震え上がらせた史上三人目を記録さる、天神和輝は意識戻すや慌て繕った。
「あ、その天照様を食おうってわけじゃなくて、食料の体を自由に出せれたら非常時に便利だな、と……」
「何で私を見てそう言うんですか!? 怖すぎ……まさか、私食料扱い!!??」
確かに私を殺しても身元分からず殺人で捕まりませんけど!
そう叫ぶ天照に返る言動は誤解をさらに拗らせて、新たな誤解生んでは跳躍し。
事態の収集は苛烈を極めたと、腹を抱え笑う者がいた。
時は数刻前に遡り、天界が一画のとある場所。
「……死んだ」
「……これ、誰を恨めばいいんだろ?」
横たわる天照は姿勢変えることなく声を吐き、怨嗟と共に息を吐き出しそこに在る。
そんな彼女に近付く影は、呼ばずとも現れ無意識に大混乱を撒き散らす、大騒動製造器の異名冠するラファエルだった。
「ほぇ? 天照様??」
「あぁ、ラファエルさん……」
「どうしたんですか、こんな所で」
「ちょっと殺されちゃいまして」
「誰にです?」
胸に届くまで積まれた書類抱えるラファエルは、一度地に置き問い掛ける。
まさか、天照様を殺せる人がいるとは思いませんでしたよ。
困惑混じりに笑う天照へ返る明るい笑みに場は和み、一拍置いて大天使を見た主神は虚空を見つめ俯いて。
「……何か色々ややこしいことになるんで、黙っておきますね」
「大丈夫、殺されたら復讐するのが基本なんです。相手の都合なんざ知ったこっちゃありません!」
「ラファエルさん、どうしたんですか……?」
言葉押し込め顔を上げ、弱々しく微笑みながら告げるも力強く握らる手の感触に眉上がり。
何か、様子がおかしい。
目を爛々と輝かせて宣言する彼女の異変に気付くは時既に遅かったと、天照は供述することとなる。
「殺されたら、殺し返すのは当然の権利なんですよ!」
「あ、あの……」
「一緒に嬲り殺しましょう♪」
凄絶な笑顔で囁く彼女の目は据わり、虚空より取り出す剣を舐め興奮抑えきれぬと息を吐く。
怯え震え距離取る天照へ近付くにつれラファエルの笑顔が圧を増し、肩を抱いて目を合わせ。
「どうしたんですか? 腸引きずり出して脳味噌潰すの楽しいですよ??」
「いぃぃやあぁぁぁ!!! ラファエルさんが恐いぃぃ!!」
叫ぶ天照は全力で逃走し、魔界にいる和輝の元へと降り立った。
「やっぱりここが安心する……」
呆然と佇む和輝の後ろで鼻啜る、日本神話最高神の姿があった。
時は進んで天照の視線和らぐ時のこと、安堵の息吐く和輝は問い掛ける。
「……で、これどうします?」
「そうですね……」
何か、凄い方向に話が飛んでいったけど。
天照が現れどアスモとフォルネウスが闇へ還った事実に変わりなく、対する天照も困惑の表情浮かべ部屋を見回して。
「魔法の説明は如何ですか?」
「あ、それお願いします!」
「わかりました。それでは……まず魔法とは、火、土、雷、風、水、氷、光、闇、その他に分けられます」
和輝の握る球に視線が行くや思いついたと顔で言い、返る声に頷き手の平を上に向け。
説明と同時に、火、土、雷、風、水、氷、光、闇を微かに出現させた。
「……その他?」
「えと。きっちり分類できるのなんて、例外に近いですよ?」
「そうなんですか?」
「えぇ。例えば……こんな感じですかね」
誰だ魔法の分類決めたやつ。
半目で問い掛ける和輝に困惑混じりの苦笑を返し、金色に輝かす瞳で和輝を見据え言の葉紡ぐ。
「天桜望來、ごく一部の親しい者に対してだけは暴力的だが、実は極度の人見知り」
「天安院月菜、天桜望來と同じく極一部の親しい者にだけは暴力的で、辛辣な言葉遣いは一部の者を喜ばせている」
「だが、本当は寂しがりで感情の出し方を知らないだけ。二人とも繕っている性格を剥げば泣き虫で、臆病で、芯が強く心優しい」
「あ、天照様……?」
「どうです? 身長、体重、好きな人……よりも、誰が見ても恥ずかしい過去の出来事まで続けましょうか? 例えば、十三歳の夏にあった」
「いえ! もう十分です!!」
一切の淀みなく紡がれるその声に、説明が終わる頃には和輝の顔から完全に血の気が引いていて。
個人情報って言葉、何なのだろう。
曝露遮り慄きながら、本気でそう考え込んだという。
「一体、どうやって……」
「これが、その他に分類される魔法ですよ」
記憶の読み取りって、色々な方法がありますけどね。
呟く和輝に微笑む天照は穏やかな音を歩かせて、再び口を開くも飲み込んで。
「和輝様の記憶を見たから解ったわけですけど。表面だけしか知らない人は、二人を残忍で冷酷で無慈悲な、悪魔より恐ろしい魔物としか見れませんよね」
「あ、あの……?」
「あの悪魔共、何とかしてもう少し大人しくさせてくれませんか?」
体を乗り出し唇触れる位置まで顔を寄せ、迫力のあったと語らる笑顔で和輝に迫る。
何でこんなに怖いんだろう。
顔で言う和輝は唐突に目を見開いて視線を外し、頭下げて涙声を響かせた。
「善処するよう最大限の努力を惜しまぬ心意気にございます」
「…………それ、全く何もする気がないと言っていますよね!?」
申し訳ないと手を伸ばす天照だが唐突に、動き止めて騙されないと猛り吠え。
「……もっと頭弱いと思ってたのに」
「どういう意味ですか!?」
よく言われますけども!
舌打ちと共に響く声に目を剥いて、黙る和輝の肩を揺さぶった。
涙目で訴える天照のことなぞ脇へ遣り、息吐く和輝は何もかもを海へ投げ込み話を引き戻す。
「……えっと、魔法の話でしたよね?」
「え、あぁ、はい、そうですね……」
釈然としない。
そう呟く天照は急かす声に深く息を吐き出すと、表情切り替え虚を見上げ。
「その他ってところまで話したので……」
「そうそう! 属性系統は工夫次第で何とでも、ってのがありました!!」
「は?」
顎に指当て時隔て、思い出したと手を打った。
何それ、属性系統の意味何よ。
活力ある声と反対に、投げらる胡乱な声は生気なく。
「そ、その目止めてください……」
冷徹の一言に尽きると語らる和輝の視線に足を引き、懇願するも変わらぬ視線に涙堪え鼻啜り。
「え、えっと……水属性の方でも、水素を高速でぶつけるよう操作することで火を出すことが可能ですし、同じ要領でもっと高速でぶつけると電気もできますし、闇と言っても……出した水に速度と色でもつけて膜状で相手を覆えば、代用可能といった風に……」
「いや、魔法は……?」
何で物理の授業やってるの?
問う和輝に何を言っているのかと、前方見据え首を傾ける。
「魔力を使って原子を操作するんですよ?」
「は?」
「うぐ……」
何を言い出すかと顔で言う天照に同じ視線返されるは時置かず、続く言葉失う彼女の感情彷徨って。
目に涙を溜め下唇噛みながら頬膨らます天照は床を踏み、吹き上がる感情吐き出した。
「事実を仮装して事象の変動を起こすのが魔法なんです!! 頭に思い浮かんだ情景をそのまま持っていくこともできますが、それって割と難しいからこんなことやるんです!!」
和輝を殴りながら泣き叫ぶが如き様相湛える天照の姿に主神の威厳はなかったと、曖昧な笑み浮かべて固まる者は後に言い。
気付いたと表情で語る和輝の顔上がり、平坦かつ穏やかに問い掛ける。
「土と風はとりあえず置いといて、氷と光の属性使うってのはどうやるんですか?」
「実際は使える人雇った方が早いんですが……」
光はともかく、氷ってのはどう頑張っても無理なような気がするんですけど。
問う声に天井見上げる天照は思い付いたと態度で示し、紙を手に取り訝る和輝に向き直り。
「熱っていうのは、原子が飛び回っている時に生まれるものだと知っていますよね?」
「ぇ……と、はい」
期待に満ちた笑み浮かべ紙を振り、数拍隔てて目を見開く和輝に胸を張る。
「まさか、さっき言ってたことって……!!」
「そのまさかを、魔法ではやるんです!」
「さぁ、科学を越えた魔法の力をご覧あれ!」
勢いづく天照の言葉と共に浮く紙は水に囲まれて、動きと共に温度失い氷結し。
「そんな……!!」
「どうですか? 全ての原子の動きを止めれば、熱エネルギーが発生せず凍るんですよ!!」
「こんなことまで、魔法で簡単に……!!」
誉めてと告げる期待に満ちた声へ驚嘆の音が返るも天照の顔より笑顔抜け、口元緩む顔を下げ。
確かに、これは自分が悪かったか。
口の中で転がす言葉は外へ出ず、静かに声吐き出すは暫し経ってからのことだった。
「……簡単、ですか」
「あ、の……」
言葉絞り出す者を捨て置き紙は灰すら残らず燃え尽きて、和輝に近づく天照の昏い感情噴き上げる。
「では、適当な物を凍らせてみてください」
「いや、まず魔法の使い方知らないんですけ……ど」
「和輝様?」
何だこれ?
嗤い近付く者より足引く和輝は足埋まる感触に首傾げ、後ろ振り向き顔を下げ。
曖昧な感情顔に固定させ、転がる天照の死体指差し問い掛けた。
「どうします?」
死体を本人の目の前で指差した人間は、一体どれほどいるんだろう。
真っ白になる頭で思ったという和輝に対して思い付いたと顔で言う、天照は薄く笑い囁いた。
「バラバラにして食べないでくださるなら、どうぞご自由にお使いください」
「あちらにある、新しく作った体もですか?」
「えぇ、もちろんですよ」
どうせ無理だろうけど。
自信に満ちた顔に違わぬ声弾み、言質は得たと返る声音へ首傾ぎ。
相も変わらず力強く返さる答えに和輝の笑み深まって、一周廻り爽やかだったと語らる笑顔でそう言った。
「では、お言葉に甘えて毎晩使わせていただきますね」
「え"?」
「何か問題でも?」
「い、いえどうぞご自由になされば良いでしょう……」
目論見が外れたと茹で上がった顔で言う天照は向けらる嗜虐的な笑み気付くや悲鳴上げ、震えながら肩を抱き。
部屋の隅で怯える彼女に悪戯でも成功した幼子が如き表情浮かべる和輝は覚悟決める彼女に近付くと、腰を下ろして表情戻し。
「冗談ですよ。少しだけ」
「ほとんど本気じゃないですか……」
茹で上がりが消え切るには程遠い顔で恨みがましげな目を向ける彼女へ嗜虐的な笑み戻ったその瞬間、天照が自身の依代を炎で包む。
「さ、さて魔法の使い方に入りましょうか!」
「……もったいない」
この話は終わりだと叫ぶ彼女に対し、燃える依代を物惜しげに眺める和輝がいて。
何に使おうとしたのかについて、語られることはなかったと記述さる。




