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第十七話「予選会場」


 市民の憩いの場となっているはずの広場はすっかり様変わりしていた。

 

「殺せえええええ!」


 ここは王都ではなく世紀末の街の中かと勘違いしそうになる。

 背の低い俺からは広場の中央で何が行われているは見えない。

 しかし、声援が送られている先は剣舞祭の予選試合であることは間違いないだろう。

 俺はドン引きである。


「な、なんか思ってたより過激な歓声ですね」


 ザンドロも俺の言葉に返す適切な解がみつからず、困ったように頬をかく。

 とはいえ、どのような試合が行われているのか気になる。

 群衆の先から剣撃の音が、時折俺の耳にも入ってきた。

 その剣撃の合間にあわせて、人々の歓声、どよめきが広場に伝染する。

 軽くジャンプしてみるが当然観えない。

 もちろん身体能力を存分に発揮する、または得意の浮遊魔術を使えばといった手段はあるのだが、わざわざ自分から目立つ行為をしようと思わなかった。

 

「アリス、こっち」


 再びザンドロが俺の手を引き、どこかへと誘導する。

 向かう先は群衆の中。


(いやいや、試合で興奮している人の中をかきわけて前にいくのは無理でしょ!)


 ザンドロが行おうとしていることを予想し、俺は戦慄する。

 そんな心配をよそにザンドロはいつもの柔らかな笑みを浮かべながら、目の前の広場で行われている試合に夢中で、後ろなど見ていない一人に声を掛ける。


「ちょっとすみません」


 なんだ、テメエ!と言いたそうな顔で振り向くが、ザンドロの姿を認めると一変。


「おお、兄ちゃん参加者か、がんばれよ!

 おい、あんた参加者のお通りだ!」


 いかつい顔をした人物は周囲の人にも声を掛け、道が割れていく。

 

「どうも、ありがとうございます。ほら、行こう」


 その中を歩いていく途中、ザンドロに対して声援が送られていた。


「兄ちゃんがんばれよ!」

「いい試合を期待してるぜ!」


 世紀末の野蛮な人々かと俺は思っていたが、どうやら根はいい人ばかりのようだ。

 人で作られた道を暫く歩くと、やっと視界が開けた。

 タイルが綺麗に敷き詰められた広場の中央。

 全身に鎧を着こんだ二人が対峙し、激戦を繰り広げていた。


「おお!」


 思わず声が漏れる。

 激しい剣の打ち合い。

 剣がぶつかる度に周囲の歓声もヒートアップする。

 顔がヘルムに覆われているため、その表情は窺い知れない。

 ザンドロの歩みは止まらないため、それを横目にやりながら俺は付いていく。

 視線が中央に釘付けとなっておりザンドロがどこに向かっているのか、暫く経ってから進行方向に目を向けた。

 向かう先、群衆が囲む内側に一カ所だけテントが設営されているのが見える。

 その中に王城で仕えていることを示す制服を纏っている者がテントの前に一人、中に二人立っていた。

 

(テントの前の人は審判かな?)


 テントの後ろには立て看板が立てられている。


「僕は参加確認をしてくるよ」


 ザンドロは俺に声を掛けると、テントの中にいる制服を身に着けた者に話しかける。

 俺は立て看板に何が書いてあるのか気になり、看板の前へ行くことにした。

 看板の前を陣取る群衆は中央の戦いに夢中。

 背が低いのが幸いし、誰にも気付かれることなく看板の前に辿り着いた。

 そこに張られていたのはトーナメント表であった。

 

 "剣舞祭 第8会場 予選"


 第8会場と掛かれているということは、少なくとも他の場所でさらに7カ所も同じ規模の試合が行われていることになる。

 にもかかわらず、羊皮紙の両脇には上から下まで名前がびっしりと記されていた。

 大会の参加者の多さに俺は息を呑む。

 その時、一際大きな歓声が沸き上がった。

 もちろん原因は中央で行われている試合。

 慌てて中央に目をやると、片方がもう片方の相手の首元に剣を当て止まっていた。

 首元に剣を当たられた方は手を上げ、降参のジェスチャー。


「そこまで、勝者352番!」


 テント前の審判が歓声に負けぬ大きな声で宣言すると一際大きな歓声が起こり、惜しみない拍手が送られる。

 中央で対峙していた二人はヘルムを取り、握手をしていた。


(てっきり、もっと泥臭い試合になるのかと思ってたけどこうやってみるとスポーツと変らないな)


 ぼんやりと俺はそんなことを考える。


「珍しく綺麗に終わったね」


 いつの間にか俺の横にザンドロが戻ってきており、そんな感想を呟く。


「綺麗ですか?」

「うん。お互いの実力がわかっているから、ああやって致命傷となりうる一撃を貰ったと判断して降参してくれる。

 そういう人ばかりならいいんだけどね」

「……悪足掻きする人もいるのですか?」

「いるよ。たくさんいる。

 そっちの方が多いくらいだ。

 剣舞祭の試合のルールは相手が戦意喪失したと判断された時に決着。

 降参もしくは気絶、決勝なら致命的な一撃と判断された時」

「けっこう曖昧なルールですね……」


 つまり、諦めの悪い試合相手にあたると全身防具を身に纏っている相手を気絶させないといけないということになる。

 それが如何に大変な事かが分かった。

 

「まあ、さすがに剣に誇りがある人ならそんなみっともないことはしないよ」


 ザンドロは苦笑しながら言う。

 中央の二人が別れ、広場を囲む群衆に紛れていく。

 勝者は「よくやった!」と言わんばかりに鎧を叩かれ祝福され、敗者も「いい試合だったぜ!」と勝者と変らぬ手荒い歓迎を受けているようだ。

 

「353番、354番、前へ!」

 

 審判の声が響き渡り、次の試合の番号が呼ばれる。

 

「じゃあ、行ってくるよ」


 少し驚き、横のザンドロを見る。

 もうザンドロの出番のようだ。


「がんばってください!」


 気の利いた言葉は思いつかなかったので俺はありふれたフレーズをザンドロに送る。

 ザンドロは俺の言葉に嬉しそうに微笑むと広場の中央へと向かっていく。

 再び広場に歓声が起こる。


「がんばれよ!」

「いい試合期待してるぜ!」


(さて、先輩の対戦相手は……)


 ザンドロとは反対側から中央に歩み寄る人物に目を向ける。

 その人物はのっそのっそという擬音が似合いそうな歩みで向かってきた。

 でかい。

 身長が2mはあるだろうか。

 中央でザンドロと対峙するとその大きさは際立つ。

 相手はザンドロを見下すように一瞥する。


「なんだ俺の対戦相手はガキンチョかよ!」


 対戦相手の第一声であった。


次回更新 4/24(火)

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