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第十話「新たな一面」


 他愛もない雑談をしながら、楽しく飲み食いは続く。

 豪快にジョッキを何度も呷っていたアレクはとうとう酔いつぶれ、机に突っ伏した。

 幸せそうな寝顔であった。

 その様子をラフィが珍しそうに眺める。

 

「アレクが酔いつぶれるの初めて見た」

「そうなの?」

「うん。何度か飲んでるけど、普段はずっと元気。

 ナオキとの再会がよっぽど嬉しかったんだね」

「ま、心配かけたしな……」


 一年と決して長くはない付き合いだがいい友であり仲間を持てた俺は感慨深げに思った。


「ラフィも結構飲んでるけど、大丈夫なの?」


 そう、アレクも中々の勢いで飲んでいたがラフィも負けず劣らず、小さい身体のどこに入っているのか。

 同じタイミングで蜂蜜酒のお替りを要求していた。

 ラフィの様子をアレクは何か言いたげに眺めていた気がする。

 気のせいか。

 現にラフィは俺の疑問に、


「平気」


 と短く答える。

 笑みを浮かべながら。

 ……そう、笑みを浮かべながら。


「それより、ナオキこっち」


 ラフィの隣、空いている席をポンポンと叩く。


(隣に来いという意味か?)


 俺の横に座っているアレクは物言わぬ身体。

 対面の方が話しやすい気もするが、特に断る理由もないので席を移動する。

 ラフィの隣へ。

 

「えへへ~」


 移動するなり上機嫌なラフィに抱き着かれる。

 驚いたが、普段アニエスに抱き着かれ慣れているため俺は平常心を保てた。

 年齢は俺達よりもだいぶ上であるが、ラフィの身長は今の俺より少し高い程度。

 種族も髪の色も違うが、傍目から見たら姉妹のようである。

 あと、ラフィは普段より少し、いや、大分饒舌だ。

 感情表現も豊か。

 ふにゃふにゃと表情が変化する。


「ナオキ、ナオキ。

 私も聞きたいことがあったの!」

「改まって何?」

「ナオキが迷宮で使ってた、空中に浮いてたの!

 何あれ!私も使いたい!」


 目をキラキラ輝かせながら問うてくる。 

 顔が近い。

 幼い見た目で普段は無表情であり目立たないが、ラフィは美人だ。

 これだけ近いとさすがに俺も照れ、少し顔が赤くなるのを自覚した。

 誤魔化すように視線を少し外しながら俺は答える。


「適当に創った魔術だから、すごい燃費が悪いけどそれでもいいなら」

「てっきり空中に浮く魔術を何かの本で手に入れたのかと思ってたけど、創ったの?」


 ラフィは俺が一度見たスキルに含まれる魔術を習得できるということを知っている。

 それを伝えた時に、すごいラフィに恨めし気に睨まれた記憶は今でも残っている。

 それはそうと、どうやらラフィは俺が魔術を創ったことに驚いたようだ。

 

「創ったといっていいレベルかはわからないけど、こう空中に足場を生み出すイメージで」


 俺は机の上に見えない場を生成。

 その場に皿を一枚置く。


「これを連続で生み出してるだけの力技だけどね」

「なるほど……」


 ラフィはツンツンと場に触れ確認する。

 視線を外し再び、俺をジト目で見る。


「やっぱり規格外。ずるい」

「ずるいって」

「ナオキは精霊に愛されすぎ!ずるい!

 こんな一瞬で、詠唱もなく、すごい精霊が集まってる」


 ラフィの目は俺には見えないものを捉えていた。

 精霊と言われている存在だ。

 俺には当然視認することができない。

 以前も一緒に旅しているときに言われたことがあるが、俺が魔術を行使すると普通の人では考えられないほどの精霊が集まっているらしい。

 きっと神様が与えてくれた固有能力(ギフト)の一つ、『精霊の友』の影響だろうが。

 俺は以前も尋ねたことがある質問を今一度してみることにした。

 当時尋ねた時はこの世界の魔術体系について知識が一切なかったが、今は少し学び、以前よりも理解できることが増えてるはずとの思いからだ。


「ラフィは精霊が見えるんだよな?」

「見える、というよりはぼんやりと何かが”いる”と感じる程度だけどね。

 精霊の存在を感知できるのは私達長耳(エルフ)族の特徴。

 だからナオキの中に何かいるのも感じられるし、剣にも何かいると感じることができる」

「長耳族は精霊との対話に優れる種族って魔術の本に書いてあったけど、精霊と会話もできるの?」

「無理。ナオキが今の話で指している精霊には明確な意思をもたないの。

 だから会話はできない」

「意思を持つ精霊となら会話できる?」


 俺の答えにあきれたように、ジョッキの蜂蜜酒を一口飲むとラフィは答える。


「それならナオキの中にいるヘルプとか、竜の精神を精霊と呼んでいいのかはわからないけど目の前にいるじゃない」

「でもラフィはヘルプとは会話できないんだよね?」

「できない。ナオキの中にいる精霊はどうも存在を感じられるんだけど、私の知ってる精霊とは違うのよね……。

 多分ナオキが求めている答えを言うなら、意志を持つ精霊は私達と違う存在というだけで普通に会話はできるわ。

 中にはおしゃべりな精霊もいるしね」

「それは長耳(エルフ)族じゃない種族でも?」

「そう。でも何でそんなに精霊と会話したいの?」

「いや、別に会話したいわけじゃないんだが……」


 精霊自体を召喚する。

 ただ、今のラフィを聞いていると精霊自体はすでにこの世界に存在して目の前にいることとなる。

 つまり何をもって精霊を召喚とするのか、俺はわからなくなり言葉に詰まった。

 その様子をラフィは静かに見守り、いや、ジョッキを呷りながら傍目で見ていたが詳しい追及はしてこなかった。

 ラフィは飲み終えたジョッキを置くと唐突に宣言した。


「ナオキ、明日は迷宮に行きましょう!」

「突然どうした」

「ナオキという素晴らしい盾がいるうちに私もレベルあげとかないと!」

「俺は盾かよ……。

 まぁでも迷宮に行くのはいいぞ。

 俺もギルドからたまには迷宮に行くよう言われてたしな」


 冒険者ギルドから俺の加入条件「月一度は王都迷宮の探索に参加」と言われていたのを思い出す。


「でも、ラフィは王都迷宮入れるの?」


 王都迷宮は現在冒険者ギルドの管理下にあり、冒険者でない者は中に入れない。

 しかし、俺の心配は杞憂に終わる。

 俺の疑問を待ってましたとばかりに、ラフィは得意げに。


「じゃじゃ~ん」


 金属板を掲げる。

 冒険者の証だ。


「いつの間に」

「ナオキのことだから、そのうち迷宮に行こう!って言い出すこともあるかなーと思って先日アレクと申請してきたの。

 勇者御一行様のおかげでAランクよ」

「くっ! 俺自身は勇者の恩恵を授けられないというのに!」


 俺はがっくり。

 アレクとラフィは申請だけで簡単にAランクへ登録されたようだ。


「だから迷宮には問題なく行ける。

 アレクも暇人だから、どうせついてくるでしょう」


 笑顔でラフィは宣言する。

 普段のラフィは常に無表情の印象であったが、今のラフィは全然違う。

 お酒のせいなのか、それとも俺が女の子のそれも少女の姿になりラフィが話しかけやすくなったのかはわからない。

 ラフィの初めて見る顔を俺は暫く楽し気に眺めていたが、その視線に気づきラフィは問いかける。


「さっきからじっと見てるけど、何か私の顔についてる?」 

「いや、初めてみるラフィの一面だなーと」


 俺の一言で初めて自身が普段の様子と違うことに気付いたのか、口の前でバッテンマークを作る。

 ただ今更手遅れ。

 次にラフィは何故か項垂れてしまった。

 やがて小さい声でラフィが尋ねる。


「今の私はいや?」

「いや、お酒を飲んだラフィはかわいいなーって」

「な、な、なにお」


 俺の答えにボンっと音がしそうなほど突然ラフィの顔は真っ赤に染まった。

 うーともがーともつかない謎の声を横で繰り返し、


「すみません、蜂蜜酒お替りを!」


 酒を足すという結論に至ったようだ。


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