第六話「開催宣言」
初夏の暑さを感じるようになったその日。
各地区に設けられている広場には人だかりができていた。
見つめる先には一枚の紙が貼られている。
「もうそんな時期か」
「去年は災厄のせいで開催されなかったからな」
「しかし、ついに……」
紙に書かれている内容は人々を興奮させた。
"剣舞祭参加者募る"
"第四十二代セザール・アルベールの名の下に今年の剣舞祭の開催を宣言する"
最初にそう記されていた。
お祭り好きの人々にとってその一文だけでも心躍る思いであったが、さらに加えられていた一文に人々は更に熱狂した。
"第七代剣聖現る"
長らく空位であった剣聖を継ぐ者が現れた旨が短く記されていた。
しかし、剣聖が何者なのか一切書かれていない。
わかっていることは此度開催される剣舞祭の決勝が剣聖のお披露目式となるということ。
参加者募ると表題には書かれているが、正しくは「剣聖への挑戦者求む」ということだ。
挑戦できるのは剣舞祭の優勝者ただ一人。
一体今年の剣舞祭は誰が優勝するのか。
そもそも剣聖の正体は誰なのか?
人々は熱狂する。
王都中で剣舞祭が話題になるのに、そう時間はかからなかった。
◇
学校に復帰し早くも一週間が経過した。
なんの変哲もない日々、のはずであったが今日は違和感を覚えていた。
どこか教室全体が浮ついてるような。
そんな疑問を抱いていると頭上から声がかかる。
「アーリース♪」
さっきまで隣に座っていたはずのアニエス。
……最近、休憩時間のたびにアニエスは俺に抱き着いてくる。
季節も移ろい、歩いてると汗ばむ季節となってきた。
だんだんと暑苦しく感じるようになってきたが、邪険にし再び距離を置かれるのも怖いのでなされるがままだ。
だんだんと羞恥心も感じなくなり、今では日常。
冷静に終わった授業の教科書とノートをしまいながら、今日抱いた違和感をアニエスに尋ねてみることにした。
「アニエス姉さん、なんだか皆うわついてるような。
何かあるのですか?」
「うん? うわついてる?」
アニエスは特に普段と違いを感じていない様子。
駄目だこれは、と俺が諦めかけたところに声がかかる。
エルサだ。
「それは剣舞祭のせいね」
「剣舞祭?」
聞きなれない言葉に首を傾げる。
エルサの言葉にアニエスは合点がいったのか「ああ!」と呟く。
「そういえば、そんな時期だったわね」
「アリスちゃんは何も聞いてないの?」
「? いえ何も。剣舞祭って言葉を初めて聞きました」
「そう……なの?」
エルサは俺の答えに何やら釈然としない様子であった。
一方アニエスはお節介モード全開。
剣舞祭についての説明が始まった。
「剣舞祭っていうのはね、この国で一番強い剣士を決めるお祭りなの!」
「国で一番ですか」
「そう、国中から腕自慢が王都に一堂に会して競うの」
「毎年やってるのですか?」
「そう、毎年!……といってもここ最近は色々あったからさすがに開催されなかったけどね」
「なるほど。それで久しぶりに剣舞祭が開催されるから皆楽しみにしてるということですか」
「それだけじゃないわよ」
エルサがにやりと笑いながら補足する。
「今年は何と優勝者は剣聖と戦う栄誉が与えられるの」
「「剣聖?」」
また聞きなれない言葉に俺は疑問を呈し、アニエスも知らない単語なのか声がそろった。
その様子にエルサは溜息をつく。
「アリスちゃんはともかく、なんでお姫様が剣聖を知らないのよ?」
「えっ、知ってないとまずいことだった?」
「……一応聞くけど、剣舞祭の目的言ってみて」
「国で一番強い剣士を決めるんでしょ?」
アニエスの答えにがっくりとエルサは肩をおとす。
「王族なんだから、国の行事の内容くらい把握しときなさいよ!」
「え、違うの!?」
「アニエス剣舞祭っていうのは元々剣聖を選抜するための行事よ」
エルサの答えにいまいちピンとこないのか、アニエスはきょとんとする。
「つまり、剣舞祭の優勝者に剣聖の名が与えられるということですか。
あれ?
でも、今年は剣聖と戦う?」
俺も口に出すと混乱してきた。
剣舞祭は剣聖を選抜する行事。
でも、今年の剣舞祭では優勝者と剣聖が戦う。
つまり優勝者とは別に剣聖は存在する。
(前年の優勝者と戦うって意味か?)
俺の導き出した結論は即座に否定される。
「剣聖っていうのはね、王家に伝わる剣に宿る精霊が認めた者のことを呼ぶの。
その精霊に会うための選抜が剣舞祭。
でも、今年は精霊が先に剣聖を選んじゃったみたいなの」
「それなら剣舞祭を開催する意味は?」
すでに剣聖が誕生したというなら、大規模な行事を開催する意味はないのではと疑問に思う。
その問いにエルサはうんうんと頷き肯定する。
「アリスちゃんの言う通り。
今年の剣舞祭は選抜の意味はないの。
様は百年ぶりに現れた剣聖のお披露目式、その剣聖に挑むものを選抜するのが今年の趣旨よ」
エルサの説明で俺もようやく趣旨を理解することができた。
「エルサは物知りね」
「アニエスは知らなさすぎ!」
二人のやり取りを横目に見ながら、俺は剣舞祭に興味を抱いた。
(戦うっていうことは、一対一の試合形式で競うのかな?
国中の腕利き同士の戦い……!見たい!
そして剣聖! 絶対珍しいスキルもってるだろう!)
まだ見ぬスキルが手に入るのではと期待する。
参加するという思考はなく、純粋に観戦したいという気持ちが強かった。
是が非でも剣聖の試合は観たい。
実力者同士の戦い、きっと手に汗握る攻防が観れるに違いない。
心を躍らせる。
俺はエルサにふと疑問に思ったことを口にした。
「そういえば、その剣聖を継いだのはどのような人物なのですか?」
エルサはその質問に一瞬硬直し、やがて何が面白かったのか笑いながら。
「あははは! どんな人物なんだろうね。剣聖の正体はお披露目式まで秘密みたいだよ?」
エルサは悪戯気に答えた。
日を跨いでましたorz




