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第二話「出会い」


 俺は校長室を後にする。

 授業中ということもあり、歩く廊下には俺の足音だけが響く。


(授業を途中から参加するのもな……)


 久々の登校でもあるため、教室に入れば間違いなく皆の注目を浴びるだろう。

 それに校長と話し込んでいたこともあり、今から授業に参加するには中途半端な時間だ。

 このまま一限目はさぼることに決めた。

 図書館にでも行こうかと思案しながら校舎の外にでると、俺はふと広場に放置していた竜――赤のことを思い出した。


(顔を出しておくか)


 図書館へ向かおうとしていた進路を変え広場へと向かう。

 広場に近づくと、鈍色の小山が見えてきた。

 俺が近づくと小山が動き、首をもたげる。

 重量のある声が頭上から響いた。

 

「おや主、久しぶりではないか。

 なにやら懐かしい匂いがするな」

『あぁ、本当にいたんだ』


 俺の吊るした剣から青の挑発した声が響く。

 その声に反応し、赤の頭上にのっかる耳のような器官がぴくりと動く。

 黄金色の瞳が開きまじまじと俺を見つめてくる。


「何やら腹立たしい声が聞こえた気がするが」


 明らかに不機嫌な声。

 どうやら竜は同族同士仲が良いというわけではなさそうだ。 


『まさか僕たちの兄弟に、穴を掘る土竜(もぐら)がいたなんて。

 外の世界に出て初めて知ったよ』

「なんだと?」

 

 明らかな怒気を発し、声の発生源を赤は睨みつける。


「そ、そういえば名前がないといってたけど竜の間では赤って呼ばれてたんだって?」

「赤? なんだそれは?」

『アリス、こいつは竜の中でも異端中の異端。

 僕たち同族の中で長年交流を絶って、延々と土を掘っていたらね』

「思い出したぞ、そのムカつくしゃべり。

 貴様、"2番目"か」

『ああ、そういえば最初の頃は生まれた順番で呼んでいたね。

 今は「青」って名乗ってるよっと!』


 前触れもなく俺の眼前、赤に向かい魔力が収束した。

 青の魔術だ。

 収束した魔力は何もない空間に大量の水を生み出すと、赤に叩きつけられた。

 地面に水がぶちまけられ大音響を奏でる。

 一瞬で広場は水浸しとなった。

 俺は咄嗟に障壁を張り回避したが、赤はまともに大量の水を被った。

 すぐさま静寂が訪れ、赤の体から滴り落ちる水滴の音だけが静かに響く。

 赤が静かに怒気を孕んだ声で問いかける。


「なんのまねだ?」

『いや、見苦しいから泥を落としてあげたんだよ。

 感謝しなよ』

「貴様……!」


 水を被った赤の身体は劇的に変化していた。

 鮮やかな燃えるような赤。

 青の言う通り長年の泥がこびりつき鈍色になっていたわけだ。

 泥が洗い流された赤の体表は太陽を反射する、鮮やかな鱗が露わになっていた。


『ああ、因みに僕は今アリスの所有物みたいなものだから。

 まさか、主と認める者が手にする所有物を害したりはしないだろうね?』

「主、そいつと近くにいるとロクなことにならない。

 俺が燃やして再び地下に封じてやる!」


 神が創った最高傑作と謳われていたはずの竜。

 俺は溜息を吐きながら、竜同士の幼稚な応酬を眺める羽目になった。


 

 ◇



 学校内に設置されている鐘が鳴り響く。

 一限目終了の合図だ。

 広場に腰かけ、竜同士の感動の再会(醜い応酬)を眺めていたが、教室に戻ることにした。

 授業が終わり、先程と違い廊下に人の往来が見られる。

 その中に紛れ久々の自分の教室へと向かう。

 やはり幼い俺の姿は少し歩くだけでも目立ち、歩いているだけでも注目されていた。

 足早に廊下を抜けようと決意したときだった。

 曲がり角。 


「ぃたっ!」

「おっと!」


 衝撃。

 何者かと正面からぶつかってしまった。

 軽い俺の身体は簡単に押し返されしりもちをつく。

 軽い身体のおかげで、気を抜いていると自慢のレベルも生活では何の役にも立たない。

 ぶつかった相手から声がかかる。


「大丈夫かい?」

「あ、大丈夫です」


 かけられた声にすぐさま返事をする。

 前方に不注意だったことに反省しながら、俺は顔を上げた。

 栗色の髪が外側に少し跳ね、人当たりの良い笑みを浮かべた青年だ。

 襟袖の模様から最高学年である五学年の先輩であることがわかる。


(どこかの突然告白してきたナルシスト野郎とはえらい違いだな)


 そんな感想を抱く。

 青年は自然な動作で手を差し出す。

 別に人の助けがないと立ち上がれないわけではないが、俺は差し出された手を掴み、立ち上がった。

 と、握った感触に驚く。

 柔らかな面影と違い目の前の青年の手は厚く硬い、剣士の手であった。

 

「ちょっと考え事をしていて、気付かなかった。

 ごめんね。

 怪我はない?」

「はい、大丈夫です」

「そう、ならよかった」


 俺に怪我がないことを確認するとほっとした表情を受かべる。


「じゃあね、後輩くん!」


 軽く手を上げ、青年は廊下へと消えていく。

 俺はその姿を見送ると、自分の教室へと歩きはじめる。

 それが俺とザンドロ・ヴァーグナーとの初めての出会いであった。


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