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第四十話「青炎」


 俺は青の肉体の敵視をどのようにひこうか考えていたが、その必要はなかった。

 かん高い咆哮と共に俺に襲い掛かってきた。

 上空から鋭利な爪が襲い来る。


「はああああああ!」


 回避ではなく迎え撃つ。

 爪が俺の身体を襲う直前に剣を閃かせ、軌道をずらす。

 力任せに竜の爪を地面に向かい、叩きつけた。

 

『アァアアアアアアアアア!』


 竜の体勢が崩れる。


『《荒嵐爆発(ストームバースト)》!』


 近距離で青が発動した魔術が炸裂する。

 無傷。

 同じ竜である青が放つ魔術なら通用すると思ったが効いていない。

 素早く体勢を立て直した竜から執拗にブレスが放たれる。

 肌が焼けるような熱波。

 間一髪で回避しながら青に問いかける。


「竜って魔術に対して無敵なの?」

『安心して、無敵ではないよ』

「……青の一撃で無傷に見えるんですけど」

『元々竜は精霊に愛されてて、意識しなくとも精霊が力を貸す。

 無傷に見えるのは防御魔術で守られたからに過ぎない』

「つまり、どうすればいい?」

『防御魔術ごと粉砕する魔術を使えばいいよ!』

「それができないから困ってるんだろ!」


 攻撃が当たらないことに竜の苛立ちが募る。

 雄叫びをを上げながら急降下、地面を抉る。

 大きな動作。

 もちろん俺には当たらないが。


「……っ!」


 軽い俺の身体は衝撃波で宙に浮く。

 竜と視線が交錯する。

 してやったりと、竜の顔が獰猛に歪む。

 牙をむき出しに俺を食らおうと、口を開き襲い来る。

 人間に翼はなく、宙に浮かされた俺は方向を変える術を持たない。

 普通なら。


「っつらあああああああ!」


 俺は空中を踏みしめる。

 スカートがふわりと舞う。

 一回転。

 竜の顔が来る地点に向け回し蹴りを放った。

 普段は発揮されない、レベルにより目一杯補正された渾身の一撃が竜の顔面に炸裂する。


『ガァアアアアアアアアアアアアアアッツ!』


 肉がひしゃげる手応え。

 体格差のあるはずの竜を吹き飛ばし、地面に激突させる。

 魔術と違い、思いの外俺の一撃が通ったことに驚く。


「あっぶねえええ」

『ヒュー、さすがナオキ』

『出番ない』

 

 念話でアレクとラフィが茶化す。

 今のは危なかった。

 俺はほっと胸を撫でおろし、重力落下のまま地面に着地。


『というか支援は!?』


 思い出したように訴える。

 後方、アレクとラフィはマリヤ達と同じ位置にいて傍観の姿勢。

 ……ラフィは一応身を守るためか杖を掲げているが魔術を放つ気配は見えない。

 アレクに至っては弓を構えてさえいない。


『俺達の攻撃が何か役に立つと?』

『魔力の無駄』


 冷静に実力差を把握した二人は支援(マリヤ達の護衛)に努めることにしていた。

 間違ってない判断。

 久しぶりに三人で共同戦線とはりきっていたのは俺だけだった。


「別に寂しくなんかないぞ」

『マスター、私がいます』

『今は僕もいるよ』


 即座に声を掛けてくれる一人と一匹(?)に少し感謝する。


『どうやら接触すればアリスが精霊の主導権を握れるみたいだよ』

「接近して殴れと?」

『うん』


 蹴り飛ばされた竜は地面で狂乱していた。

 意味もなく地面を前脚が抉り、尻尾を地に叩きつける。

 駄々をこねる子供のような姿だが挙動の一つ一つが地面を揺るがす。

 近づきたくない。

 と、ヘルプが魔術を唱える。

 

『《樹海拘束(プラントレストレイン)》』


 竜の四肢に樹木が絡みつき、動きをとめる。

 近づきたくないとも言ってられない。

 せっかくヘルプが作ってくれたチャンス、一撃を加えるべく接近する。

 ――はずだった。


『アァアアアアアアアアアッツ!』


 動きを止めたかに見えた竜の周囲に灼熱の青い炎が顕現。

 あと一歩踏み込んでいたら消し炭だった。

 拘束していた樹木が消失。

 青い炎は収束し竜を覆う。


『「ずるい!」』


 青と俺の声が重なる。

 近づいて殴るというプランは却下だ。

 青い炎で覆われた竜に触れたら間違いなく俺の身体は消滅する。


「お前の身体だろ!? どうすんだよ!」

『いやー、まいったね』


 怒り狂う竜が俺に襲い来る。

 先程と違い、寸前の回避では焼かれてしまう。

 逃げ場を求めて空中に跳躍する。

 でかい図体に似合わぬ機敏な動きで追撃が来た。

 爪が、尻尾が次々襲い来る。

 数時間、木陰からここにくるまで空中に足場をつくる魔術を連続して行使してきたため、意のままに扱うことができた。

 即座にピンポイントで、息を吸うように足場を作り竜の攻撃から逃れる。

 縦横無尽に空を舞う。

 だが防戦一方。

 荒れ狂う竜に反撃ができない。


「大体何でこっちばかり執拗に!」


 アレク達の方に行ったら行ったで困るが、愚痴をこぼさずにはいられなかった。

 

『この場にいる中で一番強いのはアリスだからね。

 そりゃ、アリスに狙いを定めるよ』

「厄介な生き物だな」

『文句は神様に言ってくれ』


 避けきれない攻撃を魔術障壁で防ぎながら活路を探す。


(目の前のこいつが暴れ疲れるのを待つ?)


 疲れなどを覚える存在に見えない。

 

『あの炎、見掛け倒しで実は大丈夫かもよ?』

「やだよ」


 ダメだったら死ぬじゃん。

 俺は即座に却下するが、少し考えてみる。

 

「……そういえば、俺ってまともに攻撃喰らったことないな」

『ちょっと待って。何を考えてるの』

「逃げ回ってるけど、青より本来俺の方がレベルは上のわけだ」

『ごめん、謝る。

 さっきの発言は冗談だ。

 アリスは確かに魔力も身体能力も人の能力を遥かに上回っているかもしれない。

 あの炎は生物の身でまともに受けられるものではない』

「でも、あれも魔術の一種なんだよな?」

『そうだけど』

「竜に俺の魔術が通用しないように、竜の魔術も俺には通用しないんじゃないか?」

『……なるほど』

 

 試しに少し竜から距離をとると、即座にブレスが飛んでくる。

 魔術障壁を展開し防ぐ。

 造作もない。

 つまり。


『「いける!」』


 笑みを俺は浮かべた。


明日3/22(木)の更新は日を跨いだ辺りになるかも、ご容赦ください。

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