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第三十八話「合流」


 アレク達が迷宮に潜り三日が経過した。

 連戦に次ぐ連戦。

 普通であれば疲労困憊、いったん安全地帯まで戻り体力の回復に努めるものだが、一行は奥へ奥へと進んでいた。

 ここに来てアレクは問題に直面していた。

 

(この先の奴はやばそうだ)


 まだ見えぬ道の奥、その先からやばい気配がぷんぷんと漂ってくる。

 戦闘を避けるべく迂回路を探して進んでみるが結果は変らず。

 どの道を進んでも合流地点は同じみたいだ。

 迷宮の奥へと繋がる道を守る門番のように、先に進むためにはぶつかるしかないという結論に達する。

 アレクが何度も進んだ道を引き返していたため、チーム内も先に危険な存在がいることは察していた。

 

(迂回は無理だな)


 アレクは結論付けると足を止め、口を開いた。


「この先にやばいのがいる。

 迂回しようとしたが、どの道もそいつのもとに繋がってるみたいだ」


 どうする、とチーム内のリーダーであるゲルトに問いかける。

 一番賢い選択肢は引き返すこと。

 アレクも暗に引き返したほうがいいと目で訴えた。

 

「……目でみないと諦めきれない」

「了解っと。

 ただ見るだけだ。俺の直感を信じてもらえるなら、この先にいる奴に勝ち目はない」

「ああ、わかった」


 冒さなくてもいいリスクを冒しているとアレクは自覚しているが、ゲルトの気持ちも理解できた。

 ラフィを除く他の者も同じ考えのようだ。

 アレクはゲルトの意見を尊重することにした。

 小声で「いつでも撤退できるように準備しといてくれ」とラフィに伝える。

 ラフィは小さく頷き、先へと歩を進めていく。



 ◇



 大広間。

 アレク達が辿り着いた空間はこれまでのどの場所よりも異様な光景が広がっていた。

 見渡す限りの死骸。

 床に幾千もの死骸が無造作に転がっている。

 その中央。

 青い巨体が鎮座していた。

 今は身体を丸め、眠っているように見える。

 アレクは最初、魔物を捕食する魔物かと推測したが即座に自らの考えを否定した。

 死骸を観察すると捕食痕は見当たらない。

 ただ殺して終わり。

 死骸には興味はないといわんばかりに無造作に転がされているわけだ。

 その考えに至り、アレクは背筋がぞっとする。

 理解できない存在だ。

 周りも同じ考えに至ったのか、息を呑み中央の存在に目を向けていた。

 ぽつりとラフィが呟く。


「竜」


 一言。

 アレクは再び中央の巨体に目を向ける。


「あれが竜?」

「……多分」


 ラフィも自らの言葉に確信は持てないのか若干首を傾げる。

 

(竜なんて物語だけの存在だしな。

 大体俺の知ってる話とは何か違うしな)


 物語の竜は大空を支配する圧倒的な力を持つ生物として描かれている。

 中央に鎮座する存在が竜だとしても、迷宮内、地中奥深くにいるということに首をひねってしまう。

 

(目の前の存在が竜かどうか、今は関係ないか)


 肝心なのは目の前の存在はアレクが予感した通り、圧倒的にやばい奴ということだ。

 こいつを前にして力の差をわからないのは馬鹿だ。

 幸いなことにチーム内に馬鹿はいなかった。

 アレクがゲルトに視線を向けると、静かに頷き撤退を了承する。

 確認し、中央の存在に気付かれぬよう静かに広間を離れる。

 離れようとした。


「え?」


 誰の声だったか。

 声と同時にアレクも気づく。


「道が消えた?」


 つい今しがた通ってきたはずの道が消えていた。

 いや塞がれていたという表現が正しいか。

 混乱する。


「どういうことだ?」


 ライムントも呻く。

 アレクは嫌な予感と共に、中央に再び目を向ける。

 眠っていたはずの存在。

 いつ開いたのか。

 赤い瞳がこちらを見据えていた。

 

「最悪だ」


 アレクの言葉は目の前の存在の、かん高い咆哮にかき消される。

 咄嗟に耳を塞ぐ。

 咆哮が止み、青い巨体はその体躯から翼を広げていた。

 退路はない。


(どうする!?)


 巨体が飛び掛かってくる。

 咄嗟にアレクはラフィの首根っこを掴み跳躍。

 回避する。

 先程までいた場所に巨大な鋭爪が襲う。

 ゲルトはクロエを庇いながら退避。

 ライムントとミハエルもなんとか回避したようだ。

 運の悪いことに、最初に狙いを定められたのはアレクとラフィのようだ。

 ラフィを背中におぶる。

 

「こっちのことはいい、逃げてくれ!」


 アレクは叫びながら、続けてきた攻撃を回避する。

 攻撃が当たらないことに苛立ちが募り咆哮。

 

(やば!)


 口が青白く光っていることに気付いた。

 跳躍後の硬直。

 回避が間に合わない。

 青い炎弾が襲う。

 

「我らを守れ《氷壁(アイスファランクス)》!」


 間一髪。

 ラフィの詠唱が攻撃を防ぐ。

 

「助かった!」

「次がくる」


 直撃すれば即死の攻撃がアレク達を雨霰のように襲う。

 アレクが回避し、回避できない攻撃をラフィが防ぐ。

 手一杯。

 離脱しようにも隙が無い。

 普段は後衛で敵の攻撃を集中的に浴びる機会などほとんどないため、徐々に焦りが出てくる。


(このままだとまずい)


 その時、青い存在の頭部に雷光が閃く。

 ラフィの攻撃ではない。

 クロエの攻撃だ。

 直撃のようにも見えたが無傷。

 ただ、鬱陶しかったのかアレク達から視線を外し、攻撃を行った方へと身体を動かす。

 

「うぉおおおおおおおおお!」


 クロエを庇うようにゲルトが巨体へと駆ける。

 死角をとるようにライムントとミハエルも駆けているのが見えた。

 何をしている、逃げろとアレクは叫びそうになったが、気付く。

 攻撃を躱すのに必死であったため周囲を見渡す余裕がなかったが、今ならわかる。

 広間に退路など存在しない。

 いつからか。

 ドーム状の広間が形成され、どこにも逃げ道などないことがわかる。

 つまり生き延びるために目の前の奴をどうにかするしかない。

 無理だ。

 躊躇している間、目の前の攻防は一瞬で決着がつく。

 ゲルトに気付いた巨体は近づけさせまいと、鋭利な爪を閃かせる。

 大剣で攻撃を防いだはいいが、死角から尻尾の一撃で吹き飛ばされる。

 死んではいないようだが、起き上がってこない。

 同じようにライムントとミハエルも赤子の手をひねるかのように戦闘不能にされた。

 残るはアレク、ラフィ、クロエ。

 アレクが頼みのラフィの詠唱時間を稼ぐしかない。

 巨体は再度ブレスを放とうとしている。

 狙いはクロエ。

 赤い双眸に睨まれクロエは動けない。

 

「避けろ!」


 アレクの足ではクロエの場所まで間に合わない。

 ラフィの腕前をもってしても距離のある場所に強いイメージが必要となる防御魔術を張るのは困難。

 次に襲い来る光景にアレクは顔を歪ませる。

 轟音。

 

「え?」


 予想外の光景にアレクの口から呆けた声が漏れ出る。

 巨体が宙を舞い天井に叩きつけられた光景が目に入った。


「抜けた!」

『どうだい、僕のナビゲーションは完璧だろ』

「お、おろして……」


 場に似つかわしくない、緊張感のない声が響く。

 よく目を凝らすと轟音の発生源、床にいつのまにやら巨大な穴が空いていた。

 そこから飛び出てきた人物。

 小さな影が女性を抱えている。

 その姿は。


「ナオキ?」

 

 アレクが最後に見た、眠れる少女の姿となったはずのナオキであった。

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