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第三十六話「青との契約」


 迷宮内に落とした張本人が青ということが判明したが、結局俺に選択肢はなかった。

 諦め青の肉体を討伐するという条件をのむ。

 俺が条件をのむと、気前のいいことに青は地上までの道のりをすぐ教えてくれた。

 精神のみの存在となっている青は、精霊とイメージを容易に共有できるとのことで、ヘルプに伝授した。


『こんな感じかな。いけそう?』

『はい、問題ありません』

「まだ俺が青の肉体を倒せるときまったわけじゃないのに、いいのか?」

『謝罪も兼ねて、これくらいはね。

 それに、地上に繋がる最短経路に僕の肉体はいる。

 肉体の場所もアリスの精霊に教えておいた』

「地上への最短経路を通るとどれくらいかかりそうだ?」

『二日ほどの道のりと推察します』


 二日なら、一気にけりをつけられそうだ。

 体調を万全にして挑むのが良いかと俺は考え、今日一日準備、明日踏破で行くかと思案する。


『うん?』


 青が何かに気付き、声を上げる。

 碌でもないことだろうと考えながら、次に発する青の言葉を待つ。


『アリス以外にも中々見どころのある人間がいたみたいだ。

 ただまずいことに、一直線に僕の肉体の方向に向かってる』


 俺に関係ない話だと切り捨ててもいいが。

 少し逡巡し問いかける。


「そいつらはどれくらいで接敵する?」

『二、三時間ってとこかな』

「道は作り替えられないのか?」


 青は肩をすくめながら答える。


『道を作り替えるというのも骨が折れるものでね。

 実際そんな一瞬で道は作り替えられない』

「俺達を落としたみたいに穴でどっかに一時的に落とすことは?」

『やってもいいけど、普通に死ぬと思うけど?』

「それを分かってて俺達を落としたのか……。

 いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 因みにここから肉体のところまでどれくらいかかる?」

『全力で走ったとしても半日はかかります、マスター』


 手詰まりか。

 俺は仕方ない犠牲かと考えながらも思考を続け、閃いた。


「……青、俺が落下するとき魔術を抵抗(レジスト)されたが、あれはお前の仕業か?」

『うん、そうだよ』


 青は悪びれる様子もなく肯定する。


「もし、ここから肉体まで直線で移動できるとしたらどれくらいかかる?」

『およそ三時間くらいかと』


 つまりぎりぎり間に合うかもしれない計算だ。


「青、ここから肉体が居る場所まで穴を通してくれ」

『ああ、そうか。落ちるのではなくアリス達があがるのか』


 青は俺がやろうとしていることを即座に理解した。


『理解はした。でも、僕の肉体は強いよ?

 魔力は温存しなくていいのかい?』

「だから青にも協力してもらう」

『僕に?』


 俺は収納ボックスから一本の剣を取り出す。

 陛下から下賜されたものだ。


付与(エンチャント)術といった強化魔術に分類されるものは、肉体や物に精霊を宿す魔術であると俺は推測している。

 精霊に近い存在となった今の青を武器に移すことが可能じゃないか?」


 青は面白そうに俺の話を聞き、にやにやしながら問いかける。


『できるだろうね。

 でも、わざわざ武器にではなくアリス自身に僕を付与したほうがいいんじゃないかな?』

『マスター、拒否します』


 俺が否定するよりも早く、ヘルプが拒否した。

 まぁ、ヘルプと同意見ではあるが。


「だって青、俺の体に付与したら乗っ取られそうだし嫌だ」

『それは残念』


 あと、明確に定義された精霊の付与を行うのは初めてだが、簡単に解除できると思えない。

 一般的な付与術は、精霊と契約した魔力を超えると契約は切れ、精霊はいなくなる。


(青の場合、契約が切れても居座りそうだ……。

 ヘルプと違って無茶苦茶やかましそう)


 俺の脳内で、ヘルプもこくこくと頷いてる気がした。

 青は俺の取り出した剣に初めて目を向ける。


『その剣は……。

 ただ先に言っておくけど、僕の器にたりえなかった場合、剣は砕け散るよ。

 見たところ僕を受け入れるには十分な器に見えるけど、保証はしない。

 本当にいいの?』

「その時はその時だ。

 ……でも最後に問題がある。これは青にお願いするしかない」

『うん、いいよ。今の僕は初めて楽しいという気持ちを味わっている。

 何でも言ってみなよ』

「俺は特定の精霊を宿す魔術が分からない。

 青をこの剣に付与する方法を教えてほしい」

『ああ、そういうことか。

 別に魔術は必要ないよ。

 僕自身が剣に精神を移そうと思えばいいだけだからね』


 肝心の付与する方法に悶々していただけに、ほっとする。

 だが、青の表情を見て思い改める。

 青はまだ何か企んでいる。


『とはいえ、僕も精霊みたいな存在になったわけだし。

 精霊らしく契約はしてもらおうか』

「……無茶な契約は結ばないぞ」

『何、そんな難しい話じゃない』


 マリヤの姿をした青は右手を俺の前に出す。


『僕に外の世界を見せてくれ』


 その言葉に。


「……ああ、任せろ」


 俺は細い腕で、力強く握り返した。

 



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