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第十三話「つかぬ間の」


「はああああああああ!」


 ゲルトは何体目の魔物かを切り捨てる。

 今日一日で、冒険者生活を始めてから狩ってきた魔物と同じ数を切り捨てたかと思うくらいだ。

 一体始末してもまだ次が来る。

 

(武器に金をケチらなくてよかった)


 ゲルトはAランクになった自分の褒美としてドワーフが製作した剣を、これまでの貯金を出して買ったのだ。

 その価値を今、存分に発揮している。

 魔物の血で濡れようが、斬れ味は鈍らない。

 出口はない、終わらない戦い。

 だが、ゲルトはいつも以上に冴え、魔物の動きを捉えることができた。

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 更に一体、魔物の死体を築く。

 

「そら、どんどん来いよ」

「ゲルトは余裕だね。さすが」

「すぐ調子にのる……」

「背中向けて!怪我の確認するから」


 魔物の波が一息つく。

 横にライムントとクロエ、マリヤがいつのまにかいた。

 

「なんだか、いつも以上に調子がいい」


 ゲルトの呟きにクロエが呆れた顔をする。


「あんた、ほんとう脳筋ね……。気づいてないの?」

「なにがだ?」

「調子がいいもなにも、あの子がゲルトに付与魔術(エンチャント)、さらに魔物の動きを阻害する魔術をかけてるからここまで戦えてるのよ」

「嘘だろ……?」


 にわかには信じがたいクロエの話である。

 しかし、クロエが嘘をつく理由もない。

 つまり事実なのだろう。

 ゲルトは後方で派手に魔物の死体の山を築いているアリスを一瞥する。

 最初に使った上級魔術ではなく、初級~中級の魔術をとめどなく行使していた。

 傍目からみると、ゲルト達の支援を行う余裕があるようには見えない。


「ゲルトだけじゃないわよ。私とライムントにもかけてるみたい。

 普段の私程度の初級魔術じゃあ、魔物を貫く程の威力なんてでないもの」

「俺も付与魔術(エンチャント)の効果がここまであるなんて知らなかったな。

 牽制するつもりの攻撃で魔物が真っ二つになるんだもの。

 ……アリスちゃん、見た目は子供の人族だけどマリヤと同じ長耳(エルフ)族で俺達より年上だったりするのかな?」

「うーん、アリスちゃんは私と同種族の感じはしないかな」


 ライムントは冗談を言いながら、魔物の血に濡れた槍を手早く拭っていく。

 マリヤはゲルトの診察が終わり、ライムント、クロエと看ていく。

 と、クロエが何か言いたそうにしていることに気付く。

 ゲルトもクロエと十年来の付き合いだ。


「クロエ、なんだ。言ってみろ?」


 一瞬迷う素振りを見せる。

 だが、意を決したのか。

  

「ゲルト、これ使ってもいい?」


 クロエは手をゲルトに向け、手のひらの上のものをみせる。

 ミノタウロスからとりだした魔晶石だ。

 ゲルトはクロエの言わんとしていることを察した。

 魔晶石は純粋な魔力が結晶化したものと言われており、魔術師にとって魔力の補助道具や触媒として重宝されている。

 クロエはこの魔晶石を使ってもいいかと聞いてきた。

 魔術を行使する触媒にするつもりなのだろう。

 なぜわざわざ尋ねたのか。

 魔晶石を地上に持ち帰れば金になる。

 ゲルト達がラグマックというチームを結成して冒険者をやっている理由は単純だ。

 お金になる。

 身分といった縛りもなく、ただその実力のみで評価され、実力に応じた報酬を手にすることができる。

 でも別に、金持ちになりたくてやっているわけではない。

 ひとえに恩返し。

 自分たちをここまで育ててくれた孤児院に、母さんの手助けに少しでもなれば。

 そういった思いでゲルト達、ラグマックのメンバーは活動しているのだ。


 今クロエが手にしている魔晶石一個で、孤児院を二、三か月は養えるだけの金になる。

 それはクロエも当然わかっており、分かっているうえでゲルトに尋ねているのだ。


「当たり前だ。生きて帰るためなら全ての手段を講じろ」


 ゲルトは頷く。

 それにクロエの魔力はそろそろ限界が近いことにゲルトは気付いていた。

 本人は普段通りの振舞だが。

 

(この集団で終わればいいが)


 ゲルトは今見えている魔物の集団が、征北結社の魔術により消し飛ばされたのを見届けた。


「……! 次が来るぞ!」


 最前線で指揮をとっているミハエルの声が響く。

 ゲルトの願いも虚しく、すぐにおかわりだ。


「クロエ、お前は後方にさがれ」

「でも……」


 前衛の枚数が足りていない。

 補うためにクロエは前衛に回っていた。

 ゲルト、ライムントと混じって剣の訓練を多少は行っていたため動けはしたが。

 所詮は体力つくりの一環程度。

 連戦により明らかに疲弊していた。

 ゲルトはこれ以上クロエを前衛として戦わせることをよしとはしなかった。


「お前の本来の力は、魔術だろ。ここまで付き合ってくれて助かった。

 こっからは俺達が踏ん張る。

 クロエの魔術はラグマックの要だ。

 頼んだぞ」

「わかった」


 クロエは納得した。


「というわけだ、ライムント。

 お前がクロエの分も頼むぞ」

「いやいや、俺は自分の分で手いっぱい。

 体力馬鹿のゲルトの役目だよ」

「はっ、そう言いながら気張るのがお前さ」


 ゲルトとライムントはお互いにやりと笑う。

 窮地にありながらゲルト達に悲壮感はなかった。

 昔から四人で様々な困難に立ち向かい、今も四人で立っている。

 そしてこの先も。

 

「しかしアリスちゃんはすごいね」


 魔術師として気になるのか、話しながらもクロエはちらちらとアリスの戦いぶりを見ていた。

 

(ほんと、俺いらないな)


 石像はアリスに近づく魔物から身を守るためのものかと思っていたが、違った。

 アリスが召喚した石像は魔物の群れの中で暴れまわっている。

 アリスに魔物の接近を許すどころか、魔物の群れはゲルト達がいる部屋に入ることさえ許していない。

 無詠唱。

 淡々と、弓を射るかのように魔物を正確に貫く魔術を行使している。

 無駄が一切ない。

 少し見惚れた。

 

「アリスちゃんは一人であの数を相手にしてるんだから。

 男二人がんばりなさい!」


 マリヤが発破をかけてくる。

 はっとゲルトは我に返る。

 ライムントもアリスの戦いぶりに少し魅入っていたようだ。

 ちがいねえと男二人、呟く。


「さて、第二ラウンドだ」


 大剣を握り直す。

 次なる敵を見据えた。

  


 

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