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第十話「魔物暴走」


 ラグマックのメンバーはミノタウロスの解体を終え、再び移動を開始する。

 結局、ミノタウロスから回収したのは魔晶石と頭に生えていた二本の角のみ。

 他にも皮や、所持していた斧も換金できそうであったが荷物がかさ張ってしまうため、一番価値の高そうなものだけ回収したわけだ。

 収納ボックスを使えば全部回収することも可能であったが、俺は収納ボックスについては黙っておくことにした。

 今回は迷宮探索に慣れているラグマックのやり方を学ぶ。

 ゲルトの言う通り、Aランクチームに交じる機会など中々ないことであり、俺にとって彼らのこれまで培ったノウハウは何事にもかえがたいものだ。

 といっても何もせず、ただ眺めているというのも居心地が悪い。

 俺はミノタウロスの死体を燃やす作業を買ってでることにした。

 しかし、これも俺の出番はなかった。


「アリスちゃん、魔術師にとって魔力はなるべく温存しないといけないの」


 マリヤに優しく諭された。

 迷宮では魔物がどれだけいるかわからない。

 来る時は安全だった道に魔物が湧いているといった事態も日常茶飯事だ。

 後衛である魔術師や治癒術士(ヒーラー)は要である魔力をなるべく温存する必要がある。

 個々の戦闘は前衛陣でやりくりできるが、対集団戦になると魔術に頼るしかないという状況もありえるわけだ。

 そんなわけで、またしても俺はお役御免であった。

 ミノタウロスの死体はゲルトが所持していた『焼却』の巻物(スクロール)で行うと説明された。

 冒険者の間でも有名な道具であり、迷宮に潜る冒険者には必需品であるとゲルトが教えてくれる。

 

「迷宮内での死体放置はマナー違反なんだよね」


 ライムントが補足してくれた。

 魔力を温存するために死体を残すという行為は非難されるものであるみたいだ。

 ゲルトが『焼却』の巻物を取り出し、封を切るとミノタウロスの死体は火に包まれる。

 ……焼かれ漂う臭いが牛肉のそれであったため、俺は肉を少しくすねとけばよかったと後悔した。

 ミノタウロスの焼ける臭いに後ろ髪を引かれた俺ではあったが、ラグマックのメンバーはミノタウロスに『焼却』の魔術が発動したことを確認すると、すぐさま移動を開始する。

 臭いに釣られて魔物が引き寄せられることがあるため、その場にいることが危険なためだ。

 再び一行は迷宮を彷徨う。



 ◇



 一行はその後も何度かの魔物との戦闘を経験する。

 戦闘を経験するうちに、最初に出会ったミノタウロスは魔物の中でも一際強い個体であったことがわかった。

 同種のミノタウロスでもレベル30を超えた個体は見ていない。

 他の魔物も大体レベル20~25といったところだ。

 ただ、これでもBランクチームでは相当苦戦するだろうとクロエが教えてくれた。

 

「時間だな。そろそろ入口に引き返すか」


 前を歩いていたゲルトが足を止め、こちらに引き返す。

 ラグマックのメンバーも賛成する。


「今、外はちょうどお昼くらいだから。今日の探索は一日で帰らないといけないからね」


 俺は顔にクエスチョンマークを浮かべていた。

 マリヤが理由を説明してくれる。

 なるほど、と俺は納得した。

 俺はゲルトがどうやって時間を見ているのか気になった。

 その方法を尋ねてみることにした。


「太陽もないのに時間がわかるってすごいですね。

 冒険者は時計とかも持ち歩かないといけないんですか?」


 この世界にも一応時計はある。

 しかし、これまでの生活を思い返してみると腕時計といったものは見かけてない。

 俺の言葉は笑いながら否定された。


「小型の時計は貴族様しかとてもじゃないが買えないよ。

 時間は感覚だな」


 俺には今が一体何時かといった感覚はない。

 長いこと歩いたな、程度。


(ヘルプの機能に時計機能とかないのかな?)


『ありません』


 俺の冗談にぴしゃりとヘルプの否定の言葉が響く。

 残念だ。

 一行は来た道を引き返していく。

 岐路でも迷わず道を選ぶ。

 皆目印もない中、道を憶えているようだ。


(俺にはヘルプがいなかったら、冒険者は無理だな……)


 嘆息する。

 俺の視界には『索敵』+『UI』によってこれまで進んできた道がマップに表示されていた。

 それに加えてヘルプという強い味方がいる。

 道のナビゲートならお手の物だ。


『私は道のナビゲートをするための存在ではないのですが……』


 少し不本意そうなヘルプの声が頭に響いた。


 行きと違い一切魔物と遭遇することなくアリス達は出口まであと三分の一といったところまで来た。

 そこで前を歩いていたゲルトが立ち止まる。


「どうした?」


 ライムントがゲルトに声を掛ける。

 ゲルトが人差し指を口の前に立て、静かにと合図する。


「何か聞こえないか?」

「いや、俺には何も――」


 ゲルトの問いにライムントが否定しようとしたタイミングであった。

 俺の耳にも明らかな音が聞こえた。


(足音?)

 

 遠くから。

 地鳴りのように。

 複数。

 集団。

 ――そして近づいている!

 

「ライムント、前へ! 

 クロエ、マリヤ、アリスはライムントを追ってひたすら出口まで走れ。

 俺が殿を務める!」


 ゲルトが指示を飛ばす。

 これまでの様子とうって変わって、その表情には焦燥感が見られた。

 俺には足音の正体はわからない。

 しかし、周囲の顔から、やばいことが起きていることは理解した。

 他のメンバも即座に陣形を変え、ライムントを先頭に走り始める。


「畜生、魔物暴走(スタンピード)だ!」

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