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第九話「遭遇戦」


 王都迷宮に入り、暫く歩く。

 途中、何本にも通路が枝分かれしていた。

 枝分かれした時、ひらすら右を選ぶ。

 右を選ぶ理由をマリヤに尋ねてみたら、笑いながら「ジンクスみたいなもの」と教えてくれた。

 王都迷宮に入る前は、中は暗闇で、松明などを使うのか、もし使うなら魔術でローラが使っていた光球でも生み出そうと思っていたのだが、その心配はなかった。

 通路は何かに掘られたかのように、ただ土壁が露出しているのだが、その表面に青く光る発光体が付着しているのだ。

 

「青苔の一種? 魔力で変質したのか?」

 

 クロエはその苔を興味深そうに観察していた。

 俺も興味があったのでこっそり苔を少し採取し、収納ボックスにしまった。

 謎の苔の存在で通路は薄暗くはあるが照らされており、明かりはいらなかったわけだ。

 

 そしていくつかの岐路を進み、魔物と遭遇した。

 相手は先日の王都でも見かけたミノタウロス、レベル32。

 一頭だ。

 ゲルトが大剣を両手に持ち、先頭に立つ。

 ミノタウロスはまだこちらに気付いていない。

 ゲルトとライムントはアイコンタクトでお互いの立ち位置を決める。

 頷きあうと、ゲルトがミノタウロスの注意を引き付けるため、声を上げながら先行する。


「はあああああああああ!」


 ゲルトの接近にミノタウロスが気付く。

 赤い双眸でゲルトを捉えた。

 雄叫びを上げ、ミノタウロスは巨大な斧を振りかざす。

 上から振り下ろされた一撃をゲルトが大剣で受け止める。

 

「ライムント!」

「あいよ!」


 ミノタウロスの動きが封じられたタイミングでライムントが槍を突き出す。

 狙うはミノタウロスの目。

 

「AAAAAAAAAAAAAA!」


 ライムントの存在にミノタウロスが気付く。

 ゲルトの大剣を力任せに圧せないと瞬時で判断。

 魔物らしからぬ知性で後退。

 ゲルトの大剣の一撃を躱しながら斧を振るう。

 ライムントの槍を迎撃する。


「くっ!」


 ライムントの槍が弾かれる。

 一瞬の隙。

 そこにミノタウロスの蹴りが放たれた。

 しかし、ライムントも槍が弾かれた衝撃を利用し体をうまくいなす。

 紙一重で回避。

 

(うまい!)


 この戦いに俺は介入しないよう言われていた。

 マリヤの横につき、戦況を見守っている。 

 横でクロエが詠唱を唱え始める。

 ミノタウロスは前衛二人を追い回すのに必死で、後衛の俺達は意識外だ。

 横槍もなく、クロエの詠唱が完了。

 詠唱のタイミングを測っていたかのように、ちょうどゲルトとライムントがミノタウロスから距離をとった。


「冷めぬ大地よ吹き付けろ我が領域に、凍てつけ《氷結(フリーズ)》!」


 水・風の複合魔術だ。

 詠唱完了と同時に魔術が発現する。

 ミノタウロスの足を氷が覆い、地面に縫い付け、機動力を奪った。


「AAAAAAAAAAAAAAA!?」


 突然足が凍り、ミノタウロスは混乱する。

 ここぞとばかりにライムントが斧の射程外から槍を突き出す。

 ミノタウロスは鬱陶しそうに槍を迎撃する。

 苛立ち。

 ゲルトとライムントの思惑通りに。

 すぐに怒りの矛先がライムントだけへと向く。

 そこをゲルトは見逃さない。

 今度は声を出さない。

 ミノタウロスの死角から。

 ゲルトより高い背丈のミノタウロス。

 首を目掛け、跳ぶ。

 《流・烈斬》

 横に赤い軌跡を残し、一閃。

 ミノタウロスの首が飛んだ。

 遅れて首を無くした体がその場に崩れ落ちた。

 ゲルトがミノタウロスの死体に近づき、確実に倒したことを確認する。

 ふうっと、息を吐きだす。

 やっと大剣を両手から背中に担ぎ直した。


「最初の魔物がこれかよ。いきなりやばすぎだろ」

「こんなの外で遭遇したら見なかったことにしたいね」


 ゲルトの嘆きにライムントも同意する。

 ライムントも構えていた槍を下ろし、ゲルトに並ぶ。

 横にいたマリヤは二人の傍に駆け寄り、怪我はないかを確認している。

 やばいと言いながらも無傷。

 ゲルト、ライムント、クロエはレベル30、マリヤが少し下のレベル28であることを俺は確認していた。

 本来であればこの世界、1レベルの差による実力差は如実に表れる。

 それを自分たちよりも上のレベルであるミノタウロスを短時間で片付けており、さすがはAランクと認定されている実力であると舌を巻いた。

 お互いが連携し、個々の強みを存分に引き出しあっているわけだ。


(俺達のパーティーは全員が脳筋すぎて、あれは駄目だったな)


 今更ながら勇者の頃のパーティーを思い出し反省する。

 全員がわりと優秀な使い手であったため、個人個人で各個撃破という戦法であった。

 その代表が俺であったわけだが……。

 そんなことを考えているとマリヤの診察が終わった。


「うん、二人とも怪我はないね。よし!」

「すまんな、怪我しないとお前のレベル上げができないな」


 ゲルトが真面目な顔で謝罪する。


「わざと怪我はしちゃだめよ!」

「へいへい、わかってます」


 頭を掻きながらマリヤから離れ、ゲルトは再びミノタウロスの死体へ近づく。

 先にライムントがしゃがみ腰から短剣を引き抜き、ミノタウロスを解体していた。


「あったか」

「ほら」


 ライムントがゲルトにミノタウロスから取り出した魔晶石を投げる。 

 ゲルトが受け取り、魔晶石の大きさに驚く。


「でかいな」

「ほんと、先日の魔物からとれた魔晶石もでかかったが、これは一級品だな」


 クロエもゲルトの横から顔を覗き、魔晶石を見る。


「これなら一個で金貨一枚にいきそうだね」


 ライムントも短剣についた血を拭いながら会話に入る。


「こんなのがたくさんいるなら、間違いなくここは宝の山だな」

「魔物がそこまで強くなければ、でしょう」


 ゲルトの呟きにマリヤが突っ込む。

 

「ああ、そうだな。俺達でもあんな魔物が2,3体同時となると死を覚悟するな。

 ましてや、他のBランク冒険者では太刀打ちできない。

 死体の山が築かれるだけだろうな」


 ゲルトはマリヤの言葉を肯定し、言葉を続ける。


「何となく予感はしていたが、この迷宮はやばい。

 これまで以上に慎重に進むぞ。

 やばいと思ったら即座に引き返す」


 全員が頷く。

 

「アリスには悪いが、思った以上に迷宮の難易度は高そうだ。

 どっかで手頃な魔物を見かけたら、そいつで実力を測るつもりだったが、悪いが今日は俺たちの戦いを見ていてくれ」

「わかりました」


 俺はその言葉にも素直に頷く。

 ゲルト達からすれば俺の実力は未知数。

 連携を乱される確率の方が高いわけだ。

 俺が素直に納得してくれたのが少し意外だったのか、ゲルトは少し目を丸くした。

 ただ、すぐ表情を戻す。


「迷宮での安全は俺達が保証してやる。

 自分で言うのもなんだが、冒険者ギルドではそこそこ有名だ。

 戦い方の参考になるかもしれないから、よく見とくといい」

 

昨日は更新できず、すみませんでしたorz

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