第七話「初対面」
冒険者ギルドを出ると、ルシャールと別れた。
明日は朝早くに冒険者ギルドに集合とのことで、俺は十四区で宿をとることにしたのだ。
冒険者街と言われているだけあり、少し歩けば宿街になっていた。
一階は酒場になっている宿が多く、大いに賑わっている。
あまり通りでキョロキョロしているとすぐに迷子と見間違われそうなので、目についた宿にとっとと入る。
宿屋の主人も俺を見た時の第一声が「迷子か?家出か?」であった。
この事態は予想していたため、冒険者ギルドの支部長に身元を保証する書状を書いてもらっていた。
書状を主人に見せることで事なきを得る。
朝食だけお願いし、案内された自室で早く休むことにした。
本当は夕食も宿でとりたかったのだが、幼い容姿で夜の時間に一人で歩くのは見咎められそうであり、あきらめた。
昼間に買い、収納ボックスに入れていた果物を食べ、夕食とする。
案内された部屋には簡易ながらも浴槽がついており、俺は一日の疲れを癒す。
明日が早いこともあり、すぐにベッドに入った。
適当に決めた宿であったが、程よい柔らかな枕で快適な睡眠をとることができた。
目を覚ますと、寝間着を脱ぐ。
脱いだ寝間着は収納ボックスにしまう。
代わりに今日着る服を選ぶ。
俺は悩んだ。
(どの服を着るべきか……)
俺は今日一緒に行動する冒険者チームについて、すでに支部長から聞いていた。
『ラグマック』というAランクチーム。
メンバーは四人で全員が20代と若手ながら、異例の速さでAランクまで上り詰め、もうすぐSランクチームに認定されるのではと噂されている期待のチームであるとのことだ。
そんな実力者と今日一日行動を共にするわけだ。
(第一印象が悪いと俺の評価も悪くなるしな)
しかし、困ったことに俺が持っている服のほとんどが実用性より見た目を重視し、フリフリが多くついている。
今日は一応冒険者に加入するための試験みたいなものだ。
こんな動きにくそうな服装を着てきた俺を見た冒険者はどう思うだろうか?
(間違いなくいい印象は抱かない)
結局、学校の制服に着替える。
一番無難な恰好がこれしかなく、今度街に出るときは実用性のある服を買いに行こうと決めた。
そして今日は世界樹の杖を手に持つ。
「陛下から貰った剣を使ってもいいが、あの剣はあまり人前で振らない方がいいかもな」
と、ルシャールから意味深長な言葉を貰ったからだ。
最近使っていなかったのでたまにはという気持ちもあるが。
最後に鏡を見ながら身だしなみを整えていく。
(女になった時は、こんなことできるか!と思ったが慣れとは怖いものだ……)
俺は一人で問題なく長い黒髪を動きの邪魔にならないよう、後ろで結う。
今一度鏡で確認し、杖を持ち、部屋を出る。
宿屋の主人に朝食をお願いし、食べ終わると、少し早いが集合場所の冒険者ギルドへと向かった。
◇
冒険者ギルドに着くと、ロビーの椅子に座る。
朝早いこともあり、人はまだまばらであった。
その様子を観察していると、受付のお姉さんが俺に声を掛け、二階の応接室に案内してくれた。
どうやら支部長から俺の話は聞いているようであった。
「ここでお待ちください。ラグマックの方が見えられましたらお声掛けしますので」
暇だったので魔術書を取り出し、時間を潰す。
やがて受付のお姉さんに案内され、四人組が部屋に入ってきた。
それに気づき、本をしまい立ち上がる。
「アリスさん、ラグマックの方々が見えられました」
「ラグマックのリーダをやっているゲルトだ。職は剣士。
今日一日お前のお守を頼まれた」
「アリス・サザーランドです。今日一日よろしくお願いします」
ゲルトは大剣を背にしょい、鍛え抜かれた身体であると一目でわかる。
しかし、俺に対する言葉には棘があった。
第一印象から失敗であることを悟る。
それでも何とかにこやかに挨拶をした。
しかし、その挨拶もゲルトの気に障ったようだ。
ゲルトの顔が更に険しくなった。
「俺はライムント。槍術士だ。今日は一日頼むよ」
横の男、ライムントと名乗った男はゲルトと違いにこやかに、俺に握手を求めてきた。
それに応じる。
「こちらこそよろしくお願いします」
ライムントは長身だが、その背丈を上回る槍を背に担いでいた。
槍は全て金属でできており相当な重量がありそうだ。
「クロエ。魔術師だよ。
アリスちゃん、今日はよろしくね!」
「私はマリヤ。治癒術師。
ゲルトは言葉はきついけど、根は優しいからアリスちゃん、嫌いにならないでね」
続いて女性陣二人。
クロエと名乗った女性も俺と同じで杖を手に持っている。
褐色の肌、そうして服の上からもわかる豊満な胸。
快活な笑みを浮かべている。
そしてマリヤと名乗った女性。
薄い青髪に俺よりも白い肌。
何より特徴的なのが控えめにとんがった耳。
俺が久々に出会う長耳族だ。
20代とは見えない、まだ少女のような容姿をしていた。
クロエと違いこちらの胸は控えめだ。
初対面ながら女性陣二人は俺のことが気に入ったみたいだ。
「かわいい!なにこの娘!」
「クロエ、かわって。私にも」
二人に代わる代わる抱き着かれた。
抱き着かれると二人の胸の感触が背に伝わってきた。
俺の顔が真っ赤になっていることを自覚する。
簡単な四人の自己紹介が終わるとゲルトが再び口を開く。
「先に言っておく。
お前がどんな実力者かは知らないが、チームのリーダーは俺だ。
今日一日とはいえ、俺たちのチームに入るわけだ。
俺の指示には従ってもらうぞ? いいな」
俺に対するゲルトの好感度が最初からマイナスであった。




