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第六話「条件」


 アリスは学区に戻り、敷地内へと入る門をくぐる。

 入れ違いで一台の馬車が外へと出ていくところであった。

 何気なく馬車をアリスは目で追っていると、馬車が止まる。

 馬車の窓から搭乗者が顔を出す、

 ルシャールだった。


「さぼり学生、いいところに」


 ルシャールは少し顎に手をやり、何か思案する。


「アリス、ちょうどいい。朝に続いて申し訳ないが、またちょっと付き合ってくれないか?」


 アリスは一瞬断ろうと思ったが、思い直しルシャールの誘いを受けることにした。





 アリス達を乗せた馬車が向かう先は十四区冒険者街であった。


「エクトルのやつが私に交渉をまるなげしてくれてな……」


 アリスはルシャールの話に耳を傾けていた。

 嘆息しながら、今朝決めた「王都迷宮」に関する冒険者ギルドとの交渉について教えてくれる。

 アリスは今朝決めた内容が、すでに本格的な実現に向けて動いていることに驚いた。


(前の世界だったら一年かかっても何も決まらないとかざらなのにな)


 ルシャールによると話は簡単にまとまり、明日にでも冒険者ギルドから人を派遣し、迷宮の難易度設定を行うとのことだ。

 この難易度設定により、冒険者の入場を許可するランクが決まってくるらしい。

 冒険者のランクはAからFで格付けされている。


「恐らく王都迷宮は先日の騒動に現れた魔物から考えて、入場はAランクチーム以上に限定されるだろう」

「Aランクチーム? 個人の冒険者ランクで入場が決まるわけではないのですか?」

「そうだな。前提で話しておくと個人でAランクに認定される実力者は非常に少ない」


 言葉を続ける。


「冒険者の中で自殺志願者でもない限り、迷宮に一人で挑もうと考えるものはまずいない。

 当然チームを組んで迷宮に挑む。

 もし、入場制限を個人Aランクにしてしまうと挑戦できるものが極端に減ってしまうわけだ。

 そこでチームによるランク制度を冒険者ギルドは認定している」


 Aランクチームはチーム内で一人がAランク、他がBランクで認められるとのことだ。

 同様に、Bランクチームはチーム内で一人がBランク、他がCランクとなる。

 例外としてSという格付けも存在し、Sランクチームだけはチーム内が全員Aランクということで認定されるらしい。

 そこでアリスはふと疑問に思った。


「同じチームで長い間活動してたら、全員同じようにランクが上がるわけではないんですか?」

「違う。ランクを認定するにあたり冒険者ギルドは2つの基準を持っている。

 1つは対象の冒険者が持っているポイント。

 これは依頼に応じて報酬とは別に、緊急性や難易度を加味して冒険者ギルドがポイントを設定している。

 依頼を完了すれば、100ポイント。この依頼は150ポイントといった感じでな。

 冒険者のランクが上がれば、受注できる依頼も増えるため、駆け出し冒険者は依頼の報酬よりもポイントに注目して探すことが多い」


 そして2つ目の基準。


「これは固有能力(ギフト)として鑑定眼を持つ者の認定が必要だ」

固有能力(ギフト)? 鑑定眼?」


 固有能力(ギフト)はアリスにも聞き覚えのある言葉であるが、知らないふりをした。

 一年以上こっちの世界で過ごしてきたが2つの単語を耳にする機会がなかったためだ。


固有能力(ギフト)は生まれながら個人が持つスキルのことをいう。

 その中の一つに鑑定眼と呼ばれるものがある。

 鑑定眼といっても、色々種類があるがな。

 ここで言う鑑定眼は他者や、もちろん魔物もだが、対象のおおよその強さをレベルでみることができる。

 因みに私も鑑定眼を持つ一人だ」

「ああ、初めて会ったとき」


 ルシャールと初めて対面したとき、アリスを一瞥し王立学校への入学を許可したことを思い出す。


「そうだな。あの時も鑑定眼で判断した」

「因みに俺のレベルはいくつって見えたんですか?」


 他人からアリスのレベルはどのように表示されるのか興味本位で尋ねてみた。


「私にはわからなかった」


 ルシャールの返答はアリスの予想外のものであった。


「わからなくて俺の入学を許可したんですか?」

「寧ろ分からないということは、私より君が上のレベルであることの証明でもある」

「なるほど」

「……まぁ、レベルが見えないというのは久しぶりの経験だったがね。

 自分よりレベルが少し離れてるくらいなら問題なく見ることができるんだが」


(そういえば俺は鑑定眼ってスキルを持っていないけど、対象のレベルがわかるのは何でなんだ?

 『情報収集』が鑑定眼スキルと同じ役割なのかな?)

 

 アリスはふと疑問に思った。

 鑑定眼スキルやそれに類ずるスキルは記憶にないが、アリスは対象を「調べよう」と思うと、種族や魔物の種類、レベルがわかる。

 

(まぁ、分かるなら便利だし、それでいいか。

 深く考えることでもないか)


 アリスは結論付けた。

 ルシャールの話は続く。


「冒険者ギルドの各支部には鑑定眼スキルもちが必ず一人以上いる。

 冒険者のレベルを確認するためだな。

 2つ目の基準がランク毎に設定されているレベルというわけだ」


 Aランクは30以上が条件らしい。


「Sランクは何レベルなんですか?」


 アリスの質問にルシャールは苦笑する。


「Sランクにレベルの基準はない。

 これまで認定されたのは本当に一握りの者だけだ。

 基準はきまってないが、"英雄的な活躍"が認定の条件と言われている。

 その姿でなかったら、君もSランクに認定されたかもね」

「それは残念」


 アリスはおどけた口調で返す。


「今回冒険者ギルドに出向くのは、アリス、君が実力者であることを私の目で確かめたことを証明するためだ」


 どうやらルシャールはアリスを冒険者ギルドに登録するために駆り出されていたようだ。


「それは……、なんというか、ありがとうございます」

「まぁ、ちょうどいいところで君を見かけたからな。

 私が口で言うより、冒険者ギルドの鑑定眼もちに見せたほうが早いだろうと思ったわけだ」


 アリスはそこで連れてこられた理由に合点がいった。

 話しているうちに、馬車は目的の冒険者ギルドへ到着した。



 ◇



 冒険者ギルドの2階へアリスとルシャールは部屋へと案内された。

 部屋には二人の40代くらいの男が座っていた。

 アリスは席に座り、出されたお茶をありがたくすする。


「これが手紙にあった……」

「支部長、手紙通り俺の鑑定眼でもまったくわからん」

「このような少女が? 信じられん」

「御覧の通り、私でもレベルがわからない。

 だがその強さは私と、騎士団長、あと宮廷魔術師であるサザーランド卿も認めている」

「ううむ……」


 少し離れた所で会話が繰り広げられていた。

 話題の本人にはあまり聞かれないように考慮しているのか、3人は小声で話している。

 やがて結論が出たのか、会話が止まる。

 アリスの対面に、先程支部長といわれていた男が腰かける。

 お茶を置き、反射的にアリスは背筋を伸ばす。


「王都冒険者ギルド支部長のロベルト・ラデッケだ。

 君のことを特例で冒険者ギルドへの加入を認めてほしいとの要請があった。

 ギルドは実力あるものを歓迎する。

 しかし、君の実力を我々は把握できていない」

 

 これは駄目だったかな、とアリスは心中で思った。


「そこでだ。

 明日、王都迷宮の難易度調査を行うためにギルドから冒険者チームを3チーム派遣することが決まった。

 その中の1チームに君も参加してもらい、実力の一端を見せてはもらえないだろうか?

 チームリーダには悪いが君がどのような活躍をしたかを報告してもらうことになる。

 内容次第で冒険者ギルドへの加入、ランクを検討しようと思う。

 どうだろうか?」

 

 まず、今朝の話が夜にはここまでまとまっていることにアリスは驚く。

 

(うん、動きが速いのはこの世界の美徳だね)


 実力を示せば特例で冒険者ギルドへの加入を認めるとロベルトは言っている。

 アリスには願ってもないチャンスだ。


「やります」


 アリスは即答した。

  


 

 

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