第二話「出頭命令」
俺はルシャールに連れ立たれ教室をでる。
試験中ということもあり二人の歩く足音だけが廊下に響く。
校舎をでると、馬車が止まっていた。
ルシャールが乗り込み、俺もそれに続く。
馬車の扉が閉まると、動き始め、やっとルシャールが口を開く。
「アリス、君に王城へ出頭するようにと連絡が来た。
やれやれ、私も呼び出されるとはめんどくさい」
嘆息しながらルシャールが告げる。
対する俺は王城へ出頭命令と聞き、顔面蒼白であった。
「そ、それは先日の一件で色々やりすぎて、上がお怒りということですか?」
俺は項垂れる。
思い当たる節が多すぎた。
(俺、王国から罰せられる?)
魔物を倒す際も建物や道路に大量の爪痕を残し、学区では竜と大暴れし多くの建物を倒壊させている。
この王国の法律についての知識は薄い。
世界観的には中世だ。
罪人に対してどのような処罰を行うかは知らないが、投獄で済めばいい。
もしかしてこのまま死罪?
俺は身体を震わせる。
しかし、その心配はルシャールにより否定される。
「まさか。
感謝はされど、君を罰しようなどと考える輩はいないだろう。
そういえば私も君に御礼を言うのを忘れていたな……。
体を張り、竜から生徒、校舎を守ってくれたことを感謝する」
対面に座るルシャールは深々と頭を下げ、感謝を表す。
「いえ、俺も戦うことに必死で、その……、あっちこち建物壊しちゃったみたいですし」
「そうだな。おかげで私も復旧作業でほとんど寝れなかった」
ルシャールは顔を上げ、にやりと笑う。
「君が目を覚ました時は、徹夜続きということもあって、少しきつく当たってしまったが……。
私もあの竜相手に加減ができるものとは思っていないさ。
それに君がいなかったらあの辺り一帯、いや、王都は焦土になっていてもおかしくなかったわけだ。
勇者様はまたしても王国を救ってくれたわけだ」
話題は俺と竜の戦いに移っていき、最後は魔術談義に花を咲かせていた。
そうして二人が乗せた馬車は王城へと着いた。
◇
王城へとたどり着くと、玉座の間へと案内される。
(王城に暫くお世話になったが、陛下と顔を合わすのは初めてだな。
やばい、緊張してきた)
本当は王都へ戻ってきた際に行われた凱旋パレードの後、王と面会する予定であった。
しかし、呪いにより俺が倒れ、そのまま面会することはなかった。
玉座の間へと繋がる大扉の前に着く。
「王都の危機を救いし新たなる勇者、アリス・サザーランド殿の御成り!」
大扉の傍に控える騎士が俺の到着を伝えると、大扉は荘厳な音を立て開かれていく。
玉座の間へと足を踏み入れた。
まず目に入るのは正面の玉座。
王が一人座っている。
玉座へとつながる階段、その手前。
国の重鎮と思われる人物が整列している。
更に手前には騎士が剣を正面に据え立ち並んでいた。
玉座へと連なる中央の赤い絨毯をゆっくりと歩いていく。
ルシャールとは王城へ着いた時に「あとでまた会おう」と言い残し姿を消していたが、奥の方をみるとルシャールも重鎮に交じり立っているのが見えた。
騎士を越え、中ほどを歩いていると小声で会話をしているのが俺の耳に入る。
「あれが竜を倒したという?」
「まだ幼い少女ではないか、真なのか?」
「信じられん」
「しかし、噂通り、いや噂以上に美しい」
やがて階段の下までたどり着き、そこで跪く。
馬車の中で最低限、ルシャールに聞いた礼儀作法だ。
これ以外知らない。
やがて玉座から声を掛けられる。
「よくぞ参られた、アリス・サザーランド。 面を上げよ」
言葉に従い俺は顔を上げ、王と顔を合わせた。
初めて顔を合わす、現国王セザール・アルベール。
左手には宝飾が施された王笏を握り俺を見下ろしていた。
ガエルとアニエスの実の父でもある。
少し老いを感じさせ、金髪はくすみ、白くなっているが、双眸の碧い瞳は未だ衰えを感じさせない力強さを宿していた。
「さて、此度は王国の危機に奮戦してくれたこと、改めて感謝する」
こうして、国王との謁見が始まった。




