第三十三話「後始末」
「という夢を見たんだ……」
アホなことを呟きながら俺は起き上がる。
全身が倦怠感に苛まれる。
目を覚ますとベッドに寝かされていた。
直前にある記憶は竜と対峙していたこと。
そして。
(確か俺は、王都の魔法陣を使って守護獣を召喚しようとしたはず?)
そこで記憶が途絶えている。
『おはようございます、マスター』
ヘルプの声が脳に響く。
「ああ、おはようヘルプ。
早速で悪いんだけど、事の顛末を教えてもらっていい?」
言葉に応じて、俺の視界にあるスキルがポップされる。
《獅子炎帝イフリート召喚》と。
「スキルを習得できたということは、召喚には成功したのか」
『はい、マスター。
残念ながら不完全な召喚ではありましたが、あの生意気な竜はマスターの前に頭を垂らしてました』
不完全だったのか……。
召喚の瞬間、俺は成功を確信していたのだが。
どのように不完全だったのか、ヘルプに具体的に尋ねることにした。
しかし、尋ねるより先に外から足音が近づいてくるのが聞こえる。
現在居る部屋の扉が開かれた。
校長のルシャールだった。
ルシャールは俺が目覚めていることを確認すると、ベッドに歩み寄ってくる。
「なんだ。
やっとお目覚めか」
「そういえば、ここは?」
俺は今更ながら自分が寝ている場所を尋ねる。
「ここは校内の医務室だよ。
もう動けるか?」
ルシャールに促され、ベッドを出て立ち上がる。
軽く体を動かしてみた。
「体がだるいが、問題なさそうだ」
「そうか。
では悪いが少し付き合ってくれ」
医務室を出ていくルシャールの後を追い、横へと並ぶ。
改めてルシャールの顔を一瞥すると、顔に疲労が濃く刻まれていた。
「なんだかお疲れですね」
「そりゃな……。
派手に暴れてくれたおかげで、私も校内の復旧作業に繰り出されて3日間徹夜だよ」
ルシャールの言葉に棘があるように感じた。
校舎を出る。
と、整備された広大な演習場があった場所は無数の穴が穿たれていた。
(はて?)
ここは俺の記憶にある戦った場所とは違う。
「全然覚えてないけど、竜と守護獣の戦いはやっぱ怪獣大戦争みたいな感じになったのかな?」
俺の呟きをルシャールが拾う。
「覚えてないのか?」
俺は召喚の魔法陣を発動した時点で魔力切れで、そこで気を失い、何も覚えていないと返す。
「……この惨状をつくりあげたのは君だぞ?」
「はい?」
「私が見たのは淡々と竜を殴り続ける君の姿だった。
まさか伝説の生き物が泣きながら神に慈悲を求めている姿をこの眼でみることになるとは思わなかった」
ルシャールは嘆息しながら告げる。
「この辺りの穴は、竜を君が投げ飛ばし、そこに魔術を容赦なく放ったことでできた痕だな……」
俺は目を泳がせる。
(ど、どういうことだ?)
『召喚魔術は本来依代を必要とします。
今回の召喚ではその対象が居らず、マスターに直接イフリート様が降りました』
(つまり、イフリートを降ろした俺が竜を盛大にぼこったと?)
『はい』
ルシャールの先導の先に、小さな丘があった。
……いや、頭を垂れてる竜だ。
「すまないが、竜にここから別の場所へ移るよう説得してはくれないか?」
どうやら俺は竜を徹底的に痛めつけた後、「貴様はこの主が目覚めるまでこの場で伏しておれ」と言い放ったらしい。
(俺だが……)
それを忠実に守り、竜はこの場に三日間伏しているとのことだ。
すでに竜に闘争心がないことはわかっていた。
しかし、この敷地は学び舎の一部だ。
事態は収束し、復旧作業を突貫で行っている。
竜が邪魔だった。
伏している場所は学び舎に繋がる大通り。
ルシャール達も竜にそこをどくよう説得したが、「この場で伏せてるよう命じられた」の一点張りで頑なにその場を離れようとしなかったとのことだ。
「でも、それを命じたのは俺というよりイフリートでしょ?
俺の命令を聞くかな……」
俺の心配は無用だった。
竜に近づくと、犬の様に竜は尻尾を左右に振る。
「おお、主よ!
体の方はもうよいのか?」
機嫌よく俺に竜は話しかけてきた。
その様子を目を三角にして見る。
(ひとまず、邪魔にならない場所に動いてもらうか)
俺は竜を邪魔にならない場所でお座りを命じ、校内の復旧に力を貸すことにした。
◇
竜が、最後は俺が暴れまわったその日、予想通り王都の各地で魔物が出現していた。
負傷者多数ではあったが奇跡的に死者は0人。
冒険者ギルドに依頼を出していたのも功を奏し、騎士団と協力し、被害を最小限にとどめた。
その後、竜は約束を守り、地下に魔物を押さえ込んでくれていた。
校内の復旧が終わると、俺は地上と地下が繋がっていた場所を一部を除き埋めて回った。
繋がったままにした場所は『王都地下迷宮』の入口として認識されていくこととなる。
次回から第二章です




