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第三十二話「推察」


 俺は咄嗟に防御魔術を発動。

 障壁でブレスを防ぐ。


『突然攻撃とか汚いぞ!』

『なに、ただの挨拶替わりよ』


 竜はご機嫌にガガハと笑う音が脳内に響く。

 

『俺も人間なんだが?』

『我と同程度の魔力を保有している者を人間と認めていいものか……』


 鋭利な爪をもつ巨大な爪が迫る。

 跳躍。

 爪により先程まで俺がいた場所が陥没する。

 竜はさらに追撃。

 空中の俺に向かってブレス。

 風魔術で強引に体を動かし避けることもできたが、防御魔術で防ぐ。


(本当に約束守る気があるのか!?)


 避けると、そのブレスが広範囲に拡散される。

 ブレスは辺り一帯を焦土にするだけの力を秘めているのだ。

 回避するわけにはいかない。


『やっぱりあんた、あの神様の子供だわ!』


 最初は上位存在だし、敬意を払うべきかとも思ったが……。

 ブレスを防ぎ、切れ目に《雷槍(ライトニングスピア)》を叩きこむ。

 竜の鱗に直撃するが、かすり傷もつかない。

 先ほどの下位竜とはけた違いの防御だ。


『マスター、支援します』


 ヘルプの声が脳内に響く。


「頼む!」


 俺は次々放たれる竜のブレスを捌くのに手一杯だ。

 

『《ハイスペル》《マジックブースト》……』


 ヘルプが付与術(エンチャント)を詠唱していく。

 それに伴い俺の力が強化されるのを感じる。


(あれ、ヘルプって実体はないけど魔術が使えたのか?)


『いえ、正確にはこの魔術を使っているのはマスターであり、私は発動の手助けを行っているだけです』


 俺の心の声にヘルプが答える。


(……声に出さなくてもヘルプと会話できたのね)


『はい、マスター。

 私はいつもあなたと共にあります』


 もっと早く知りたかった! と俺は心の中で絶叫しながら、ヘルプに片っ端から強化魔術を行使するようにお願いする。


『準備運動はこれくらいでよいか』


 竜は翼を羽ばたかせ、その巨体をゆっくりと持ち上げる。

 

(上をとられるのはまずい!)


 俺の視界に《グラビティーフィールド》と単語がポップされる。

 ヘルプが習得している膨大な魔術の中から、役立ちそうな魔術をピックアップしてくれたのだ。


「させるかよ、《グラビティーフィールドー》!」

『ぬぉおおおお!』


 細かい魔力調整などせずぶっ放す。

 竜の真上に黒い球体が出現、飲み込む。

 空へ飛ぼうとした竜をそのまま地面に押し付け、竜を中心とし周囲が陥没する。

 

(動きを拘束できた!)


 ヘルプの付与術(エンチャント)により、更に強化された身体能力を総動員。

 加速。

 刀を中心に穿つ。


「!」


 全力の一撃は硬い鱗により、刀がぽっきり折れた。


(物理耐性も最強クラスかよ!

 あの糞神、なんて設定しやがる!)

 

 刀が折れ、一瞬動きが止まる。

 竜はその瞬間を逃さない。

 未だ《グラビティーフィールドー》の影響下にもかかわらず、巨体に似合わない素早い。

 竜の右腕が振るわれる。

 とっさに障壁を展開する。

 

「くっ!」


 衝撃までは防げない。

 吹き飛ばされた。


『《エアクッション》!』

 

 ヘルプの補助が入り、地面に激突する衝撃が緩和される。

 が、勢いは完全に殺しきれない。

 一瞬、なんとか手を地面に突き出し力のベクトルを無理やり変化させる。

 着地。

 間髪いれずに、竜のブレスが襲いくる。


「しつこい!」


 しかし、障壁で防ぐしかない。

 その間に竜が《グラビティーフィールドー》を破る。


(ヘルプ!

 竜に有効そうな妨害魔術を頼む!)


『了解しました、マスター』


 竜に直接的な攻撃魔術は防がれるが妨害魔術は有効そうだ。

 俺の指示にヘルプが即座に従う。


『《樹界拘束(プラントレストレイン)》』


 竜の四肢に樹木が絡みつき、動きを再び拘束する。


『小賢しい!』


 引き千切ろうと竜はもがく。

 スキル欄から複数の攻撃魔術をピックアップする。


(イオナは殺しちゃ駄目よ、といっていたが。

 ……あれは殺せないよ)


 遠慮なく今習得している高威力の魔術をぶっ放すことにした。


「《流星雨(メテオシャワー)》!」


 巨大な火球が複数上空に生み出される。

 刹那。

 竜に向かって殺到する。

 《火玉(ファイヤーボール)》とは比較にならない轟音が響く。

 地面が無数に穿たれ、粉塵が舞い上がっていく。

 魔術の行使、その成果を確認――するまでもなかった。


『フハハハハハ!!!

 いいぞ!いいぞ!』


 歓喜する声が脳に響く。

 竜の鱗に傷一つついていない。

 元より致命傷を与えられる期待はしてなかった。


(ついでだ)

 

 今後、早々撃つ機会のないであろう上位の範囲魔術を次々と行使していく。

 拘束する魔術をヘルプも続けているが、竜は避ける気配をみせない。

 嬉々として魔術を身に受けている。

 マゾなのか? と俺は疑問を抱いたくらいだ。

 もちろん気を抜くと致命的なカウンターが即座に襲ってくる。

 

『もう終わりか?』


 ピックアップした魔術は使い終わった。

 竜は、残念そうに俺を見下ろす。


「ああ、とりあえずこれで手持ちの魔術は終わりだ」


 その言葉にあからさまに落胆する音が脳内に響く。

 俺も魔術を試し撃ちでき満足した。

 

(正直、全く魔術が効かないのは想定外だったが……)


「最後に切り札をお前に見せてやる」

『ほぉ?』 


 竜に喜色が戻る。

 俺は続ける。


「その代わり、この魔術を行使するにあたり、お前に頼みたいことがある」

『我を楽しませてくれるなら、その頼みを聞こう。

 もし、つまらぬものであったなら即座にお主を食らう。

 よいな?』

「ああ、それで構わない。

 今から行使する魔術、魔術なのかな?

 ……まあいいか、これを使うと恐らく地下にいる魔物が王都に溢れる。

 そいつらをお前の力で地下に押し込んでくれるか?」

『よかろう。

 では、見せてみろ』

 

 竜は動きを止め、俺の動きに注視する。

 てっきり竜は攻撃を続けてくるものと思っていたが。

 ありがたく魔術を行使させてもらうことにした。

 今から使う魔術は神の力を借りる。

 目の前の竜を倒すにはそれ以上の上位存在をぶつけるしかない。

 では、その上位存在など存在するのか?

 真っ先に浮かぶのは神だが、どうやら神自体がこの世界に干渉するのはダメみたいだ。


(俺はどうなんだ……、って話だが)


 俺が知っている上位存在はもう一つ存在した。

 イオナは言っていた。

 『守護獣の魔法陣で地下に押し込めている』と。

 つまり、竜を押さえつけていた魔法陣は本来、守護獣を召喚する魔法陣なのではないか?

 守護獣がどういった存在なのか、俺にもわからないが、間違いなく竜を押さえつけるだけの力を持っている存在と予想できる。

 王都で生活していて、地下に魔法陣が存在するというのは想像できなかった。

 しかし、先程竜の拘束を解く時、地下に脈打つ魔力ラインを掴むことができた。


(魔法陣の全容はわからない。

 本当に召喚の魔法陣かもわからない。

 でもこれに賭けるしかない)


 一呼吸。

 地面に手をやり、魔力ラインを掴む。

 そこを起点に強引に魔力を流し込む。

 詰まった排水管に無理やり大量の水を流し込み、異物ごと押し出す。

 力技だ。

 一瞬だったか、長いことそうしていたのか。

 魔力ラインと同化しており時間の感覚が曖昧だ。

 やがて魔力が循環し、その巨大な全貌を掴んだ。

 確信する。

 

(推測は間違っていない)


「待たせたな、竜。

 《神イオナの名に於いて命じる、出でよ!》」


 神の名を語っても問題ないだろう?

 俺の言葉に何かが応えた。


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