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第二十八話「夜明け前」

 

 目を覚ます。

 横にはアニエスの寝顔があった。

 騒がしい声が未だに俺の耳に残っている。

 日がでるまでまだ時間がありそうだ。

 アニエスを起こさぬよう、そっとベッドを出て寝間着を脱ぐ。

 制服に手早く着替え、俺はメモを残すことにした。

 「先に学校へ行って勉強しています」と書く。


(はあ、アニエスに怒られそうだな)


 もちろん今から向かうのは学校ではない。

 メモを机におくと、2階の自室へと向かう。

 最近は部屋の入口横が定位置となっていた世界樹の杖を目に向ける。


(最近全然触ってないな……)


 俺が取りに来たのは杖ではなく、魔力の鍛錬のために生成している剣だった。

 神イオナの話からすると戦う場所は市街地のどこか。

 俺は高威力広範囲の魔術行使は得意だが細かい狙いには自信がない。

 そうなると、剣で接近して戦うしかなさそうであった。

 ここ最近生成した剣を手に持つ。

 日本刀をイメージして生成した剣だ。

 刀身がむき出しになったままだったので、鞘を生成し、刀を鞘にしまう。

 腰に下げ、寮をあとにする。

 これからどうするか考える。

 まず、イオナの話では魔法陣が緩み魔物が街に溢れる恐れがあると言っていた。

 

「ヘルプ、マップに魔物の位置情報をだせたりしない?」

『敵視または目視していない情報は表示できないです、マスター』


 マップに魔物情報を表示して殲滅していくという作戦はダメそうだ。


(となると、魔物が街に出てくるまで何もできないか?)


 俺はイオナの話を思い出す。


(確か、イオナは本格的に魔物が街に溢れるといっていた。

 ということはこれまでも街中に魔物が出現していたのでは?

 どっちみち俺一人で対処するには王都は広すぎる)


 最初の行動方針を決めた。

 『情報収集』により騎士団団長エクトル・ベルリオーズの居場所を調べる。

 ヘルプにその場所までのナビをお願いする。

 騎士団の長であるエクトルは幸いにも俺が勇者であることを知っている。

 さらに、騎士団も動かすことができれば後手後手に回ってもある程度の被害を抑えれると踏んだのだ。


(日も昇っていないこの時間なら誰もみていないだろう)


 俺はカンストしている身体能力を最大限に発揮。

 建物の屋根へと上り、屋根へ屋根へと渡っていく。

 目的地まで一直線だ。



 ◇



 エクトルが居る場所は騎士団本部の執務室だった。

 てっきり寝室にいるものと思っていたが、エクトルはこんな時間にも拘らず働いているようだ。


(うぇ、騎士団ってブラック企業なのか)


 執務室の窓から控えめにノックする。

 怪訝そうにエクトルは振り向き、俺の姿を確認すると驚く。

 椅子から立ち上がると、エクトルは窓を開け、部屋の中へと入れてくれた。


「勇者様。

 そのような場所から驚きましたぞ」

「夜分遅くに失礼します。

 急ぎ団長殿にお聞きしたいことがありまして」

「私が答えられることなら、何なりと」


 俺は単刀直入に尋ねることにした。


「最近王都で魔物が出現していませんか?」

「! ……どこでそれを?」

「やっぱり出現していたんですね」


 情報源は神様ですと俺が言っても信じてもらえるわけがないので、エクトルの質問を無視して話を進めていく。


「魔物はいつ頃から?」

「一週間前ほどからです。

 最初は何者かが王都内に魔物を持ち込んだものと思い門での検問を強化したのですが、数が増える一方でして……」

「出現場所はわかります?」

「こちらに」


 エクトルは机に紙を広げる。

 王都の地図だ。

 赤×が何カ所も付けられている。

 魔物の出現場所だろう。


「バラバラですね……」

「はい。

 王都に広範囲で出現しています」


 魔物はどこから現れたのかは未だ不明とのことだ。

 俺は考える。

 

(神様は元々(ドラゴン)を地下に押し込めるために魔法陣を張ったて言ってたよな?)


 魔法陣は魔物を押し込めるものではなかったはずだ。

 俺の魔物が溢れるイメージは、地下と地上がどこかしら穴とかで繋がり、そこから魔物が出てくるものだった。

 

「魔物がどこから現れたのか、何か痕跡みたいなものはありませんでしか?」

「いいえ。

 我々もどこから現れたのか痕跡を辿ろうとしたのですが……、痕跡がないのです。

 まるでその場に突然現れたとしか」


 魔物は魔力の濃いところで生まれるという。

 魔法陣の緩みから濃い魔力が溢れ、そこから魔物が生まれ、ここ最近王都に魔物が出現しているのだろう。

 痕跡がないのもその場で生まれたばかりだとしたら納得がいく。


「……そういうことか」


 俺はエクトルから魔物の出現位置を聞くことにより、地下から魔物が出てくる場所を特定することができるだろうと考えていたが、そう単純にはいかないことが判明した。

 頭が痛くなってきた。

 最悪の場合は魔力が王都に溢れ、あちこちで魔物が出現。

 何かの衝撃で地上と地下が繋がったら地下からは大量の魔物が街に溢れる。

 エクトルの口振りと、地図の魔物討伐の状況を見るに、すでに騎士団の多くは王都の広範囲をカバーできるように巡回してるはずだ。

 

「……巡回の騎士はすでに手一杯ですよね?」

「勇者様は、魔物がまた現れると?

 それも騎士では対処できないほどの」

「うん、そう」

「どうしてそのように思われるのですか?」


 俺はある程度エクトルに話したほうがいいと判断した。

 (ドラゴン)の存在は隠しながら限りなく真実に近いことを話した。

 王都の地下には地下迷宮(ダンジョン)が存在するということにした。

 その地下迷宮(ダンジョン)はこれまで巨大な魔法陣により封じられていたが、何をきっかけにか魔法陣に綻びができた。

 綻びから魔力が溢れ、それが原因で魔物が出現していると。


「まさか、そのようなものが王都の地下に……!」


 説得力はないかなと思ったが、エクトルは納得してくれたようだ。


「団長殿、勇者の名で冒険者ギルドに依頼を出すことってできますか?」

「……それは可能だと思うが」

「では急ぎ冒険者ギルドに王都に出現するかもしれない魔物の討伐依頼を」

「しかし、それは……」


 エクトルが渋る。

 俺は王都の民を不安にさせないため魔物の出現に緘口令を敷いていたのであろうと推察した。

 冒険者ギルドに堂々と「王都に出現する魔物の討伐」などと貼り出したらどうなるだろうか。

 だが、それでも俺は強い口調で言うことにした。


「今は被害を最小限にするためにも全ての手を尽くすべきです。

 時間の猶予もありません」


 エクトルを見つめる。

 

「分かった、すぐに依頼をだそう」

 

 エクトルは頷くとすぐに書類の作成に取り掛かった。

 日はまだ昇らない。

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