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第二十話「突然の訪問者」

 あの後、走り去ったラフィを追いかけるといったことはせず、俺は無心で木苺を摘む作業に戻った。

 その結果、籠三個を赤い実でいっぱいにした。

 一仕事終えた俺は、籠を台所の一角に置きエレナへと報告に出向く。

 咄嗟にエレナからラフィの「俺が好き」であることを聞いたことを暴露してしまったが、果たして良かったのであろうかと若干後悔していた。


(俺は事実を言っただけだし……)


 心の中で言い訳を考えながら、商いスペースに足を踏み入れる。


「あら、木苺の収穫は終わった?」


 俺が来たことに気付いたエレナは調合スペースで顔だけこちらに向け、声をかけてくれる。


「はい。台所に籠は置いておきました」

「ありがとう、ナオキくん。収穫しないと実が落ちちゃうから助かったわ」


 エレナのお礼を聞きながら、キョロキョロと店内を見回す。


「……ラフィ来ませんでしたか?」

「来たわよ。ギャーギャー五月蠅かったから、お使いに行かせたわ」


 涼しい顔でエレナは言う。


「そ、そうですか」


 俺も詳しい言及は避けた。


「ミリィさんもどこかに行かれたのですか?」

「あの子は上で寝てるわよ。

 はぁ……興味のあることに対しての行動力はあるのに、なんでああなんだか」


 エレナは困ったわ、と頬に手を当てながら溜息。

 これについても言及しない方がいいだろう。

 話題を変えることにする。


「あの、エレナさん」

「うん、何?」

「ポーションをいれる瓶でこれくらいの大きさの瓶を二個ほど貰えないでしょうか?」


 手を使って、このくらいの大きさとジェスチャーで示す。


「いいわよ。これでいい?」


 棚からすぐに求めていた大きさの瓶を2個取り出し、置いてくれる。


「あと、さっき収穫した木苺、料理に使わせてもらってもいいですか?」

「ええ。構わないわ。あとで小分けにして近所に配るだけだから好きに使って構わないわよ」

「ありがとうございます」


 ペコリとお礼を述べる。


「ふふふ。ナオキくんの料理は美味しいから楽しみだわ」

「エレナさんみたいに料理上手というわけではないので……あまり期待せずにいてもらえたほうが助かります」


 手間暇を掛けた料理の知識は俺には無い。

 どちからといえば、簡単お手軽料理しか知らないのだ。

 本職や、普段から料理している人の腕には遠く及ばないのでエレナの期待は重い。

 愛想笑いをしながらエレナから瓶を受け取り、台所へと戻る。


「さて、やりますか」


 籠のうち一個を手に取り、作業を始める。

 台所には魔道具が備えられた洗い場が存在するが、踏み台なしでは顔を覗き込めない高さにあり俺には作業がしにくい。

 踏み台を持ってくればいいが、めんどくさいので魔術を使う。


「よいしょっと」


 まずは風の魔術で籠を慎重に頭の上の高さまで持っていき、洗い場へと移動させる。

 次に籠ごと生成した水の球で覆い、そのまま宙へと浮かす。

 そうしてジャブジャブと中で木苺をグルグルとかき回すように洗っていく。

 地味に苦手な魔術操作の訓練にもなる。

 一石二鳥だ。

 洗い終わったらペッと水を消し去り再び籠の中へ。

 収納ボックスから鍋を取り出し、籠を持ちあげる。

 洗い終わった木苺を鍋に入れていく。


「どれくらい入れればいいかな?」


 さらに収納ボックスから取り出した砂糖の袋と、鍋に入った木苺の量を見比べながら思案するが。


「まぁ適当にやるしかないか」


 紙袋をひっくり返してバサっと鍋に入った木苺の上にまぶしていく。

 この世界、砂糖は中々のお値段がし、砂糖の価値を知っている者が見たら顔を引きつらせていたことだろう。

 十分ほど経ったところで鍋をかまどに移動。

 魔道具に手をやり、慎重に魔力を込め、弱めの火を生み出す。

 ここからは流石に魔術で横着が出来ないので、木箱をかまどの前に移動させ、鍋の中を観察しながら木ベラでたまに混ぜていく。

 じんわりと鍋の中をルビー色の汁が沸々と滲み出す。

 汁が鍋を充たし始めたら、再び魔道具に魔力を込め、先程よりも少し火力を強める。

 今度は灰汁が出てくるのでそれをせっせと木製スプーンでとっていく。


「何をしてるんだい?」


 翼を広げながら青がいつのまにやら俺の横を浮遊し、鍋の中を覗き込んでいた。

 さっき見たときは相変わらず食卓の上で丸くなっていたのに甘い匂いにつられてやってきたのだろう。


「ん、ジャムつくってる」

「ふーん。美味しいの?」

「多分」


 丁度良いので、とろみが出てきた汁の一部をスプーンですくい、青の口元にもっていってやる。

 パクっと青がそれを一口。

 かなり熱いと思ったが、竜は猫舌ではないようだ。


「どう?」

「美味しい」

「……青の口からは美味しいしか出てこないから判断に困るな」

「それ以外の感想がないから仕方ないだろ。でも本当においしいよ」


 一度、青に不味いものを食べさせた時にどのような反応をするのか見てみたい気がする。

 俺も一口、スプーンにすくい、フーフーと息を吹きかけ少し冷ましてから口に運ぶ。

 素材の元の甘さと酸味は活きたまま、砂糖の甘みがプラスされ絶妙なバランスになっている。


「ん。良さそう」


 かなり適当に入れた砂糖だが、間違っていなかったようだ。

 あとは焦げないように注意しながら、時折木ベラを鍋に泳がせ、木苺の実が崩れドロドロになるまで煮詰めて完成。

 エレナから貰った瓶を沸騰消毒し、中に詰めていく。


「よし、完成!」


 満足のいくものができた。


(甘いもので少しはラフィの機嫌が戻らないかな……?)


 先程のラフィの様子を思い出し、若干笑みが零れる。

 見たことがない姿であったが、俺はその様子を非常に好ましく思っていた。

 あとジャムを食べた時の姿を想像し、きっと喜んでくれるという予想から、笑みを浮かべるラフィを思い浮かべる。

 そんなことを考えていると、パタパタという足音が近づいてきて、エレナが台所に顔を覗かせた。


「あら、いい匂い。作っていたものが完成したのかしら」


 エレナは出来上がったジャムに視線をやり微笑む。


「はい」

「それならよかったわ。アリスちゃんにお客さんよ?」

「私に?」


 はて、俺を訪ねてくる人などいただろうかと首を傾げながらも、店内で待ってくれているとのことなのでエレナについて行く。

 そこで俺は意外な人物を目にする。


「突然お邪魔してすみません、アリス様」


 洗練された動きで一礼を行う。

 顔を上げ柔らかな笑みを浮かべているのは栗色のふわっとした髪が特徴的な女性。

 私服姿のローラであった。 

  

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