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第二十二話「赤面のアリス」


 俺は激しく後悔していた。

 模擬戦をやってみろと言われ、この身体になり初めての実戦形式である。

 以前と身体の勝手も違う。

 幼くなり身体能力も落ちてそうだなと考えていた。

 模擬戦の相手は見習いの騎士とのことだ。

 まずは軽く身体を動かしてみよう思った結果、もろに俺の木剣が首に入ってしまった。


(げっ!)


 と思ったのは後の祭り。

 相手は昏倒していた。

 恐る恐るモートンの方を見ると、表情の読めない顔で「次は俺だ」と告げる。

 今度は徐々に速度を上げることにした。

 先程は忘れていたレベルの確認を行う。

 レベル30。


(これ以上目立ちたくないし、適当に剣を合わせて納得してもらうしかない!)


 すでに十分目立っているが、俺はそう決意した。

 ただ、模擬戦が始まると先程の決意はどこへやら。

 俺も楽しくなってきた。

 

(崩せない……!)

 

 次の一手が予知されているかのように、正確に剣を捌かれる。

 スキルは封印しているが、あの手この手で打ちこみを行う。

 剣を合わせられる。

 

(ならば……!)


 力任せに下から剣を打ち上げる、剣を返したタイミングで小さい身体を活かし潜りこんだ。


(ここだ!)


 全力で崩しにかかった。

 が、打ち上げの衝撃で剣が折れてしまった。

 

「あっ」


 その瞬間になって、ようやく対峙前に適当に合わせようと考えていたことを思い出した。


(やりすぎた……)



 ◇



 護身術の授業の後、更衣室でまたクラスメイトに囲まれた。

 

「小っちゃいのに強いのね!」

「戦っているアリスちゃん凛々しかった!」

「今度私に剣教えて!」


 少女たちは汗で濡れた服を着替えながら俺を取り囲み、話しかけてくる。

 半裸である。

 目のやり場に困った。

 そそくさと着替え、逃げ出した。


 王立学校の授業は午前に2科目、午後に2科目である。

 俺はアニエスと共に食堂へ行くことにした。

 アニエスの隣にもう一人、赤髪の少女の姿があった。

 ちらりとその少女の姿を確認すると、その視線に気づかれる。

 ニコニコと手を振ってくれた。


「エルサ・ルシャールだよ。

 よろしくねアリスちゃん」

「あ、ルシャール校長のご親戚……?」

「そうそう、私の伯母上」


 俺は普通の時間帯に食堂を利用するのが初めてであった。

 食堂は多くの人で賑わっていた。

 食堂に足を踏み入れると相変わらず多くの生徒が俺に注目した。

 己の幼い姿を呪う。

 ……呪われた結果だが。


 最初に席を確保し、料理を取りに行くことにした。

 食堂はビュッフェ形式で提供されている。

 思い思いの料理を皿にとり、三人は席に座る。

  

「そういえばアニエス、昨日頼んだ塔の噂はどうだったの?」

「いたわよ、精霊」

「え、本当に!?」


 アニエスは無言で俺を指さす。

 エルサは目を?にする。


「アリスが塔の上で寝てたわ……」

「ぶっ……!」

「きゃっ、汚い! エルサ!」

「ごめん、ごめん。

 え、塔の最上階にいたの?

 アリスちゃんが?」


 アニエスは俺に会った経緯をエルサに話す。


「へえ~。

 わざわざアニエスに会うため学校に入学してくるなんて。

 アリスちゃんはお姉ちゃんっこなのね」


 アニエスにより若干「お姉ちゃんに会うために」学校へ入学してきたことに脚色されていたが俺は無言を貫くことにした。


「そうなのよ、エルサ!

 しかもアリスは恥ずかしがりやでね。

 いざ、学校に行こうと思ったら、恥ずかしくなっちゃって図書館に籠っちゃたらしいの」

「しかも最上階?」

「そう、最上階」

「ああ、それでアリスちゃんを見かけた生徒が噂して、私の耳に入ってきたときには”図書館の最上階に精霊がいる”って話になっていたのか。

 あはは!確かにアリスちゃんは見た目が精霊みたいだもんね!」

「でしょ!」


 親馬鹿ならぬ姉馬鹿である。

 もぐもぐと食事に集中する。


「今日も学校に連れてくるのも大変だったのよ。

 年下だからいじめられるかもしれないって」

「あー、朝もクラスの注目浴びてアニエスの後ろに隠れてたもんね。

 こんな可愛い子をいじめるわけないのにね」

「ねー」


 話は午前中の授業に移っていく。

 もちろん、俺中心の話だ。


「あの禿教師、最初はアリスちゃんを困らせようと無理難題を解かそうとしてたよね」

「ええ、あの禿……、ニールセン先生には後でお父様に相談してこの学校から追放してやろうかと思っちゃったわ」

「でもアリスちゃん、淀みなく解いちゃって。

 あの禿教師の呆けた顔見た?」

「見た」


 二人は笑いあう。

 俺の耳が赤くなってくる。

 

(あの問題、普通は解けないものだったか。

 そうだよね……)


「でも、こんな優秀な妹だと姉としての威厳はどうなの?」

「それ言っちゃう?」


 可愛いから全部許せちゃう! っとアリスは抱きしめられる。

 俺は人前で恥ずかしいと引き剝がす。


「模擬戦もすごかったね」

「可愛いアリスに傷でもつけたらお父様に相談して騎士団をクビにしてやると思ってたけど一撃で!

 あの時のアリスは凛々しかったな」

「あ、あれは騎士見習いの方が油断してたから……」

「いやー、でもフェルドマン先生との模擬戦も全然負けてなかったよ」

「あれもフェルドマン先生が防御に徹してくれたおかげでそういう風に見えただけですよ。

 ……実際は、全部剣で払われちゃいましたから」

「もうちょっと見てたかったけど剣が折れちゃったのは残念だったね」

「今度お姉ちゃんにも剣を教えてね!」


 俺の顔はゆで顔状態になっていた。


(うん、振り返ってみると目立ちすぎだ)


 午後の授業は大人しくしておこうと心に誓った。


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