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第十話「裏庭」


「おぉ」


 俺は小さく感嘆の声を漏らす。 

 ラフィ家の裏庭は想像していたよりもずっと広かった。

 あちらこちらに様々な植物が植えられていた。

 ただ、彩や配置はまったく考慮されておらず、それらは観賞するために植えられたものではないことがわかる。

 薬屋を営んでいるようなので、薬草に類するものだと推測した。


「こっち」


 ラフィに声を掛けられた俺は、どうしても一瞬ビクっと反応してしまう。

 今朝、起きてからラフィの様子を観察していた感じ、どうやら昨晩のことに腹を立てている、ということはないようだ。

 むしろ機嫌はいいように見える。

 何故。

 それがわからず俺は戸惑わずにはいられない。

 ただ、ラフィが普通に接してくれるのはとても助かる。

 昨日のことをきっかけで侮蔑の目を俺に向けられていてもおかしくはなかったからだ。

 しかし、ラフィが今まで通りに接してくれているのに対して俺は、事あるごとに昨日のことを思い出してしまうのだ。

 再び顔が熱くなる。

 今、どうして顔が赤くなっているのかなどと問われたら目もあてられないことだろう。

 昨日のラフィの裸を思いだしてましてたなんて正直に答えられるはずがない。

 そんなことを考えていたらラフィがすたすたと前を歩いて行く。

 俺は慌てて前を追う。

 昨日のことを考えないよう、周囲に視線を向け、他のことに注意を向けることにした。

 遠目で見たら青々とした植物としか認識できなかったが、近くでみると、前の世界では見たことがないたくさんの植物に目を奪われた。

 不思議な形をした葉っぱ、奇妙な伸び方をしている植物も見られる。


「そこのには触らないで。毒があるから」

「まじか」

 

 もう少し近くで観察しようと、なんとはなしに近づいていた身体を慌てて遠ざける。

 同時に、ラフィの言葉に普通に反応できたことに俺は胸を撫でおろす。

 この調子で会話すれば大丈夫そうだ。


「ここに生えてるのって薬草なんだよな? 毒も取り扱ってるの?」

「毒もちゃんと調合すれば薬になるから」

「なるほど」


 なるべく知らない植物に、好奇心から近づかない方が良さそうだ。

 ラフィに追いつき横を歩く。


「ラフィ、ラフィ。さっき俺に魔術を教えてくれるって言ってたけど、新しい魔術を教えてくれるの?」


 期待しながらラフィに問いかける。


「私が知ってる魔術はすでにナオキがことごとく習得してるから……」

「この前の戦いでラフィが連続で魔術を出してたやつ、俺にもできない?」

 

 思い付きを口にしてみる。

 ラフィは以前、「ナオキみたいに無詠唱で上級の魔術を放つなんて非常識」と口にしていたが、森都に来る途中での白い大蛇との戦いでラフィは連続で魔術を繰り出していた。

 それに俺は魔術で大蛇に有効打を与えられなかったのに対して、ラフィは防御しながら攻撃に転じ、微々たるものではあったかもしれないが魔術で大蛇にダメージを与えていたように見えた。

 俺が提案した内容に、うん?、とラフィが首を傾げる。


「私の魔術をすでに見てるなら、ナオキは使えるようになってるんじゃないの?」


 ラフィは俺が一目見た魔術や技を習得できる馬鹿げた固有能力(ギフト)を持っていることを知っている。


「確かに似たような魔術はすでに習得してるかもしれないけど、俺の記憶にある魔術と詠唱が違ったような気が」


 それに一部の魔術は無詠唱で扱っているように見えた。

 ああ、と俺の疑問にラフィは納得したようで、


「あれは私なりに既存の魔術を少し改良しただけ。

 元はナオキが無詠唱で魔術を使うのに対抗するために考えたもの。

 無詠唱で魔術が放てるなら必要ないと思うけど……?」

「そうなのか。ならそうだな……」


 すぐに次の案は思い浮かばない。


「ちなみにラフィは最初、俺に何を教えてくれるつもりだったの?」


 考えてみれば、魔術を教えると言ったのはラフィである。

 何も考え無しに提案したわけではないだろうと思い、問いかけた。


「せっかくだから私達の国で教えている魔術の基礎を学ばない?

 アニエスから王国での魔術の教え方を聞いて、私達の国とは全然違うんだなと思ったから。

 それにナオキはポンポン簡単に上級魔術使ってるけど、基礎は大事よ。

 ……興味ないようだったら別のことを考えるけど」

「すっごい興味ある」


 即答する。

 そう、何だか知らないが俺は魔術は一度習得さえしてしまえば手軽に扱えるがラフィの言う通り基礎の基礎がないのだ。

 

「でも王国での魔術の基礎っていうと、詠唱句を覚えて、その意味を理解してって流れだけど森国では違うのか?」

「違う」


 そもそもと、前置きしてラフィは続ける。


「ナオキの言う通り、詠唱句と意味が魔術の基礎であるはずなら、ナオキが魔術を使えることを説明できないでしょう」

 

 確かにラフィの言う通りではあるが、俺は神様から貰った固有能力のおかげと勝手に納得していた。


「別に魔術を使うのに詠唱句も、それこそ意味なんて理解する必要はないの」

「でもラフィも俺みたいに魔術を無詠唱で使うのは難しいって言ってなかったけ?」

「それは上級魔術の話。初級なら、ほら」


 人差し指を立て、ポッと何とはなしに水球を生み出した。


「イメージさえできれば無詠唱で出来る人は沢山いる。ただ戦闘中は反射のようにイメージを想起させるために、何か言葉にする人が多い。ナオキも無詠唱で出来ることでも言葉をきっかけに発動している憶えはない?」

「ある」


 俺が納得したところでラフィが続ける。


「私から見たら、悪いけど王国で教えている魔術はすごく非効率的。魔術師が多くない国というのも納得」

「それで、具体的に森国ではどうやって魔術を教えるんだ?」

「今から教える。まずは、ついて来て」


 得意気な表情でラフィが言う。

 珍しいその表情に俺は、目を瞬くが、すぐにラフィは前を歩き始めたので、表情は見えなくなった。


(俺の気のせいだったかな?)


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