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第九話「状況変化?」


 起きると、知らない部屋だった。


「はへ?」


 変な声を上げながら首を傾げる。


(えーと、確か……)


 記憶を遡っていく。


(俺は確かラフィの実家に行って、それから夕食を食べて、それから……)


 最後の記憶はラフィの裸、そして途絶えた記憶。


(あれは夢か……?)

 俺の中でいいように都合をつけようとした。


『……夢ではございません、マスター』


 頭の声にヘルプの声が響く。

 なんだかいつもより3割増しくらいで声が冷たいように聞こえるのは気のせいだろうか。

 さらに追い打ちがとんでくる。


『マスターはラフィ様の裸に興奮して、お風呂場で気を失いました』

「うぐっ」 


 それでは俺が凄くやばい奴に聞こえるではないか。

 反論を口にしようにも、言われてみると概ね合っている気がしないでもない。

 ヘルプに責められてるうちに昨晩の最後、何が起こったのか俺も思い出した。

 ラフィの裸を見た俺は、慌て、そして足を滑らせ、見事に後頭部へクリティカルダメージ。

 そのまま気を失った。

 非常にださい。


「何やってんだ俺……」


 頭を抱える。

 がっくしと。

 今どのような状況でここにいるのかを理解した俺は改めて辺りを見回した。


「ここはラフィの部屋かな?」

『そうです』


 部屋に置かれている机には、ラフィが普段肩にかけているバッグが置かれているのが見えた。

 ラフィの部屋ということで、何となく本が積み上げられている部屋を想像していたが、想像とは違い非常に簡素。

 必要最低限のものしか置かれていなかった。

 次に自分を見下ろすと、見慣れない服、俺が持っているものではない寝間着を着せられていることがわかる。

 それも当然か。 

 俺の持ち物は全て収納ボックスにしまっているため、気絶していたら取り出しようがない。


(服も着せてもらったわけか……)


 ラフィかエレナか、はたまた両方の世話になったと見ていいだろう。

 恥ずかしさやら申し訳なさで一杯である。

 腕を少し伸ばしてみると袖があまり、だぼだぼ。

 ベッドから這い出て立ち上がってみると裾も俺のサイズにはあっていないようで、歩くと床をずるずると這ってしまうようだ。

 これは予想だが、今着ている服はラフィのものであろう。

 ほのかにラフィの香りがする。

 ……ちょっと変態みたいだ。

 などと現状確認をしていたら、部屋の扉が開き、ラフィが顔を出した。


「あ、ナオキ。起きたんだ。朝食できてるから、着替え終わったら降りてきて」

「お、おう」


 用事は終わったとばかりに扉が閉じられた、扉の奥からトントンと小気味よく階段が降りていく音が聞こえた。


「とりあえず着替えるか……」



 ◇



 部屋を降りるとラフィがエレナを手伝い、食卓に皿を並べていた。

 俺も手伝おうと思ったが、ラフィに「座ってて」と言われたので大人しく座って待つ。

 程なくして準備は終わり、全員が席に着いた。

 青もお客様待遇で、目の前に料理が置かれている。


「さぁ食べましょう」


 エレナの合図で食事を始める。

 朝食は緑がかったパンとスープ、それから果物だ。

 緑がかったパンはこちらの世界で初めて見るタイプだ。

 真っ先に手に取る。

 緑がかったパンはほのかな苦みを感じる独特の味であった。

 俺は元々そんなに苦い味を苦手と思っていなかったが、身体が変化したことで舌まで幼児化していたようだ。

 脳では「風味がよく、苦味のバランスが絶妙だな」と判断し、美味しいと思考しているにも関わず、舌が苦味を嫌がる不思議な感覚に陥る。

 舌に残った苦みを誤魔化すように、スープを続けて口に運ぶ。

 スープは一口飲むとほっとする柔らかい味。

 沢山の野菜が色とりどりに入っていた。

 食卓に置かれている果物などをみても種類が多い。

 森が近いので、こういった野菜や果物が豊富なのかもと想像する。

 俺は食事をしながら、チラチラとラフィの方を伺ってしまう。

 何だか気まずい。

 ラフィは普段通り飄々として見えるが、内心はお怒りかもしれない。

 だってそうだろう。

 後ろを振り向くなと言われていたにもかかわらず振り向き、挙句の果てに失神、手を煩わせている。

 もちろんラフィの裸もばっちし見た。

 俺がラフィの立場であったらどうだろう?

 怒る、絶対に怒る。

 それはもう許されないことであろう。


(どうすればいいと思う?)


 もぐもぐとパンを咀嚼しながらヘルプに相談する。

 食卓の机を今回の住処とした青には相談するわけにはいかない。

 ただでさえ珍しい魔物が言葉を話し始めたら、流石のエレナも驚くだろう。

 ……竜に相談しても良いアドバイスが貰えるとはとても思えないしね。 

 そうなると相談できる相手はヘルプしかいないのだ。

 そんな俺の心強い味方であるはずのヘルプは、


『知りません』


 と冷たい。


(あれ? 何かヘルプ怒っている?)


 知らないうちにヘルプとの関係が悪化していることに冷や汗をたらす。

 もしヘルプの姿が見えていたら、ツーンとした表情でそっぽを向かれている、そんな情景が浮かんだ。

 どうやらヘルプからもアドバイスが貰えないようであることを察した俺は、食事が一段落したところでラフィとエレナに向かい、素直に謝罪することにした。


「昨晩は御迷惑をおかけしました」

 

 エレナはあらあらと柔らかな笑みを浮かべている。

 うん、完全に幼い子を面倒をみる母親の目だ。

 

「ラフィからは久しぶりの一緒のお風呂に浮かれてはしゃぎすぎたって聞いたわ」

「はい……すみません」


 俺はしゅんとする。

 うん、ラフィの裸を見て動転したなんて言えるわけがなく、子供っぽくはしゃいでこけた。

 そういう理由で納得してもらうしかない。

 エレナとのやり取りの横でラフィは無言。

 恐る恐ると再びラフィの横顔を窺うが、俺にはいつも通りの様子に見え、何もなかったように静かに食後のお茶を飲んでいる。

 それが逆に怖い。

 でも、気のせいではなかったらラフィの顔色は昨日よりもいいように見える。

 最近寝不足とぼやいていたので、実家に帰ったことでゆっくり寝ることができたのかもしれない。

 ぼんやりと考えていると、エレナが口を開く。


「私は食事の片づけをしたら、お店の準備をするけどあなた達はどうするの?」


 エレナのお店に興味あるなと頭の隅で考えながら、再びラフィの方を見ると、元々予定はきめていたようですぐに返答する。


「今日は裏庭でアリスに魔術を教える予定」

「そうか。ラフィはアリスちゃんの先生だもんね」

「そう。アリス、それでいい?」


 ラフィが一応俺にも了承を求めたので素直にはい、と返事をした。


「じゃあ、片付けを終わらせちゃいましょう」


 エレナの一言で朝食は終わり、テキパキと食卓を片付けていく。

 怒っていると思っていたラフィだが、思いの外普段通りであったことを疑問に思いながらも、余計なことは口に出さず、黙って自分で使った皿を洗い場へと運んだ。

 

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