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第六話「帰郷」


 ラフィの実家は森都から少し離れた街にあるとのことだ。

 歩いて行けなくもないが、やはり時間がかかるので街へと向かう行商人を探し相乗りさせてもらうことにした。

 そうして、俺達は世界樹を背にゴトゴトと荷馬車に揺られていた。

 森都の建物が立ち並ぶ区画を抜けると周囲のほとんどが森。

 荷馬車は整備されている道をゆっくりと進んでいく。

 あまり変わり映えのない景色、森の中に迂闊に入ったら迷子になりそうである。

 おかみさんに貰った丸パンはお昼ご飯に頂いた。

 冷めても相変わらず美味しい。

 当然の様に青もせがんできたので、3人で均等に分けて食べた。

 人だけでなく竜の口にもあうようだ。

 そんな時間を過ごす中で俺はラフィと話合いをした。

 議題は、ラフィのお母さんに俺がラフィとどういった関係かという質問が来た時の回答だ。

 というか、まず聞かれるだろう。

 友達というには実際の年齢が離れすぎており、何かしら考えておかないと色々なボロが出てくること間違いなしだ。


「ナオキ、わかった?」

「ああ」


 話し合いの結果、王都でも使っていた設定をもう少し掘り下げた。

 設定はこうだ。

 王都の災厄により身寄りを無くした俺。

 孤児院で過ごしていたが、ラフィに魔術の才能を見出されて弟子となった。

 今はこうして一緒に旅をしながら魔術を教わっている。

 王国の剣聖であることはもちろん秘密。

 俺の正体が勇者であるということはもってのほか。

 勇者については、今の姿では言っても冗談と受け取られるであろうが念の為だ。


「ラフィの弟子なら魔術師っぽい恰好をしていたほうがいいかな」


 俺は収納ボックスから久々に義父リチャード・サザーランドより贈られた杖を取り出す。

 その姿をラフィに白い目で見られた。


「ナオキ……。その杖、何で出来た杖か言ってみて」

「ん? 世界樹の枝から作られた杖って聞いてるけど?」

「そんな杖を一般人が持ってると思う?」

「……思わない」


 いそいそと収納ボックスにしまう。


(そういえば世界樹で採れるものは金以上の価値があるんだったか)


 俺は興味本位でラフィに尋ねる。


「ちなみに世界樹の杖って、いくらくらいなの?」


 少しラフィは考え、答えを口にする。


「値段はつけれない。でも、それ一本で王都の一等地にお屋敷を建ててもお釣りがくる」

「まじか……」


 今更ながらとんでもないものを受け取ってしまったことを実感した。



 ◇



 日が傾き、空が茜色に染まり始めた頃、目的の街に辿り着いた。

 街というよりは村と表現したほうが適切かもしれない。

 中心地には生活に関わる商店らしき建物が見えたが、他は民家がぽつぽつと建っている喧騒とは無縁の街である。

 俺達はここまで乗せてくれた行商人に感謝を述べ別れた。

 そこからはラフィと並んで歩くこと数分。

 程なくして目的地に着く。


「ここ」


 木造の落ち着いた雰囲気の家だ。

 どうやらお店も兼ねているようで、『薬屋』と簡素に記された文字と、薬屋であることを文字が読めない人でもわかるように葉っぱと瓶の絵が記された看板が扉に付けられていた。

 ラフィが扉に手を掛けるよりも早く、扉が勝手に開く。


「あら?」


 出てきたのは女性。

 すぐに女性はラフィに気付き、嬉しそうに微笑む。

 特徴的な透き通るような青い髪が風で揺れていた。

 ラフィの血縁者であることが一目でわかる。


(お姉さんかな?)


 ラフィから家族構成を聞いたことはなかったが見た目から俺はそう推測した。


「おかえりなさい、ラフィ」

「うん。ただいまお母さん」

「……!?」


 ラフィの言葉で今一度、女性をまじまじと俺は見てしまった。


(お母さん……? 嘘だろ)


 とても子供がいるようには見えず、第一印象の通り、ラフィのお姉さんと言われても疑うことはなかったであろう。

 ラフィのお母さんがこちらに気付く。


「連れの子がいるって手紙で聞いてたけど……」


 合点がいったようで、手をポンと叩く。


「この子がラフィの子供?」


 とんでもないことを言い始めた。

 ラフィも自身の母親の言葉に驚き、顔を真っ赤にしながら否定する。


「違う。書いてない」

「暫く帰って来ないと思ったら……私もいつのまにかおばあちゃんか」

「一ヵ月くらいしか経ってない。

 そもそも生まれたばかりだったらこんなに大きくない」

「あぁ、この前帰ってきた時に心配していたお友達との子供?」

「違う!」

 

 ラフィは涙目である。

 第三者の目でみれば、ラフィのお母さんは明らかに娘をからかって遊んでいるようであった。


(なんだか想像していた印象とだいぶ違うな……)


 もっとラフィに似た、理路整然としたお母さんの姿を想像していた。

 親子のやり取りを横目に俺は見ているが、怒りながらも、いつもよりラフィは生き生きしているようにも見えた。 


(……いや、やっぱりラフィに似てるかも)


「うふふ、冗談よ。ラフィがまた暫く家に帰って来ないかもしれないと思ってたからつい嬉しくて」

「……もう」

「いけないいけない。ずっと立たせちゃってごめんなさいね。

 私がラフィの母です。あなたのお名前は?」

 

 ラフィから視線をこちらへとやり、俺の目線と同じ高さにするため、中腰になりながら問われる。


「アリス・サザーランドです。その……お邪魔します」

「アリスちゃんね。ようこそ我が家へ」


 ラフィのお母さんはニコリと微笑むと、俺の頭を撫でるのであった。


「可愛い!!!!!!」

「……ッ?」


 撫でるにとどまらず抱きしめられた。

 目でラフィに助けを求めるが、ラフィの口は「あきらめて」と動いた。


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