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第三十八話「正体」

 不気味な静寂から一転。

 刀を振るたびに、周囲へ轟音をまき散らす。


「もう少し静寂性はどうにかならないのか……」


 古い車のエンジンでも、もう少し静かであろう。

 俺はどうしても愚痴をこぼさずにはいられなかった。


「まぁ、君が派手に活躍してるって周囲にわかるからいいんじゃないか?」


 頭上の青は、気楽な口調でのたまう。


「目立ちたくないんだが……」

「それはもう無理でしょう。

 それにどうやらあいつら、視覚だけじゃなくて一応聴覚も備わってるみたいだから、君の音に釣られてるみたいだよ。

 よかったじゃないか」

「いいんだかわるいんだが……」


 微妙な顔をしていると、ヘルプの警告が届く。


『前方にさらに三』


 同時に、視界の右上に表示される地図には赤い光点が3つ追加された。

 霧が濃く、目ではその姿を確認できない。

 だが、敵視を基にした情報は正確であり、これまでの経験からも信頼できるものだ。


(青の言う通り、楽ではあるか……)


 俺に対する敵視は間髪入れずに情報として、神様が与えてくれた謎機能により視界に表示される。

 最近は腐り気味であった、この固有能力(ギフト)も見えない敵を探すという手間が省け、非常に便利ではあった。

 迷わず初級魔術である《火玉(ファイヤーボルト)》を展開。

 前方へと向け、発射する。

 それから少しして、ヘルプの声が届く。


『敵性反応消失しました』 


 刀を一振りすれば出現する炎は、気分屋であり、正確に方向や距離を狙うことが難しい。

 魔術を織り交ぜた方が、結局楽に戦えるのであった。

 それに、刀を振らずとも、火精霊の加護は健在であり、普段よりも少ない魔力で魔術を発動することが可能であった。


『さらに右側に六、左側に三』

「いい加減しつこい!」


 右側へターン。

 出現した光点へと最短距離で駆ける。

 背後には先程と同じ要領で《火玉》を放つ。

 前方では白い魔物の姿が固まって視界に入る。

 無造作に刀を横一線。

 火柱が容赦なく、敵を飲み込む。

 同じタイミングで後方の敵にも魔術が到達したようだ。

 敵性反応を示す光点が消える。

 だが、これで終わりではないことは十分に理解していた。


「終わらないモグラ叩きをしているような気分だ」

「根本的な原因をどうにかしないと、いつまでもわいてきそうだね」

「その原因がわかれば苦労しないんだが……」

「そうでもないよ。こうやって君の頭から観察しててわかったことがある」

「へえ、それは?」

「あの白い奴は、この霧から生み出されてる」

「霧から生み出されてる?」


 俺は青の言葉を復唱する。

 どういう意味だ。


(そういえば、さっき霧が魔力を帯びているとも青は言っていたな?)


 言葉をそのまま飲み込むのであれば、


「この霧から魔物が生まれてるってこと?」

「そういうこと」  

「まてまて。魔物ってそんな簡単にポンポン生まれるのか?」

「魔力が濃いところであればね。僕が住んでいた場所とかもそうだし」

「そういや神様も、(おまえら)の魔力によって地下に魔物がたくさん湧いているとか言ってた気も……」


 実際、王都の地下にある迷宮では、魔物が多く生息している。


(こいつらがレベル1なのは生まれたばかりだから?)


 青の説明を聞き、俺は一つの謎に納得がいく。

 レベル1とは思えない、一発の重さ。

 これは白い魔物がもつ種としての性能なのだろう。

 俺が見ることのできるレベルというものは、あくまで一つの目安にすぎないことは重々理解していた。

 例えば赤と戦った時。

 レベルだけみれば俺の方が上だった。

 にもかかわらず、強靭な赤の鱗には刀や魔術を用いても傷一つ付けることができなかった。

 神様が心血を注ぎ創造した最高傑作の生物である竜は、元々の構造が違い、人よりも遥かに頑丈な生物であるわけだ。

 俺には化物じみた基礎があるわけではなく、結局は人という種の枠に囚われている。

 魔術などを使用して、身を守らなければ、特別な剣でなくとも、俺の身体は切り裂かれ、致命傷へと至ることだろう。

 ……まぁ、魔力量はどうやら人としての枠を逸脱しつつある気もするが。

 話を戻そう。


「じゃあ、なんだ。この霧が出ている間は魔物が出続けるってことか?」

「そうなるね」

「風魔術を使えば、このあたり一帯の霧を払えたり?」

「それは、難しいかな。だいたい、この霧がどのくらいの範囲に広がっているかもわからないし」

「結局、地道に湧いてきた魔物を叩くしかないのか……」


 頭上の青が面白がっているような音を立て、言葉を続ける。


「そうじゃないよ。霧からあいつらが沸いているのは観察してわかったこと。

 原因ではない。

 それに、君は一つ失念していることがある」

「失念?」


 青が何を言わんとしているのか、眉をひそめ考える。

 わからない。

 俺の反応をみた青は両翼をご機嫌に、バサバサとふる。

 時間を掛けて考えることはせず、その答えを素直に問うことにした。

 その時。

 答えは別の者から告げられた。


『マスター、そこの駄竜はこう言いたいのです。

 魔術しか通用しない魔物なんていない、と』

「ああ、なるほど」

「ちょっと、僕が言いたかったのに!」


 青の抗議を無視してヘルプは続ける。


『さらに付け加えれば、この霧から沸いているのは魔物ではなく……』


 ここまで言われればさすがにわかった。


「そうか。あいつらは魔力によって召喚されたモノというわけか」

「正解」


 青の声ではない。

 俺の知らない第三者の声が響いた。

 同時に、この場には似つかわしくない拍手の音が響く。


「誰だ!?」

「初めまして、とご挨拶するべきですかね。剣聖アリス・サザーランド殿」


 白い霧から現れた人影。

 いや、いつの間にか俺の前に立っていたそいつは、芝居がかった仕草で一礼。

 ゆっくりとした動作で上げられ、目に映った顔は奇妙な紋様が入った仮面で覆われていた。

 だが、見えない仮面の奥は、なぜだか俺には笑っているように見えた。



みなさまのおかげで、ゆりてんはPV400万を達成することができました。

本当にありがとうございました!

来年もよろしくお願いいたします(m´・ω・`)mペコ

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