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第三十六話「助っ人登場!?」

 視界は一面に白。

 勢いよくジャンプしたことを俺は後悔していた。

 脳裏に、上から俯瞰すれば戦況を見渡せるかと思ったが、そんなわけはなかった。


(ひとまず戦闘音がする方へ向かおう)

 

 側面からも、後方からも敵が現れたことが音で察せれる。

 となると前方も襲われている可能性はあったが。

 

(確か今日の隊列の最前列にはレーレさんがいたよな)


 あの人なら戦闘が起きても大丈夫そうという判断もあり迷うことなく後方へと向かった。 

 自前の翼があるくせに、頭にのっかている青へと問う。


「この白い霧も、さっきの敵が発生させているのか?」

「それはわからないかな。

 霧を発生させているのか、それともこの霧が原因となってさっきの奴らが現れたのか」

 

 歯切れの悪い回答を青は返す。

 つまるところ何もわからないというわけだ。


「ひとまず原因追及は後回しでいいか。今、対処すべきは……」

  

 地面に急降下。

 運がいいのか悪いのか、ちょうど真下に白い敵の姿が見えた。

 刀を抜く。

 勢いそのまま、刀を敵へと突き立てた。

 刀へと伝わる感触も、断末魔もない。

 不気味に、音もなく存在だけが掻き消えた。

 地面へと着地し、状況を確認する。


「アリスちゃん? どうして?」

「え、というか剣? どういうこと?」


 声でちょうど真後ろに双子がいることに気付く。

 だが、その声に反応している暇はない。

 前方では前衛職の二人が攻撃を必死に凌いでいるのが視界に映った。


「多いな……」


 赤い目が白い霧で不気味に輝く。

 俺がもし、神様から貰った力を持っていなければ迷わず逃げるという選択をとっていたことだろう。

 そのような中で、不気味かつ自身よりも巨大な敵を相手に必死に前線を支えている冒険者の胆力を称賛せずにはいられない。


(目立つ行動は控えたほうがいいのはわかっているが、力を隠し、ここで誰かが傷つくのは違う!)


 全力でいく。

 迷いなく地を蹴った。

 己の並外れた身体能力を存分に発揮した加速。

 さらに《電光石火》を発動。

 紫電を纏う。

 こちらに向かってきていた魔物の一体を、すれ違いざまに斬り伏せる。

 魔術を使用して殲滅する選択肢もあるが、視界も悪く、乱戦状態の状況では精度に自信がない。

 それに敵の数がどれほどか全くわからない。

 全力でいくとはいえ、魔術を放ち、王都迷宮でやらかしたように、気絶してしまうといった事態は避けたい。

 魔物を三体受け持っている冒険者の後方へと、瞬く間に迫る。

 魔術で作製したと思われる巨大な盾で攻撃を受け持っていた。

 すでに白い魔物には物理攻撃、防御共に意味をなさないことはわかっているようだ。

 初めて見るそのスキルに、少し興味をそそられながらも、意識を敵へと戻す。


「増援ッか……?」


 俺の気配に気付き、喜色の声を上げた男の冒険者。

 視線が交錯し、俺の姿を確認すると若干語尾が疑問形になっていた。

 俺はまず左側面に取り付いていた敵を斬り上げた。

 勢いそのまま、正面の敵を右上から左下へと斬り伏せる。

 最後は横へと刀を左から右へと薙ぎ払った。 


「ここは私が受け持ちますので、下がってください!」

「お、おう」


 少し何か言いたげにしていたが、男の冒険者は素直に下がっていく。


「……青、いつまで頭にのってるの。絶対変なやつって思われてるよ」

「僕が原因じゃないと思うけどね」

「まぁいいや。あとは……」


 多くの敵を惹きつけている冒険者。

 ゲームに例えるならば、敵を大量にかき集め、トレインしているようにしか見えない。

 だが現実は違い、後衛職に敵が向かっていくのを防ぐために、自ら囮になっている立ち回り。


「あの数はすごいな」

「魔術でぱぱっとやっつけちゃえば?」

「そうしたいけど……」


 確かクララと名乗った女性冒険者。

 見ている側からすれば、完全に囲まれ、圧殺される未来を想像してしまうが、武器を巧みに操り疾走し、攻撃を躱している。

 その動きは不規則で、先の動きがまったく読めない。

 魔術を使うタイミングを俺は計れずにいた。


「うーん、地道にやるしかない! とりゃあ!」


 白い群れに突貫。

 

「脳筋だね」


 頭上から呆れた声が聞こえてくるが無視。

 刀を抜き放つ。

 同時に刀がなぞる軌跡に沿って炎の刃が放出された。


「えっ?」

「なっ!?」


 前者は俺の驚きの声、後者はクララの驚きの声。

 予想外の出来事。

 今の一振りで群れと表現すべき数の敵を葬り去ることができたので結果オーライではあるが。


(いつからこんな能力を身に着けたんだ?)


 魔術を意図して放ったわけでもない。


「火精霊に懐かれてるね。君によかれと思って集まってきてくれてるみたいだ」


 青の言葉を聞き、思い起こすのは初代剣聖ストラディバリ。

 あいつも精霊が気を利かせてくれた結果、手足を操るように火属性の魔術が発動していたことを思い出す。


「楽になるなら細かいことはいいや! クララさん!」

「は、はい」


 呼ぶ掛けたクララの声は若干上擦っていた。


「ここは俺、じゃなくて私が受け持ちますので下がってください!」


 俺の言葉を聞いたクララは一度瞬きを行い、さらに咳払い。


「いえ、私も囮になるくらいはできます」


 今度は先程の上擦った声ではなく、俺の知っていた凛々しい声でクララは返答する。


「それに、剣聖殿と肩を並べて戦えることなど、そう経験できるものではありませんから」


 クララの言葉に今度は俺が息を呑む。


「……気付いてたんだ」

「名前を小耳に挟んだとき、今話題の剣聖殿と同じ名前だなくらいしか思っていませんでしたが」


 俺の姿を今一度、一瞥する。


「今の剣技をみて確信しました」

「そんな大したもんじゃないですけどね……」


 青の言う通り、脳筋としかいえない自身の立ち振る舞いのどこに剣技とよぶべき箇所があったかは疑問だ。

 しかし、クララは一緒に戦うことを望んでいる。

 今の一撃で見える敵は一掃できたように見えたが、見えた敵だけだ。

 視界を周囲にやると、また赤い目が煌々と霧の先に現れた。


(数が多いし視界も悪い。一人で受け持つのはリスクがあるか)


 俺は考えを改めた。


「うん。クララさん、左側を頼みます」

「はい、お任せください!」

「それと」


 クララがもつ戦斧に触れる。

 先程、エリーヌの矢筒に行ったように、火精霊の加護を付与。

 付与された戦斧は脈動しながら淡く赤い光に包まれた。


「これであの白い魔物にも攻撃が通るはずです」 

「ありがとうございます!」

「それじゃ、やりますか」

 

 武器を構え、新たに現れた敵を迎え撃つ。

  

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