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第六十話「反省」


「俺が何を言いたいかわかるか?」

「はい……」


 俺は合流したアレクの前で正座していた。

 結局、黒幕の本拠地かどうか判断できない状況で俺が介入してしまった為、作戦を通してみれば失敗。

 捕えた男から情報を聞き出せればいいのだが、俺の一撃を喰らった後、白目を剥いて気絶したままだ。


「まぁ、お前が介入しなかったら余計な犠牲が出てたかもしれないから責めれないか……」


 呆れながらも、アレクは俺の横に視線をやる。

 横には救出した少女が俺にぴったり抱き着いていた。

 そのせいで自由に身動きができない。

 そこに背後から静かに近付いていたラフィが、人攫いから奪っていた『安らぎの風』の巻物を開封する。

 効果は忽ち現れ、少女は静かに寝息を立て始めた。


「その巻物、大丈夫なの?」


 俺は人攫いが使っていた巻物が安全であるか心配であった。

 変な副作用とかがないか、とても怖いが。


「大丈夫。

 流通は制限されてるけど、一般的な巻物」


 魔術の専門家であるラフィが言うなら大丈夫なのだろう。

 意識を失った少女に膝を貸しながら、俺は話を進めていくことにする。


「で、アレクの見立てではどうなの?」

「これから調べるが、ここが黒であることは間違いないな……」


 何やら疲れた様子でアレクは述べる。

 その間、ラフィは男の周囲に魔法陣を描いていく。

 対魔術師用の拘束結界だ。

 俺にはまだ扱えない部類のものなので、全てラフィに一任する。


「そういえば、ここに辿り着くまで結構な時間がかかってたけど。

 何かあったの?」

「ここに来るまで、そこかしこにアンデッドの群れがいてな……。

 お前のでたらめさが改めて身に染みた」

「それは、ご苦労様……。

 で、結局ここはどこなんだ?」

「八区の教会。

 その地下だ」

「教会……」

「どこかの誰かが周辺を閉鎖する前におっぱじめたから、ひとまず教会の関係者も全員一度捕縛してる。

 今のところ上の調査はギルドに任せている。

 勘では教会の連中は何も知らないと見ていたが……」


 アレク達は騎士団と共に俺が今いる地下室に現れた。

 ラグマック一行が一緒にいないのは上で活動しているためのようだ。

 ちらりとアレクは、捕えた男を見る。


「この男、知ってるの?」

「ああ。

 俺の記憶間違いでなければ、こいつはここ、イオナ教王都支部の神父だ」

「イオナ教の?」


 訝し気に俺は問う。


「そうだ。

 確か三年前に、長年王都の神父を務めていた爺さんが急死して、急遽イルミダス教皇国から派遣されてきた人物だったはずだ」

「よく知ってるな」

「……たまたま知ってただけだ。

 まぁ、ナオキが知らないのはしょうがないが、こいつは王都に住んでる奴なら皆顔を知ってるレベルの有名人だ」

「ふーん。

 でも、そんな有名人がどうして?

 こいつ、容赦なくこの()を殺そうとしたぞ?」


 膝で眠る少女の髪を撫でながら、アレクに問う。


「わからん。

 だが、人間なんて皆、知られてる表の顔なんて世間向けのもので、誰も本当の本性なんて知らないもんだろ」


 肩を竦めながらアレクは答える。

 俺の予想だが、アンデッドを生み出す――死霊術を行使していたのはこの男と見ていた。

 もちろん、まだ別の黒幕がいる可能性も否定できないが。

 俺が直接確認できた男が使用した技は暗殺(アサシン)系のスキルと《影牙(シャドーファング)》と呼ばれる魔術。

 聖魔術を光系統の魔術と呼ぶなら、その魔術は闇系統の魔術とでも呼ぶべきか。

 加えて、男はアンデッドに指示を出していた素振りを見せてたことから死霊術も使用できたと考えられる。

 この世界の教会の役目は、基本”癒し”を与える場所だ。

 多くの治癒術師、数は少ないが聖魔術の使い手で構成されている。

 にもかかわらず、男が持つスキルは全て、それらとは相反するものだ。

 

(どうしてこいつが教会の神父なんだ?)


 そんな、当然の疑問を俺は抱いた。

 更に気になるのは男が無詠唱で魔術を行使したことと、どうやって俺の攻撃を咄嗟に回避したかだ。

 ラフィでさえ、魔術を咄嗟に無詠唱で行使するのは「無理」と言っていた。

 

「ラフィ、ちょっといいか?」

 

 横で拘束用の魔法陣を描き終え、立ち上がったのを見て、俺はラフィに声を掛ける。


「なに?」

「そこの男が無詠唱で魔術を行使していたんだが、どういうカラクリなんだ?」

「簡単。

 多分、事前に魔法陣を敷いていた」

「魔法陣……?

 そうか、この部屋に予め仕掛けていたのか。

 あとは魔力を注ぐだけで発動するというわけか」


 俺の予想を正解と、ラフィはこくこく頷く。

 それを聞いて合点がいった。

 補足するように、ラフィが口を開く。


「この部屋……、ここに来るまでの通路もだけど。

 あちらこちらに何か仕掛けられていた」

「魔法陣が仕掛けられてるってこと?」

「そう。

 魔力が込められてないから無視したけど、逆に言えば魔力さえ充填すれば効力を発揮する」

「その魔法陣が何なのかわからないのか?」


 首をふるふると振り、ラフィは否定する。


「ナオキも少し魔術を齧ったからわかるはず。

 他人が描いた魔法陣を解読するのはすごく難しい」

「それもそうか」


 ラフィの答えに納得する。

 魔法陣にはある程度の法則は決まっているが、人によって個性が強く、正直何が描いてあるか全くわからないものもある。


「ラフィ、魔法陣で場所を移動する魔術って可能?」


 ラフィは少し考える素振りを見せるが、すぐに答える。


「可能。魔力は凄く必要だけど」


 その答えを聞き、俺は男が攻撃を回避したカラクリは何かしらの転移魔術と結論付けた。

 

(この男が持つ魔術知識は有用そうだよな……)


 実に残念。

 まともな人間であれば、色々魔術について聞きたいところだが。

 そんなことを考えていると、一人の騎士が近づいてきて、アレクへ告げる。


「すみません、少し見て頂きたいものが……」


 チラリと騎士はラフィの方に目を向けながら話す。

 その様子から何か魔術に関するものを騎士は発見したと見るべきだろう。

 アレクは頷き、俺も立ち上がりついて行くことにした。


「その前に騎士団の連中を、この男を監視するために4~5人連れてきてくれ」

「了解しました」


 見事な敬礼を返し、騎士は踵を返していった。

 すぐに戻ってくるだろう。


「アレク、何だか出世したな」

「茶化すな。

 まぁ、ああやって敬意を払ってもらえるのはこの国だけだ。

 それも勇者様のお付きであったお陰だがな」

「それより、俺はいつまで正座してればいい?」

「……いや、別に俺は強制してないぞ」

「それもそうか」


 アリスは少女を膝から地面に移動させる。

 そのまま地べたに置くのは忍びないので、収納ボックスから適当にタオルを取り出し、下に敷く。

 他の攫われた子供たちも袋から出し、同じ様に処置する。

 そうこうしてるうちに、間もなく騎士が戻ってきた。

 

  


W杯で盛り上がってたら、更新滅茶苦茶遅れましたorz

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