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第四十九話「次の作戦」


 視界を遮っていたゲルトの腕を振り払い、俺は加速する。

 《縮地》。

 アレクの背後へ移動。

 乱暴ではあるが、アレクの服を掴むと後方へと投げ飛ばす。


「がはっ!」


 部屋の壁へと激突し、アレクの声が漏れる。

 同時にアレクへ襲いかかった死者の横っ腹に蹴りを叩きこむ。

 こちらは手加減なしの一撃。

 壁に激突し鈍い音をする。

 だが、うめき声といったものは一切しない。

 俺にとっては嫌なことに見慣れたアンデッド属性の相手だ。

 

(またこいつらの相手をしないといけないとはな)


 アンデッド相手に物理攻撃はほとんど意味を成さない。

 手をかざし、聖魔術《セイクリッド・ディストラクション》を発動する。

 部屋の中央から時計回りに光の魔法陣が描かれていく。

 アレクを襲った一体だけしか死体が動かないとは思えない。

 他の死体も同じように動き出すと見ていいだろう。

 一瞬の時間を要し、魔法陣は完成。

 光の柱が顕現。

 部屋全体を眩い光が覆う。

 アンデッド属性に対して即死効果を付与する魔術だが、ただの人に対して害はない。

 発動の警告もせず、容赦なくぶっ放したわけだ。

 これで終わりと俺は確信して、投げ飛ばしたアレクに駆け寄る。


「アレク、ごめん。

 大丈夫?」

「いや、すまない。油断してたわ。

 助かった」


 アレクが無事であることを確認し、ほっと胸を撫でおろす。

 今一度部屋を見回す。

 違和感を覚え、はてと首を傾げる。

 俺はやがて違和感の正体に気付く。


「死体が残ってる?」


 訝し気に声を上げる。

 

(魔術は失敗してないはずだが?)


 不死の王(ノーライフキング)の配下に対して聖魔術を放てば、跡形もなく消し飛んだ。

 だが、床には部屋に踏み込んだ時と同じように死体が転がっていた。

 それに答えたのはラフィであった。


「たぶん、今のは死霊術で操られてたから」

不死の王(ノーライフキング)の配下は違うの?」

「違う。

 アリスにとってはそっちの方が馴染みのあるアンデッドかもしれないけど、本来の死霊術は死体に下級精霊を憑依させるもの」

「じゃあ、不死の王はどうやって死体を操ってたんだ?」

「不明。

 あっちは魔力によって体そのものが変質していた」

「とりあえず、もう大丈夫なのか……?」


 恐る恐るといった様子でゲルトが俺とラフィの会話に割り込み、聞く。


「今ので片付いただろ。

 今度こそ本当にただの死体だ」


 アレクが答える。


「今のも魔術なの?

 初めて見る魔術だった。

 パーッと光って」


 マリヤの疑問にも何故かアレクがやったわけでもないのに得意気に答える。


「元々こいつはアンデッド相手のエキスパートだ。

 聖属性の魔術らしいぞ。

 俺は詳しくないが、どちらかというと治癒術に近いとかラフィが言ってたっけ?

 ただ、人や魔物相手にはあまり役に立つ魔術じゃないとかで習得してる人は多くないとか」

「なるほど。道理でアリスちゃん一人で災厄の中を生き抜けたわけか」


 ゲルトは何か納得したような表情。

 その表情を見て俺もアレクも、「あ、この話題は続けない方がいい」と判断する。

 元々俺の出生はがばがば設定のため、突かれると色々と齟齬が発生する可能性があるためだ。

 ラフィもそのことは分かっているようで、珍しく自ら発言する。


「で、どうするの?

 死体、持って帰る?」

「いや、一度ギルドに戻って状況を報告しよう。

 ゲルトはどう思う?」

「その意見に賛成だ」

「なら、とっととこの場を離れるか。

 ……いつまでも居たい場所でもないしな」


 アレクの発言に一同は頷き、ドーナ貿易商会を離れた。



 ◇



 クロエ、ライムントと合流し、俺達は冒険者ギルドに戻ってきた。

 来た時と違い依頼窓口も閑散としていた。

 夜も遅い時間、今日は依頼の受付を終了したのだろう。

 それでも普段より遅い時間まで職員は働いていたようで、疲れた表情を見せながら中を行き来する姿が見られる。

 そんな中でも俺達が、建物に入るとすぐさま気づいた職員の一人が駆け寄って来ると、来た時と同じ応接間に案内された。

 あまり時間を空けずに支部長であるロベルトも姿を見せた。

 ゲルトが事の顛末を報告する。

 ロベルトは黙って聞き、しばらく間を置いてから口を開く。 


「従業員も会長も死体となっていたと……。

 しかも、死霊術を使われていたか。

 他に裏で糸を引いている者がいるということになるか。

 いや、すまない。

 結果は残念だが、君達はギルドの依頼を果たしてくれた。

 報酬は支払おう」 


 深い溜息を吐く。

 ロベルトの溜息ももっともであった。

 人攫いに関与していると思われた重要人物は死亡。

 王都で発生している一連の人攫い事件に関する捜査は振り出しに戻ったに等しい。

 そんな中、マリヤが声を上げる。


「あの、攫われた子供たちの行方はわからないのですか?」

 

 ロベルトが依頼内容を説明したときの話では、冒険者と騎士団が協力し人攫いの実行犯を捕えており、今回の犯罪に使われた巻物に関しても実行犯から言質をとったはずだ。

 肝心の子供たちはどこにいったのか、マリヤは疑問に思った。


「わからない」

 

 ロベルトの言葉にゲルトが反応する。


「わからないことはないだろう。

 実行犯を捕まえて、攫った子を王都の外に出すなり、どこかに捕らえて集めるなりといった情報を引き出してるんじゃないのか?」

「その通りだ。

 我々も当然、実行犯が攫った子をどうしているか、嘘は言えぬ状況で聞き出した。

 だが、そのどれもが空振りだった。

 共通しているのは実行犯の仲間が、王都内のどこかしらの場所で攫った子供たちを荷馬車に載せるという手筈。

 だが、どの実行犯の荷馬車も行方が分からない。

 剣舞祭で、検問は緩くなっているのは事実だが出る物に対して、人攫いという事件が王都内で多発していることもあり厳しくしている。

 幾つかを見逃している可能性も否定はできないが、全て監視の目を潜り抜けたとは考えにくい」

「つまり、どういうことだ」

「子供たちはまだ王都内のどこかにいる可能性が高いということだ。

 ……巻物を供給していた疑いがあるドーナ商会が何か知っていると思ったのだが。

 子供たちの行方も含めて、何もかも振り出しだ」


 ロベルトは再び重い溜息をつく。

 だが、何かを思いついたアレクが顔を上げ、発言する。


「ロベルトさん、俺にいい考えがある」

「……なに?」

「こいつを利用すればいい」


 アレクは俺を指さしながら言い放つ。

 周囲の視線が俺へと一斉に向いた。

 

「えっ、なに?」


 突如向けられた視線にたじろぐ。

 だが、ロベルトは少し考える素振りを見せるが、すぐにアレクの考えに思い至ったようだ。


「なるほど……。悪くない考えだ」


 重々しい口調ではあるが、光明を見出した。

 そんな様子で告げる。

 ロベルトに続き、ラグマック一行も皆「その手があったか」と納得した表情を見せる。


「だが、危険ではないか?」

「俺が知る限り、こいつは勇者に次ぐ剣術、魔術の実力を持っている。

 心配は無用だ」

「待て待て。

 俺じゃなかった、私に何をさせる気!?」

「何って、そりゃ囮だろ」


 俺の言葉に表情を変えず告げる。

 その後、淡々とアレクは作戦の全貌を話していった。

久しぶりの一日複数話投稿でした。

休日を使ってきりがいい所までなんとか……!

感想、ブックマーク登録、作品評価とか貰える嬉しいです。

次話更新 6/4(月)、もしかしたら日を跨ぐかもですが予定。

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