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第四十六話「先客」


 アレク達が乗ってきた馬車に再び乗り込むと、一行は十四区の冒険者ギルドを目指す。

 移動中、アレクから知っている情報を尋ねようと思っていたが、昨日からほとんど寝ていなかった俺は馬車に揺られ、やがて眠りに落ちてしまった。

 次に意識が戻った時は、馬車の揺れがちょうど止まったタイミングであった。

 ゆっくりと目を覚ますと、ラフィの瞳と目が合った。

 どうやら俺は膝枕をされているようだ。

 

「ご、ごめん、ラフィ。寝てたみたいだ」

「うん。いい」


 横に座っていたラフィにもたれかかるように寝てしまい、そのままラフィが俺に膝を貸してくれたのだろう。

 謝罪しながら、慌てて身体を起こす。

 少しラフィの耳が赤くなっていたようにも見えるが、気のせいだろう。

 一行は馬車を降りると冒険者ギルドの建物へと入っていく。


「夜なのに、やけに人が多いな」


 冒険者ギルドの受付には二つの窓口がある。

 冒険者向けに、依頼書の手配を行う窓口。

 そして、依頼を受け付ける窓口だ。

 普段なら冒険者ギルド内は依頼人よりも、依頼書を物色している冒険者の割合の方が多いのだが、今日は逆に依頼者の方が多そうだ。

 その証拠に、依頼を受け付けている窓口に列ができていた。


「どうやら、剣舞祭ではぐれた子供の捜索依頼を出しにきてるみたいだな」


 俺の呟きを拾い、アレクが答える。


「よくわかるな」

「耳がいいのが長所だからな」


 肩を竦めながらアレクは答える。

 改めて列を見てみると、確かにアレクの言う通りなのだろう。

 顔を青くしている父親や母親らしき姿に見えた。


(日中、あれだけ人がごった返してたら無理もないか)


 加えて街中に並ぶ露店といった子供の興味を惹くものが数多くある。

 親が目を離した隙に、というわけだろう。

 この世界には迷子センターのような場所も用意されていないので、自然と頼る場所が冒険者ギルドとなるのかもしれない。


「とりあえず、アリスを連れてきたことを職員に報告するか」

「受注受付の方も、一時期的に依頼受付をやってるみたいだな」


 慌ただしく働いている職員の姿が映る。


「こりゃ、暫く席に座って落ち着くのを待つか」

「そう、するか」


 冒険者ギルド内には交流広場の意味を兼ねたカフェスペースが併設されている。

 昔は酒場になっていたらしいが、色々とトラブルがあったらしく、今はアルコールの提供を止めたという経緯があるらしい。

 俺達はカフェースペースに向かおうとした時、書類を抱えたギルド職員が駆け寄ってきた。


「アレク様! お待ちしておりました。

 バタバタしていてすみません。

 支部長から到着したら案内するように言われています。

 こちらに」


 どうやらカフェは取りやめのようだ。

 ギルド職員に案内され、一行は二階へと上がっていく。


「こちらへ」


 案内されたのは、以前も入ったことがある応接室だ。

 職員に促され一行は中へと入る。

 

「支部長を呼んで参りますので、暫くこちらでお待ちください」


 職員はそう言い残すと、退出して入ってきた部屋の扉を閉じる。

 部屋にはすでに数人の先客が座っていた。

 音に反応し、こちらを先客は注目していたが、俺を目にすると立ち上がる。

 一つの影が俺に飛びつき、正面から抱きつかれた。


「アリスちゃん!」

「マリヤ久しぶり」


 初めて出会ったときも、こうやって抱き着かれたことを思い出しながら、マリヤの顔を正面に見る。

 数週間ぶりの再会。


「離れて」


 再会を喜ぶのも束の間、すぐさまラフィが俺とマリヤの間に身体を割り込ませた。

 ラフィの行動にマリヤは笑みを浮かべる。

 アリスには見えないがラフィは「ぐぬぬ」といった表情を見せていた。

 そんなことに俺は気付かず、興味は奥の先客へと向く。 


(マリヤがいるってことは)


 すでに予想出来ていたが、先客は皆、顔なじみの人達であった。

 

「もう一組、凄腕の冒険者が来るって聞いていたがアリス達だったか」

「ゲルト達も久しぶり」

 

 ラグマックの一行。

 マリヤ以外の3人もいた。

 ラグマックのリーダーであり、前衛職の剣士であるゲルト。

 初対面の時とは違い、俺へにこやかに歩み寄る。


「結局三人でチームを組んだのか」

「いいや、俺たちはチームではないかな。申請もしてないしな。

 でも、リーダーはこいつ」


 アレクが俺の頭をポンポンと叩きながら答える。


「アリスに振り回される、哀れな従者チームと言ったところか」

「おい」

「ははは、なるほどな」


 後ろに控えていたラグマックの残りのメンバーも歩み寄ってくる。


「なんだか苦労人みたいだね」

「お、わかるか」


 アレクと再会を喜び握手しているのはライムント。

 ゲルトと同じ前衛職であり槍術師を務めている。


「アリスちゃん、少し背が伸びた?」

「いえ、変わってないかと……うっ」


 にこやかに声を掛けてきたのは後衛職の魔術師であるクロエ。

 挨拶をすると、マリヤと同じように抱き着いてきた。

 マリヤと違い豊満な胸を顔に押し付けられ、俺は赤面する。

 

「あー可愛い! 会いたかったよ!」


 子供が好きなのか、俺を抱きしめたままクロエは叫ぶ。

 先程と違い、クロエをラフィは引き剝がそうとしなかったことに疑問に思い、ラフィに目を向けると、何故か先程と同じ位置でマリヤからの視線を遮る位置に立っている。

 マリヤはにこにこ笑って立っているだけに見えるが。 


(ラフィは何をしているんだ……?)

 

 一方でアレクは部屋にいる面子を見渡し、少し考え込む仕草を見せる。

 それに気づいたゲルトが、声を掛けた。


「どうした? 何か悩み事か」

「ゲルト達もここにいるということはギルドからの指名依頼で呼ばれたってことだよな」

「その通りだが、それがどうかしたか?」

「いや、ラグマックは王都内でかなり優秀なチームと聞くが」

「自分たちで言うのは気が引けるが、チームの評価は高いな」

「で、あんた達なら俺達もそこそこの実力者ということは知っているよな」

「そこそこね……」

「そんな俺達を呼び出したんだ。

 思ってた以上に厄介な依頼みたいだな」


 アレクが再び視線を入口の扉へと向けると同時に、扉が開かれる。


「揃ったようだな」


 王都冒険者ギルド支部長、ロベルト・ラデッケが姿を見せた。

今日は久々に複数回更新できれば……!

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