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第四十三話「来客」


 ガルネリ工房では昨日から昼夜を問わず、カーン! カーン! と小気味よい金属を叩く音が鳴り響いていた。

 その音を奏でる、工房の主であるガルネリの目は真剣そのもの。

 口を真一文字に結び、己の粋を尽くして、剣を鍛え上げる。

 最近は1日に1本しか打ってなかった。

 加えて、毎日剣を打つわけではないので、週に3本でも打てばよく働いた週と言えるだろう。

 ところが、ガルネリは昨日から数えて5本目の剣に取り掛かっていた。

 今、その5本目の最終工程が終わった。

 ガルネリは鎚を横に置くと、すぐさま水の中へと通す。

 白い蒸気が晴れると、銀色に輝く剣――俺が刀と呼ぶ形状の剣が姿を現す。

 今一度ガルネリは完成した刀を確認し、出来栄えに満足すると声を上がる。


「次のが出来たぞ!」


 声に反応し、工房の隅に椅子を置き座っていた俺は、読んでいた本を閉じ立ち上がる。


「それじゃ行きましょう」

「今度こそじゃ」


 もう5度目のやり取り。

 何をどうするといった会話はいらない。

 無言で俺はガルネリから刀身を受け取ると、魔術により柄を生成し取り付ける。

 ガルネリは俺が陛下から下賜された剣を手に持ち、工房の外へと出ていく。

 俺も後に続く。

 路地に出ると、お互い一定の距離で離れて立つ。

 ガルネリが軽く頷くのを合図に、刀を振るう。

  

「駄目ですね」

 

 地面に落ちた刀身を眺めて、俺は容赦ない一言。

 5度目も刀は無残にも、真っ二つに折れていた。

 ガルネリはがっくりと肩を落とす。

  

「こうポキポキと折られると、わしの心も流石に折れそうじゃ」

「でも、今の刀は私が魔術で生成したものよりいい感じでしたよ!

 この調子でどんどんいきましょう!」

「……簡単に言うてくれるの」

「鍛冶は試行錯誤の繰り返しじゃ!って言ってたのはガルネリさんじゃないですか」

「そうじゃが、少し休ませてくれんかの」

「それもそうですね。一旦、夕食としますか」


 二人の影もだいぶ長くなっており、すでに日没が近い時間帯だ。

 空腹感を感じ始めていた。



 ◇



 俺は慣れた様子でガルネリ工房内にある台所へ立つ。


「ふんふんふん♪」


 元の世界で流行っていたアニメの主題歌を鼻歌交じりに、野菜の皮を剥いていく。

 昨日から調理係は俺の役割だ。

 ガルネリはボヤキながらも、一生懸命俺が追い求める理想の刀を形にしようとしてくれている。

 鍛冶に関しては素人の俺が協力できることがないので、せめてものお礼のつもりだ。

 迷宮で手に入れた、見た目だけならサシが入ったおいしそうな魔物の肉に香辛料をまぶし、強火で一気に焼く。

 表面がこんがり焼けたところで、皿に野菜と共に盛り付け、ガルネリがすでに座っている食卓へと運ぶ。

 疲れからか腕を組み、軽く目を閉じていたガルネリだが、俺が皿を運び近づくと、クワッと目を見開く。


「おお、相変わらずうまそうな飯じゃ!」


 髭ッ面を歪ませガルネリは歓声を上げる。


「今日も一日ありがとうございました。

 食後に6本目に取り掛かってもらいますが」

「鬼か!

 お前さん、わしと最初に会ったときと態度が違いすぎやせんか!?」

「……ガルネリさんに泣かされました」

「今なら言えるが嘘泣きじゃろ?

 絶対そうじゃろう?

 お前さんは子供の皮を被った鬼か何かか?」

「失礼な。

 まあ、嘘泣きでしたけど」

「心配したわしの純情を返せ!」

「あ、でも親がいないのは事実です」

「……それは、すまんかった」

「会話はこれくらいにして、冷めないうちに食べましょう」

「そう、じゃな」


 料理は出来立てが一番おいしいのだ。

 会話を打ち切ると、二人はナイフとフォークを手にする。

 俺は肉をナイフで綺麗に切り分ける。

 ガルネリはナイフの意味があるのか、フォークを肉へとぶっ刺すと、そのまま口に運び、豪快に噛り付く。

 俺も一口サイズに切った肉を口に運ぶ。


(おお、これは美味しい)


 肉のなのに、口の中で塊が溶ける。

 目の前で齧り付いたガルネリも、驚嘆し目を見開く。


「何じゃこの肉は!?」

「迷宮の魔物の肉?」


 首を傾けながら疑問を疑問形で答えてしまう。

 先日の騒動や、休日の迷宮探索で魔物の肉片を大量に収納ボックスに収めていたため、すでに何の魔物の肉であったかわからない状態になっていた。

 

「まぁうまいから何でもいいか!ガハハハっ!」


 ガルネリはあっという間に肉を平らげる。

 それを予想していた俺は一旦席を離れ、台所からフライパンを持ってきて、すでに焼いていたもう一切れをガルネリの皿へと移す。

 皿の上に置かれた肉を満足気にガルネリは眺めると、口を開く。

 

「しかし、これは酒が欲しい。

 こんなうまい飯を前にして酒を飲まないというのは、肉に対する冒涜ではないか。

 お前さんもそうは思わんか!?」


 すごい剣幕で俺に迫るが、


「駄目です」

「ちょびっとくらい飲んでもいいじゃろ」

「駄目です」

「そこをどうにか……!」


 俺よりも一回りも二回りも大きい大人が地面に頭をこすりつけ、泣きながら懇願してきた。

 

(うわぁ……)


 ドン引き。

 別に俺に頼まなくても、ここはガルネリの工房であり家でもあり、好き勝手に酒を取り出して飲めばいいと思うかもしれない。

 普通ならその通りなのだが、昨日も剣が1本完成するとすぐに酒瓶に手を出そうとしたので、俺が工房内にある酒瓶を全部収納ボックスに隔離したのだ。

 つまり、俺に許しを得ないとガルネリは酒を飲むことができないのであった。


「くそ。

 その年から男にそんな態度じゃ、将来好きな男ができた時にうまくいかんぞ。

 男はやはり優しい女子に惹かれるもんじゃからな」

「ガルネリさんって結婚してるんですか?」

「……独り身じゃが」

「説得力ないですね」

「ぢぐじょおおおおおおおおおおおおおお。

 わしは剣に一筋なんじゃあああああああああああ」


 冷めた目で地面にへばりつガルネリを見下ろす。

 そして大きな声で泣き叫ぶガルネリのせいで、来客に気付くのが遅れた。


「ナ――アリスって男を泣かすのが趣味なの?」


 大きな帽子を深く被る少女が、部屋の入口に立っていた。

 帽子から覗く長い耳。

 肩まで広がる青い髪。

 俺をジト目で見つめる少女。

 よく知る仲間の一人、ラフィだ。

 その後ろから、もう一人。

 ひょっこりと大きな身体が姿を現す。

 こっちも俺がよく知っている人物であった。


「よっ! 冒険者の次は鍛冶師を目指してるのか?」


 後ろから現れた人物は、犬耳が特徴的なアレクであった。

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シチューと野菜炒めとステーキで料理は好きだって嘯くのはどうなんだ…… いや、男料理と考えれば……
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