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幕間「蠢く」

残酷な描写を含みます。

苦手な方は注意して下さい。


 王都迷宮の誕生により、王都では多くの冒険者が一攫千金を求め、訪れていた。

 ダニエル・エイジア達のチームも、一攫千金を求め王都へ訪れたAランクチームであった。

 だが、現実は非情。

 迷宮の魔物は想像以上に強かった。

 前衛職であるダニエルもまさか一撃で長いこと旅をしてきた盾がスクラップにされたのには目を剥いた。

 もちろん、他のメンバーも似たような状況に陥り、ダニエル達は迷わず遁走という選択をした。

 

「装備を更新しよう」


 誰が言い出したかは、忘れたが、皆同じことを考えていた。

 魔物の動きには十分対処できる。

 装備さえ更新すれば、迷宮内で活動ができると踏んだのだ。

 噂には尾鰭がつくものと言うが事実、王都では羽振りのいい冒険者が多い。

 中には、たった三人のチームが一日にして数百万稼いだと聞いた。

 ダニエル達に、王都を撤退するという選択肢はなかった。

 都合のいいことに、迷宮の魔物からは普段手に入らないような一級品の素材が採れる。

 王都では、そういった一級品の素材が使われた武器や防具、中には迷宮で発見された遺物武器(アーティファクト)が市場に多く出回っていた。

 そういった品には、当然のことだが、値段は見たことがないような値段が付けられている。

 一級品でなくても、迷宮の魔物に対抗できるだけの武器防具を揃える必要はあり、その為には迷宮の魔物の素材で作られた武器防具を買うのが一番無難であった。

 それらも一級品とまではいかないまでも、当然、普段目にするような武器防具に比べると桁が一つ違う値段であった。

 故にダニエル達は金策をする為、報酬の良い依頼を冒険者ギルドで漁った。

 そして運がいいことに依頼内容未記載ではあるが、Aランクチーム限定の報酬が破格な依頼を見つけた。

 美味しい話には裏があるというが、ダニエル達は迷わず受注することにした。

 理由は依頼主が「アルベール王国」となっていたからだ。

 ギルドには時折、国からの依頼が並ぶことがある。

 国からの依頼は大抵がAランク以上を指名しているにもかかわらず、瞬く間に依頼板からは消える人気依頼だ。

 今回ダニエル達が受注できたのは本当に運が良かった。


「迷宮に潜れと言う神様の思し召しかな?」


 にやりと皆で笑った。

 目標の金額を稼ぐまではもう暫くかかりそうであるが、幸先の良い稼ぎになると思われたからだ。



 ◇



 夜。

 ダニエル達は冒険者ギルドで依頼内容の詳細を聞いた。

 依頼内容は衛兵の護衛であった。

 何でも王都内で起きている人攫いを行う犯罪組織に、魔術の巻物(スクロール)が流通しているらしい。

 魔術の巻物は犯罪に使われる危険があるため、売買は厳しく国に管理されている。

 そんな中で、流通を許されてない種類の魔術の巻物が発見された。

 調べた結果、事情を知っている、またはその犯人と思しき者が浮かび上がり、その者の家を捜索するために念の為、腕がたつ冒険者に護衛を依頼したわけだ。

 商業区の外れ。

 表通りと違い、未だに営業しているのかしていないのか判断できない軒先が並ぶ。

 訪れたのは護衛対象である衛兵は三人、ダニエル達のチームは五人の計八人であった。

 捜査対象の店に着く。

 何の変哲もない家。

 ただ、一般的な家に比べやや大きめの扉、古びて文字が読めなくなってはいるが、恐らく店名が書かれていたプレートがかかっており、辛うじて何かの店であることは予想できた。


「少々尋ねたいことがある!誰かいないか!」


 その古びた扉をドンドンと叩きながら、衛兵が声を上げる。

 暫く反応を待つが、何も反応は返ってこない。

 衛兵がダニエルに目を向ける。


「すまない、頼めるか」

「あいよ」


 ダニエルは扉の前に進み出る。

 一度大きく息を吸うと、扉を蹴り開ける。

 扉の蝶番が外れ、騒音と共に扉が前へと倒れた。

 ダニエルの仲間が先行して店へと踏み込み、その後ろから衛兵達が続く。

 最後にダニエルが店へと入っていった。

 中はよくある店。

 衛兵が周囲を照らす魔道具を取り出し、辺りを淡い光で照らす。

 入るとすぐに店主がいるべき受付机が浮かび上がった。

 だが、整理整頓されておらず帳簿が乱雑に置かれている。

 一応ダニエルも相手は犯罪組織に関わっている可能性がある人物と聞いており、油断せず周囲を警戒する。

 ゆっくりと、衛兵を中心に一階を捜索したが誰もいない。

 奥に進むと暗がりの中、二階へと続く階段が見つかった。

 

「上へ行こう」


 衛兵の一人が声を上げ、それに従い、階段を上がっていく。

 今度はダニエルが先頭を行く。

 階段を上がるたびに、大分傷んでいるのか木が軋む音が響く。

 二階は廊下の先、扉が一つしかない。

 迷うことなくダニエル達は進んでいく。

 扉を開け放つ。

 無人。


「おや、こんな時間にお客様ですか?」

「――!」


 誰もいないと思っていた暗闇から低い声が響く。

 驚き、ダニエルは部屋の中、声がする反対へと飛び退る。

 ダニエルに続き衛兵達が入ってくる。

 衛兵が持つ魔道具が声の主を照らした。

 薄汚れた外套を身に着けた男。

 魔道具の照明では暗く、男の顔や表情まではよくわからない。 


「お前に違法で魔術の巻物を犯罪組織に横流ししている疑惑がある。

 詰所まで同行を願おうか」


 衛兵の一人が罪状が書かれている紙を男へと突き出す。

 有無を言わさず、残り二人の衛兵が連行すべく男の横へと移動する。

 暗闇の中、表情が見えないはずの男が笑った気がした。


「――!」


 男を連行すべく近づいた衛兵二人の首が突然宙を舞い、頭の無くなった胴体から血飛沫が舞う。


「き、貴様、な、なにを!?」

 

 何が起こったのか理解できない衛兵は声を荒らげる。


「下がれ!」


 ダニエルが衛兵を突き飛ばし、後ろへと追いやる。

 追いやった瞬間、何かが左肩を通過した。

 ゴトっと床に何かが落ちる音。

 ダニエルの腕だ。


「ぐああああああああああっ!」


 認識した瞬間に壮絶な痛みが襲う。


(何が起こっている!?)


 目の前の男が何をしているのか、全く分からない。

 分からないが、間違いなく目の前の奴はやばい。

 頭の中で警鐘がガンガンとなり響く。

 長年の冒険者の勘が「退け!」と訴えると同時に「逃げられない」と訴える。 

 結論は目の前の相手と対峙するしかない。

 

「ダット! 俺が左から行く! 挟むぞ!」


 指示を飛ばす。

 ダニエルと同じ前衛職ダットとは十年来の付き合い。

 そして気付く。


「ダット……?」


 「おう!」と、いつもの返事が返ってこない。

 ダットだけでない。

 訝し気に横を見ると、静かに、折り重なるように。

 仲間だった影が床に倒れていた。

 付き飛ばしたはずの衛兵もすでに事切れている。

 今更のように血の臭いが鼻へと突き刺さる。

 パチパチパチと。

 この場に似つかわしくない、乾いた音が響く。


「いやはや、お見事です!

 あなただけが(わたくし)の一撃を避けました!」


 男の言葉を理解できない。

 ドクドクと脈打つ心臓の音に合わせて、肩口の痛みがじくじくと響く。

 理解できないが、やったのは目の前の男であることだけはわかった。


「お前えええええええええええええええええええ!」


 右手で剣を抜き放ち、男へと斬りかかる。

 が、ダニエルがそれ以上前へと進むことはなかった。


「はい、残念♪」


 上半身と下半身が切り離されていた。

 勢いのまま上半身だけが床へと落ちた。

 睨みつけるようにダニエルは男を見上げた。

 愉快気な声を男は上げながらダニエルに近づくと、頭を踏みつぶす。

 ダニエルがそのことを理解することはなかった。



 ◇



「いやいや、王国の捜査力も中々あなどれませんね」

「思ってもないことを、よくもペラペラと」

「あれ、いたんですか?」


 誰もいないと思われた闇から、また一つ影が落ちる。


「いるさ。それに俺もお前もこれ以上の失敗は許されない」

「ええ、その通りです。

 そしてその為の餌に、王国はまんまと引っかかってくれたみたいです」

「ならいいがな」

「ええ。

 祭が始まるまで、せいぜい私と踊ってもらいますよ。

 クフフフフ」

「程々にとは言わない。存分に踊れ」


 夜が静かに更けていく。

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― 新着の感想 ―
時々、作者の頭大丈夫か?って思える誤字というか変な表現あるな
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