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KAITO:2017 - The Young Detective

作者: 志室幸太郎

『遺族、特にご婦人には注意しろ。犯人の動機がわからない以上、狙われる可能性も大きい。子供もまだ小さい。一人残されたことに耐えかねて、自ら命を絶つ可能性もゼロとは言い切れないからな』


 スマートフォンを操作し、上司からのメッセージに『了解です』と短くメッセージを返す。

 それから画面を暗転させて角度を変え、電車の窓から外の景色を見る女性の姿を確認した。

 栗原マイコ。先日通り魔に殺された栗原ケン氏のご婦人だ。さらにスマートフォンを傾けると、ベビーカーが映る。まだ子供も幼いというのに……許しがたい事件だった。


 俺は高校に通う普通の学生だが、上司……とある知り合いの私立探偵の助手のような仕事をたまにしている。

 先日の通り魔事件に何か引っかかるものを感じたらしい上司が、俺に遺族の監視を依頼してきたので、こうして後をつけさせてもらっているというわけだ。

 最初はストーカーのようで若干気が引けたけど、いくつか事件に関わるうちに慣れてしまった。


 T線の電車が海沿いの線路に差し掛かり、長いカーブが始まった。スマートフォンの画面の中で、栗原マイコがよろめくのを見た。

 監視対象との接触は厳禁だけど、なんとなく声をかけずにはいられなかった。


「次の駅までカーブ続くんで、座りませんか? この場所良かったらどうぞ」


 俺は立ち上がって、自分の座っていた席を手で示す。


「あ、いえいえ。ここで外を見ていたくて。ありがとうございます」


 栗原マイコは慌てて言いながら首を振った。その顔には疲労の色が滲んでいる。

 やはり旦那さんを亡くした悲しみを、未だに処理しきれていないのだろう。上司の指示は的確だったと言えるかもしれない。

 一人思い悩んでいると、向かい側に座っていた初老の女性が立ち上がり、こちらへやってきた。


「じゃあ、私ここに座らせてもらおうかしら」


 俺は思わず栗原マイコと目を見合わせてしまった。おそらく俺の気遣いにさらに気を遣ってくれたのだろうけれど、俺は予想外の第三者の介入に少し混乱した。

 初老の女性はそんな俺の様子を気にすることもなく、俺が座っていた場所に腰を下ろした。


「ママは綺麗な人だねぇ。素敵なママでいいわね」


 その言葉を聞いて、栗原マイコは照れたようにうつむいた。

 俺は少し安堵した。まだ照れて笑う程度の心の余裕はあるようだ。


「あなたは私の隣に座るのは嫌かしら?」

「あ、いえ、そんなことはないです」


 初老の女性に言われて、今度は俺が慌てて首を振る。

 若干監視に支障が出るが、自分で蒔いた種だから仕方がない。俺はその女性の隣に腰を下ろした。


「娘がいるのだけれどね、まだ結婚していないのよ。こうしていると自分の孫みたいでちょっと嬉しいわね」


 隣の女性がベビーカーの中を覗き込みながらそんなことを言い出した。


「あなたはパパにしちゃ若いわね」

「え?」


 突拍子もない発言に思わず声が出る。が、それを見て栗原マイコが笑ったので、俺の口元も少しゆるむ。


「若すぎるわよね、パパなんて呼ばれるのは随分先だもの」

「はあ、子供は好きですけど……」


 俺が愛想笑いで答えると、初老の女性は顔に皺を寄せて笑った。


「良いパパになるわよ」


 どこまで話を飛躍させる気だこの人は……。


「私もそう思います」


 突然栗原マイコまで話に参加してきて、俺は恥ずかしくなってうつむくことしかできなかった。


 これ以上は黙っていよう。収穫は充分にあった。


 彼女は大丈夫だ。まだ生きようとする意志がある。


 だとすれば、俺のやることは一つ。


 彼女を死なせない。必ず犯人を見つけ出してみせる。

・オムニバス企画参加作品

 KAITO:2017 作者:ちや。

 http://ncode.syosetu.com/n7921dg/

 MAIKO:2017 作者:梛

 http://ncode.syosetu.com/n8002dg/

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